解説 原子力発電所の運転延長に係る海外動向 ー実績では米国が先行、近年は各国で取組みが進展ー

2019年3月19日

一般財団法人日本エネルギー経済研究所

 2019年3月現在、世界で運転中の原子炉は453基((IAEA PRIS,< https://pris.iaea.org/PRIS/home.aspx >accessed 2019-02-28))あり、そのうち99基が運転開始((原子炉の運転開始の定義は、各国の法令により若干の違いがある。本稿における図表上の「運転開始」は、IAEA PRISに記載された各発電所の初併入(First Grid Connection)が行われた日付を指す。なお、日本における営業運転は「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」に定める使用前検査合格後の運転を指すため、初併入後、調整運転(通常1ヶ月程度)を経た後の日付を指すため上記定義とは若干の違いがある。)) から40年を超えて運転している((IAEA, Operational Reactors by age,<https://pris.iaea.org/PRIS/WorldStatistics/OperationalByAge.aspx >accessed 2019-02-28))

 

図 1 運転期間毎の原子炉基数の分布 (出所)IAEA PRIS

 

 原子力発電所を有する主要先進国(以下、本稿では、米国、日本、フランス、英国、カナダおよび韓国とする。)((先進国について一般に合意された明確な認定基準は存在しない。このため、本稿では、OECD加盟国における、原子炉保有基数の上位6カ国、即ち、米国、日本、フランス、英国、カナダおよび韓国を原子力分野における主要先進国と定義する。))における運転期間延長制度を俯瞰すると、国ごとに若干の違いはあるものの、各国とも科学的に安全性が確認された原子炉については運転開始後40年以降も運転が認められる点で一致している。

 上記6カ国のうち、原子力発電所の運転期間について法律で一律40年と規定する国は、米国・日本のみであり、その他の国については、フランス、英国および韓国は、期間による一律の上限は設けず10年毎実施を義務付けた定期安全レビュー(Periodic Safety Reviews, PSR)で安全性が確認された原子炉について運転継続を認める取扱いである他、カナダについては、原子炉ごとに当初運転期間を規定し、それ以後も安全性が確認された場合には運転を認める取扱いとなっている。((各国諸制度の詳細については、柴田(2018),「我が国の原子力発電所運転期間延長手続きとその課題―関係法令・運用に関する分析と国際比較―」< https://eneken.ieej.or.jp/data/8097_summary.pdf>(平31.2.28最終アクセス)を参照。))

 

表 1主要先進国における原子炉の運転期間に関する規定

 

(出所)各種法令より 日本エネルギー経済研究所作成

 

 米国は、運転期間に関して日本と同様に40年の制限を設けているが、2019年3月現在、同国で運転する98基の原子炉のうち90基については、運転期間を20年間延長し、60年間の運転を可能とするライセンス更新が認可されており、加えて1基が同延長に係る規制当局による審査中であるなど((NEI, U.S. Nuclear License Renewal Filings,< https://www.nei.org/resources/statistics/us-nuclear-license-renewal-filings>(accessed 2019-02-28)※なお、ライセンス延長は94基の原子力発電所について認められているが、ライセンス延長後、事業者の都合により閉鎖を決定したプラントが4基あるため、運転中の原子炉で延長が認められている基数は90基となっている。))、同国では運転開始後40年経過後も引き続き原子炉を使用することが、一般的取扱いとなっている。

 米国の原子力発電所の運転期間延長については、CFR Title10 Chapter I Part 54で定められている。当初ライセンス期間の40年は、NRCから延長認可を得ることで、20年を超えない期間で延長することが可能であり(§ 54.31 Issuance of a renewed license)、運転期間延長認可の更新回数の上限は定められていない((U.S Government Publishing Office, Code of Federal Regulations Title 10 – Energy Chapter I – NUCLEAR REGULATORY COMMISSION (CONTINUED) Part 54 – REQUIREMENTS FOR RENEWAL OF OPERATING LICENSES FOR NUCLEAR POWER PLANTS, < https://www.gpo.gov/fdsys/pkg/CFR-2014-title10-vol2/pdf/CFR-2014-title10-vol2-part54.pdf > accessed 2019-02-28))。(即ち、規制当局の認可が前提となるものの、安全性が証明された原子炉は、制度上、60、80年と20年の節目ごとにライセンス更新の認可を受けることで運転期間を順次延長させることが可能である。)

 このため、近年、同国では60年運転の先、80年運転を目指した動きが活発化しており、2019年3月現在、ターキーポイント原子力発電所3・4号機、ピーチボトム原子力発電所2・3号機、サリー原子力発電所1・2号機の計6基に関し、事業者から規制当局へ2回目のライセンス延長申請が行われている他、ノースアナ原子力発電所1・2号機についても、運営会社であるドミニオン社から、規制当局に対し2020年末までに申請を行う意向を記載したLOI(Letter of Intent)が提出されている((U.S.NRC, Status of Subsequent License Renewal Applications<https://www.nrc.gov/reactors/operating/licensing/renewal/subsequent-license-renewal.html> accessed 2019-02-28 ))。

 同国における原子炉の運転延長は、その可否について規制機関が審査し、安全性を担保したうえで進められているが、運転開始から40年が経過した原子炉についても、運転期間が40年未満の原子炉同様に安全かつ安定した運用が可能であることは、運転実績の面からも示されている。

 図2は、2005年以降の米国における原子力発電所の設備利用率を示している((米国においても、日本同様に定格熱出力一定運転が認められている。このため、事業者は、当局に原子炉の電気出力を申請するものの、当該数値は運転制限値ではなく、原子炉の熱出力に関する上限内で発電が可能であれば、申請した電気出力以上の出力で発電を行うことが可能である。本稿における原子力発電所の設備利用率は当該発電所の発電量を申請電気出力で除した数値であるため、一部発電所においては、年間の設備利用率が100%を上回ることがある。))。(運転開始後41年未満の原子炉の設備利用率を青点、41年以降の原子炉の設備利用率を赤点(菱形)で描画((41年以降の原子炉において、50%以下の設備利用率の炉が存在しないため、本図では50%以下の数値について省略している。(50%以下の設備利用率の原子炉は、運転期間41年未満の原子炉でのべ9件見られた。)))したうえで、それぞれに近似直線(41年未満は青色点線、41年以降は赤色点線)を付している((厳密に40年未満と40年以後で評価することが理想であるが、データ制約上、設備利用率の年次データしか得られないため、赤点に40年未満の稼動実績が算入されない(40年以降の実績のみが算入される)保守的な評価として41年を評価基準とした。))。)この図から、赤点・青点は概ね同様に分布しており、運転延長を行った原子炉においても、運転延長前の原子炉と同等かそれ以上の良好な稼動率を維持していることが見て取れる。

 

図 2 原子力発電所の運転期間と年平均設備利用率
(出所)IAEAより 日本エネルギー経済研究所作成

 

 図3は、図2と同様の要領で、原子炉の計画外停止時間を運転開始後41年未満の原子炉と41年以降の原子炉で比較したもの((41年以降の原子炉において、計画外停止時間1500(時間/年/炉)以上の炉が存在しないため、本図では1500時間以上の数値について省略している。(計画外停止時間1500(時間/年/炉)以上の原子炉は、運転期間41年未満の原子炉でのべ13件見られた。)))であるが、本図から、運転延長を行った原子炉の計画外停止時間は、運転延長前の原子炉と比較して遜色ない水準であることが見て取れる。

 原子炉の計画外停止時間は、原子力発電所が機器故障や外部事象に起因する停止を抑制し、当初計画どおりの運転を達成できたか否かを示す、原子炉の安全性を測るうえでの重要指標の一つとされている。ゆえに、この比較からは、運転延長後の原子炉の安全性が運転延長前の原子炉と比較して同等以上の水準であるものと見做すことができる。

 

図 3 原子力発電所の運転期間と計画外停止時間 (出所)IAEAより 日本エネルギー経済研究所作成

 

 従来、原子炉の運転延長に向けた動きは、世界最多の原子炉基数を有し、原子力発電の分野で長い歴史を持つ米国が先行する形で行われていたが、近年では、同国以外においても、運転延長に向けた取組みが見られるようになった。以下、一例として、2018年に取り上げられた報道から主要なものを一部抜粋する。

 

表 2 原子炉の運転延長に関する主要報道(2018年)

(出所)原子力産業新聞をもとに作成((表2の記事の出所は日付昇順で以下のとおり。
 <https://www.jaif.or.jp/180326-a>(平31.2.28最終アクセス)
<https://www.jaif.or.jp/180621-a>(同上)
<https://www.jaif.or.jp/180604-a>(同上)
<https://www.jaif.or.jp/180831-a>(同上)
<https://www.jaif.or.jp/181016-a>(同上)
<https://www.jaif.or.jp/181107-1>(同上)
<https://www.jaif.or.jp/181213-a>(同上)
<https://www.jaif.or.jp/181019-a>(同上)
 ))

 

 

 上記のとおり、近年では米国のみならず、フランス、フィンランド、ウクライナ等の欧州諸国やロシアなど、比較的早い年代に原子力発電を導入した国々において、原子力発電所の運転延長に向けた動きが活発化している。また、運転延長の流れは、日本においても例外ではなく、PWR型では、関西電力の高浜1、2号機、美浜3号機が60年運転に際して必要となる原子力規制庁の審査に合格し、現在、再稼働に向け工事が進められている。また、2018年11月には、原子力規制委員会がBWR型である日本原子力発電の東海第二原子力発電所に対し60年運転を認可するなど運転延長に向けた動きが見られている。

 地球環境保護の観点から原子力利活用への関心が世界的な高まりを見せるなか、既設炉の運転延長についても、その新設と並んで、課題解決のための有力な選択肢として国際的に大きな期待が寄せられつつある。

 これらの動きは、日本のエネルギー政策の将来に対し重要な示唆を与え得るものと考えられるため、国際動向について注視するとともに、日本における対応について検討することが引き続き重要であると言えよう。

以 上

お問い合わせ先:企画部 TEL:03-6256-9316(直通)