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IEA原子力レポートでシンポ、運転期間延長やPA問題など議論

2019年8月30日

  国際エネルギー機関(IEA)が5月に発表した原子力レポート「Nuclear Power in a Clean Energy System」を紹介し、今後の原子力・エネルギー問題について議論するシンポジウムが8月28日、都内で開催された(=写真)。日本エネルギー経済研究所が主催。
 同レポートでは、IEAが毎年秋に発表する将来のエネルギー需給に関する見通し「World Energy Outlook」(WEO)をベースに、プラントの高経年化に伴う閉鎖や投資の停滞などを想定した「原子力縮小ケース」が及ぼす様々な影響について説明している。CO2排出量の急増に警鐘を鳴らすとともに、電力自由化が進み原子力が市場競争で苦戦しつつある先進国に対し、投資リスクの低減、新技術の開発、人材確保などの政策提言を示しており、原子力に焦点を当てたIEAレポートとして注目されている。
 シンポジウムではまず、IEAチーフエコノミストのラズロ・バロ氏が同レポートについて説明。発電コストに関する米国の分析例を図示し、既存の原子力発電所の運転期間延長については、新規建設の3分の1、太陽光の4分の1、ガスコンバインドサイクルの半分となることから、コスト面で競争力があり「60年の運転期間は現実的」などと述べた。また、同レポートの「原子力縮小ケース」に関し、先進国全体の原子力設備容量が2040年までに3分の1にまで縮小する推移を図示。その上で、日本に関しては、原子力の縮小分を代替する低炭素化システムとして、太陽光パネルでは4,000平方km分、洋上風力発電では現在のドイツの2倍規模が必要となるほか、CO2回収・貯蔵(CCS)を導入するのも単独では困難なことを述べ、「原子力に替わるインフラ開発は極めて大規模なものとなる」と指摘した。
 パネルディスカッションでは、政策研究大学院大学教授の根井寿規氏が進行役を務め、バロ氏に加え、立命館大学国際関係学部助教のイム・ウンジョン(林恩廷)氏、WWFジャパン自然保護室専門ディレクターの小西雅子氏、電気事業連合会副会長の月山將氏が登壇。
 IEAレポートを受け、小西氏は原子力と化石燃料を段階的に廃止し自然エネルギーに置き換える「脱炭素社会に向けた長期シナリオ」を披露し、省エネ技術の普及・進歩で最終エネルギー消費は2050年までに約半分にできることを示した。日韓比較政治経済が専門のイム氏は韓国の大気汚染問題を述べた上で「使用済み燃料問題も未解決。『クリーン』のイメージがどれだけ受け入れられるのか」などと、原子力の評価に関して疑問を投げかけた。また、原子力事業者の立場から月山氏は、再稼働の進展状況・見通しを示し、「2050年に向けては60年運転だけでは難しい」として、将来的には新増設・リプレースが不可欠なことを強調。さらに、福島第一原子力発電所事故の関連で、経済産業省で国際対応に当たった経験を持つ根井氏が「日本では原子力の安全性に対する懸念が高まっている。一方、欧米では『事故はもう終わったもの』として思われてはいないか」と、原子力PAに関する問題を提起した。
 バロ氏は、「運転期間が長ければコストを低減できるが、これに伴う政治的な難しさもある」などと、原子力利用に伴う使用済み燃料の取扱いや立地・PAの問題を改めて強調。小西氏は英国のステークホルダー対話の経験から地震に対する日欧間の意識の違いについて述べ、イム氏は福島第一原子力発電所事故以降増大している韓国国民の不安感から「粘り強くコミュニケーションを続けねばならない」と、原子力を利用する国にとってPAが共通課題であることを示唆した。

*原子力レポート「Nuclear Power in a Clean Energy System」について詳しく知りたい方は、日本エネルギー経済研究所原子力グループ研究員・木村謙仁氏による 解説 もご覧下さい。