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エネ研セミナー:「韓国・文政権の脱原子力政策、継承されない可能性も」

2019年6月14日

 日本エネルギー経済研究所は6月12日、立命館大学国際関係学部でエネルギー・原子力政策等を専門分野とする林恩廷(イム・ウンジョン)助教(=写真)を講師として招き、韓国のエネルギー・原子力政策に関するセミナーを都内で開催した。

 韓国では、エネルギー自給率の低さをカバーするために原子力推進政策を取るなど、エネルギー政策において日本と共通する面が多かった。しかし、2017年に発足した文在寅政権は、同年6月に脱原子力政策への転換を宣言。再生可能エネルギーの拡大政策を閣議決定する一方、海外への原子力輸出については、アラブ首長国連邦(UAE)での受注成功例を弾みに、韓国政府は産業界や金融機関と力を合わせて継続していく考えを表明した。

 林助教は、政府のこうした方針に対して、韓国国内でもすでに反発の声や懐疑的な意見が強まり、将来的に継承されない可能性があると指摘。人材確保面ではすでに問題が出はじめており、国策だった原子力からのフェーズアウトが宣言された途端、ソウル大の大学院には優秀な学生が集まらなくなったという。このような韓国のエネルギー・原子力情勢について、同助教は日本との比較も交えて次のように説明している。

日本と良く似た原子力背景事情

 韓国では、一次エネルギー供給における原子力シェアが2006年に15.9%だったが、10年後の2016年に11.6%へ低下した。総発電電力量における原子力シェアも、2006年頃までは35~40%だったが、近年は30%に落ち、代わりにLNGと石炭による火力発電が増加した。
 原子力を巡る歴史的背景としては、南北が分断された当時、電力生産施設の8割近くが北朝鮮にあったため、電力供給に多大な困難が生じたという事実がある。資源も国内には存在せず、これを克服するために韓国は1956年に米国と原子力の非軍事的利用に関する協力協定を締結し、米国から導入した研究炉を1962年から運転。米国と同盟を結ぶ段階までは日韓は良く似ていたが、この時点で韓国は日本から遅れること7年という差が生じている。
 米国と締結した原子力協力協定については、日本の場合、米国から移転された核物質の再処理と濃縮が米国に受け入れられたのに対し、韓国では許されなかった。このため、2015年に米韓で新協定が発効した際の有効期間を20年間に半減させ、柔軟性を持たせることに成功。新しい乾式再処理技術を、米国と共同研究し続けられるようにしている。

原子力設備が「ゼロ」になるのは2080年
 現在、韓国の商業用原子力発電設備は24基、約2,250万kWで、昨年6月に運転を停止した月城1号機もこれに含まれる。差し当たり「停止中」という扱いだが、同炉が再び動くことは恐らくないだろう。
 原子力発電の今後の展望としては、2009年から2013年までにすでに着工済みだった新ハンウル1、2号機と新古里4号機の作業を継続。2017年の公論化委員会勧告を受けて、近年着工したばかりの新古里5、6号機の建設工事も再開しており、文政権の任期中はこれらの原子炉により、原子力発電設備容量は一時的に伸びる見通しである。
 一方、2017年12月に策定された「第8次電力需給基本計画」によると、新ハンウル3、4号機と天地1、2号機、およびサイトと呼称が未定の2基を加えた6基の建設計画が白紙化され、稼働中の古い原子炉10基は運転認可の更新を行わない方針。政府の長期目標では、原子力設備がゼロになるのは2080年ということになる。

文政権の「ツートラック」原子力政策
 このように文政権の考え方としては、国内では原子力を段階的に削減する一方、海外では輸出を奨励・支援することにより、関連ビジネスをきっちり確保し、原子力産業界や人材のプールを維持するという「ツートラック・アプローチ」になる。バックエンド・サイクルや廃炉分野、およびSMRや放射線の活用など、将来的に有望な分野を国内で育成して、産業構造の転換をサポートするとしている。韓国は実際、サウジアラビアやチェコ等に対して原子力輸出をアピールしており、国際的に「国内の脱原子力政策と矛盾している」との批判が高まっている。
 文政権はまた、長期的な「脱原発」を目指して原子力への依存度を徐々に下げていくことを、「エネルギー転換」と呼び直しており、こうした方針への反発は国内でも強まる傾向にある。理由としては脱原子力にともなう(1)PM2.5など大気汚染の深刻化、(2)気候変動への取組み、(3)エネルギー供給の安全保証、(4)原子炉輸出の妨げになるという懸念、(5)ほかの電源における課題や貧弱さ――が挙げられる。

 これに対して、日本では福島第一原子力発電所事故以前の原子力政策に「一部回帰」している部分が認められ、全般的な世論との食い違いが発生。現実的に核燃料サイクルの問題や、エネルギー市場の自由化と自治体等との関係といった問題が絡んでいると認識している。
 また、福島第一発電所事故以降、日本からの原子力輸出は難航しているが、信頼の回復に取組みながら廃炉や除染、SMR等で新たなニッチ市場を開拓していくべきである。これらの分野で、日本は他の国が経験していないことを経験済みであり、ノウハウやデータなど発信できる部分があると考えている。

 (参照資料:林恩廷助教の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)