シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」

【10】原賠法・補償契約法の改正

 今回は、「原子力損害の賠償に関する法律」及び「原子力損害賠償補償契約に関する法律」と関係政省令の改正についてQ&A方式でお話します。

q1
(原賠法の主な改正点)
今回の法改正では、主にどのような点が改正されるのですか?
a1
主な改正点は次の通りです。

  • 賠償措置額が2倍に引き上げられ、600億円から1200億円になり、特例額も2倍になります。また、補償契約に係る補償料率は、制度創設以降初めて40%引き下げられます。
  • 廃止措置など、事業行為終了後の損害賠償措置には、リスク低減を合理的に反映した特例額の創設が行われます。
  • 紛争調査会の役割として、新たに賠償の参考となる指針(原子力損害の範囲の判定など)を策定することが追加されます。
  • 原子炉等規制法における罰則の厳格化を踏まえ、罰則が引き上げられます。

【A1.の解説】

 我が国の原賠制度は原子力に関わる環境変化に対処するため、概ね10年ごとに見直されてきました。今回の改正では、前回の法改正(平成11年5月)以降に発生したJCO臨界事故(平成11年9月)の教訓、我が国保険会社の引受能力の向上、欧州先進国における動向などの情勢を踏まえて、関係法令の改正事項は次の通りであり、平成22年1月1日より施行されます。

(1) 時限条項である補償契約の締結・政府の援助に関する規定の適用期限の延長(原賠法20条)

 現行法では、政府による補償契約の締結及び援助の期限が平成21年12月末日で切れてしまいますが、引き続きその必要性が認められるため、10年間延長されます。今回の法改正はこの期限切れをきっかけに制度全体の見直しを行うものです。

(2) 賠償措置額の引き上げ(原賠法7条1項、施行令2条の表)及び補償料率の引下げ(補償契約法施行令3条1項)

 保険会社の引受能力の向上や賠償措置額に関する国際動向(改正パリ条約における事業者の賠償責任額の7億ユーロへの引上げ等)を踏まえて、現行の600億円から1200億円に引き上げられます。これに合わせて加工・使用等に係る賠償措置額の特例額が現行の120億円又は20億円(種類に応じて分類)からそれぞれ240億円又は40億円に引き上げられます。
 また、補償契約に係る補償料率については、制度創設以来変わらず1万分の5(教育機関における原子炉の運転等については1万分の2.5)でしたが、最新の知見、保険市場の評価、契約実績等を踏まえて、今回初めて40%引き下げられ、1万分の3又は1万分の1.5になります。

(3) 事業行為終了後の賠償措置の合理化

 原子炉などの廃止措置に伴い、事業行為終了後にサイト内で行われる核燃料物質等の運搬等の付随行為について、付随行為の相対的リスクに照らして合理的な額の賠償措置額の特例額が創設されます。
例えば1万kWを超える原子炉の場合、運転中は1200億円(現行は600億円)、使用済み燃料を炉心から取り出した場合は240億円(現行は600億円)、使用済み燃料を事業所から搬出した場合は40億円(現行は600億円)となります。

(4) 紛争審査会による賠償の参考となる指針の策定(原賠法18条等)

 JCO臨界事故の損害賠償では、膨大な数の請求、現場の混乱、当事者の心理、事案間の一定の類似性など原子力損害賠償の特殊な性質が明らかになり、科学技術庁(当時)により設置の「原子力損害調査研究会」が損害認定判断基準等の作成を行いました。
これを踏まえて、賠償に関する紛争を当事者が自主的に解決することを促進するため、紛争審査会の所掌事務として、新たに原子力損害の範囲の判定や損害額の算定方法に関する基本的な考え方など、賠償の参考となる指針を定めることが追加されます。

(5) 補償契約事務の一部を損害保険会社へ委託(補償契約法に新設)

 万一政府の補償契約の対象となる事案が発生した場合に、膨大な事務の遂行を確保し、被害者の円滑な救済を図るため、補償契約に基づく政府の業務の一部について、損害保険会社への委託が可能になります。

(6) 罰則の引上げ(原賠法24条、25条)

 原賠法では、事業者又は職員に対する罰則規定が設けられています。前回の原賠法改正以降の原子炉等規制法における罰則の厳格化を踏まえ、今回の原賠法改正において、罰則が現行の20万円以下の罰金から100万円以下の罰金に引き上げられます。

より詳細な解説はこちら

q2
(法改正後も引き続き検討を行う事項)
原賠制度に関して、今後はどのようなことが検討されていくのですか?
a2
今回の改正に関連して、文科省の「原子力損害賠償制度の在り方に関する検討会 第1次報告書」には、引き続き検討を行う事項に次の2つが挙げられています。

  • 原賠制度の運用ガイドライン(仮称)の作成:JCO臨界事故の経験を踏まえた損害賠償対応のマニュアル化を行って、制度の円滑な運用を期すことにより、万が一の際の被害者の適切、迅速、公平な保護・救済が図られることとしています。
  • 原子力損害賠償に関する国際条約への対応の検討:原子力損害賠償に関する国際条約や国際的な原子力利用の拡大等の近年の国際動向を踏まえると、我が国の制度を充実させるだけでなく、原子力損害賠償に関する国際秩序への我が国の関り方を検討することとしています。

【A2.の解説】

①原子力損害賠償制度の運用ガイドラインの作成

 原子力損害賠償制度の運用に関する事項について、JCO臨界事故の際の損害賠償の対応を振り返りつつ、万が一原子力損害が発生した際の関係者の行動マニュアルとなるような「運用ガイドライン(仮称)」が政府によりまとめられることになっています。
 このガイドラインにおいては、関係者が紛争解決を支援するに当たってさまざまな状況に即して期待される対応や、一般的に想定される賠償の手続き、必要となる書類、望ましい調整の在り方等、円滑な賠償の履行の確保に資する事項が包括的に整理される予定です。

②原子力損害賠償に関する国際条約への対応の検討

 原子力損害賠償に関する国際枠組みについては、現時点では我が国が直ちに参加すべき状況にはないとされていますが、将来国際条約の締結を本格的に検討していく際の選択肢としては、我が国原賠法と親和性があること、締約国カンの拠出金による賠償措置の強化が望めること、米国が批准したこと、アジア周辺諸国を含めた幅広い国の参加の可能性があること等から、CSCを念頭に置くことが適当であるとされています。
 また、以下の各課題について、我が国にとっての利益及び負担、条約締結に向けた近隣諸国等との協調の在り方などが検討される必要があります。

<政策的課題>

 アジア諸国での越境損害の対応の明確化と我が国被害者の保護、我が国原子力産業の国際展開の支援、各国の損害賠償措置を保管する国際的資金措置、原子力導入国等における原子力損害賠償制度の整備・充実等、国際条約を締結することの意義を多角的に検討する必要があります。

<制度的課題>

 我が国原賠法や民事法制との整合性を確保すべき課題として、拠出金の負担に関する国内制度の創設、少額賠償措置額に係る公的資金の確保、専属的な国際裁判管轄・準拠法の整備、責任保険の効力の継続性の確保等を慎重に検討していく必要があります。

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