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量研機構が「HIMAC」25周年で記念講演、「がん死ゼロ健康長寿社会」を目指し

2019年6月6日

「HIMAC」では技術開発により、がんの形状に応じ精密な治療を可能にしてきた(写真は新治療研究棟内、回転ガントリーで治療台を傾けずに重粒子線を照射できる)

 量子科学技術研究開発機構は6月5日、重粒子線がん治療装置「HIMAC」(千葉市・放射線医学総合研究所)が臨床試験開始から25年を迎えたのを記念する講演・パネル討論会を都内で開催した。
 「HIMAC」は、外科手術や化学療法に比べて身体への負担が軽い放射線療法の中でも、特にがんの殺傷効果が高く、かつ正常組織へのダメージが少ない治療を提供する装置として、1994年に臨床試験を開始。2003年には厚生労働省より高度先進医療の承認を受け、これまで12,000例を超える治療実績を積んできた。さらに、「HIMAC」が設置される放射線医学総合研究所は、「痛みがなく、患者の負担が軽い」治療の普及に向けて、装置の小型化・コスト削減を目指す研究開発や人材育成・技術支援をリードするなど、現在国内6か所で展開される重粒子線がん治療のトップランナーとなっている。
 講演会では、量研機構の平野俊夫理事長、辻井博彦QST病院副病院長らが重粒子線がん治療のこれまでの歩みや将来展望について発表したのに続き、日本対がん協会会長の垣添忠生氏が登壇。「高齢社会をイキイキと生きる」と題し講演を行った垣添氏は、高齢で活躍中の著名人として、放射線医学総合研究所の設立に関わった中曽根康弘氏や、瀬戸内寂聴氏(小説家)、篠田桃紅氏(書道家)らをあげながら、今回のテーマである「がん死ゼロ健康長寿社会」を目指し、次の25年に向けて「HIMAC」のさらなる進化に期待した。
 垣添氏は、映画「バベットの晩餐会」が描く、牧師の死により争いが絶えない村人たちが美味しい料理で打ち解けるようになったストーリーを例に、「食べることは人間の平和につながる」と、食の重要性を訴えた。また、「空を飛ぶものは飛行機以外、四足のものは机以外、何でも食べる」といわれる中国人の食に対する関心の高さなども紹介。その上で、「最期まで口からものを食べるのは、人間の幸福であり尊厳。『HIMAC』はそれを支える重要な一翼を担う」と強調した。

パネル討論の模様、平野理事長(右端)が量研機構の各部門が持つ超伝導やレーザー加速器などの技術力を強調

 「がん死ゼロに向けて、重粒子線治療に期待するもの」と題するパネル討論は、神奈川県立がんセンター重粒子線治療センター長の鎌田正氏(コーディネーター)、佐賀国際重粒子線がん治療財団理事長の中川原章氏、朝日新聞科学コーディネーターの高橋真理子氏、厚生労働省医務技監の鈴木康裕氏、東京大学大学院医学系研究科特任教授の田倉智之氏、東京医科歯科大学特任助教の坂下千瑞子氏が登壇。患者の受益と負担の関係、装置の小型化・コスト削減などを巡り意見が交わされ、「HIMAC」による治療を受けた坂下氏は「素晴らしい日本の技術を世界に発信すべき」としたほか、ジャーナリストとして高橋氏は情報公開とオープンな議論を、重粒子線治療施設「サガハイマット」の運営に係る中川原氏は人材確保の課題を、医療経済の専門家として田倉氏はQOL向上の定量化を訴えた。また、鈴木氏は、周辺観光地と組んだ医療ツーリズムによる海外の患者へのアピールや、AIを活用した人材不足解消策に言及した。