シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」

【25】震災による原子力事故に伴う原子力損害賠償

 今回は、去る3月11日の東日本大震災によって発生した東京電力(株)福島第一、第二原子力発電所事故の原子力損害賠償についてQ&A方式でお話します。

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(震災による原子力事故の損害賠償)
3月11日の東日本大震災によって発生した東京電力(株)福島第一、第二原子力発電所事故の原子力損害賠償はどのように行われますか?
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  • 原子力事故に伴って発生した原子力損害の賠償は、「原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)」に基づいて行われることとなります。
  • 現時点の政府見解では、当該事故による原子力損害の賠償は、原子力事業者である東京電力(株)が一義的に賠償責任を負うことを前提に各種手続きが進められています。
  • 当該事故は地震、津波によって発生したため、事業者の賠償による損失は政府と事業者の間に締結された「原子力損害賠償補償契約」に基づいて、政府が1発電所あたり賠償措置額である1200億円まで補償します。
  • 事業者による損害賠償額が賠償措置額(1200億円)を超えた場合には、政府は原賠法の目的を達成するために必要と認めるときは、事業者が損害を賠償するために援助を行うこととなっています。
  • 原賠法に基づき文部科学省に設置された「原子力損害賠償紛争審査会(紛争審査会)」は、原子力損害の範囲を判定する指針等の策定や、紛争の和解の仲介を行うこととなっています。

【A1.の解説】

 平成23年3月11日に発生した東日本大震災の地震及び津波を受けて引き起こされた東京電力(株)福島第一、第二原子力発電所における事故では、大量の放射性物質の放出等により、広範囲にわたる原子力損害が発生しました。この事故に係る損害賠償は「原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)」や「原子力損害賠償補償契約に関する法律(補償契約法)」、その関係法令に基づいて処理されます。

 現在、当該事故による原子力損害の賠償は原賠法第3条などに基づき、原子力事業者である東京電力(株)が一義的に賠償責任を有することを前提として所要の手続きが進められています。
 なお、原賠法第3条には、ただし書きとして「異常に巨大な天災地変」の場合に事業者を免責扱いとする規定がありますが、今回の震災が「異常に巨大な天災地変」に該当するかどうかの法解釈は、現時点で明確になっていません。

 事業者は原賠法第7条などに沿って、原子力損害賠償責任保険契約及び原子力損害賠償補償契約により1事業所当たり1200億円の損害賠償措置を講じており、これを被害者に対する賠償の原資とすることができます。
 当該事故は地震及び津波によって発生したため、原賠法第8条、補償契約法第3条及び補償契約法施行令第2条により、責任保険の免責事項に該当し、補償契約の填補対象となることから、当該事故による原子力損害の賠償によって発生した事業者の損失は、政府との補償契約に基づいて、1事業所当たり1200億円まで政府により補償されます。

 事業者が賠償しなければならない損害の額が、事業者が措置している額を超えた場合には、被害者の保護を図り、及び原子力事業の健全な発達に資するという原賠法の目的を達成するために必要があると政府が認めるときには、政府が原賠法第16条第1項に基づき、事業者が損害を賠償するために必要な援助を行うこととなっています。

 また、政府は原賠法第18条に基づいて文部科学省に設置した「原子力損害賠償紛争審査会」において「原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針」の策定や、「原子力損害の賠償に関して紛争が生じた場合における和解の仲介」を行うこととなっています。

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(震災による原子力事故に伴う損害の範囲)
東日本大震災によって発生した東京電力(株)福島第一、第二原子力発電所事故の原子力損害賠償ではどのような損害が賠償されますか?
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  • 原賠法に基づき4月11日に設置された紛争審査会により、「原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針」が、被害者の迅速・公平・適正な救済の必要性を踏まえて、原子力損害に該当する蓋然性の高いものから順次策定される予定です。
  • 既に4月28日に第一次指針が、①避難等の指示に係る損害、②航行危険区域設定に係る損害、③出荷制限指示等に係る損害について、(1)避難費用、(2)営業損害、(3)就労不能等に伴う損害、(4)財物価値の喪失又は現象等、(5)検査費用(人、物)、(6)生命・身体的損害を対象として策定されました。
  • 第一次指針で対象とされなかった損害項目や範囲については、今後更なる検討が行われ、順次追加的に指針が示されていくこととなっており、7月頃に中間指針策定(原子力損害の全体像)が予定されています。

【A2.の解説】

 JCO臨界事故における経験を踏まえて改正され平成22年1月より施行された改正原賠法には、紛争審査会の役割として「原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針を定めること」が追加されています。
 この指針の策定等を行うため、原賠法第18条に基づき平成23年4月11日、東日本大震災によって発生した原子力事故による損害に関する紛争審査会が文部科学省に設置されました。

 発生から2ヶ月を経過してもなお事故が終息せず、多数の被害者らの生活状況や生産及び経済活動等は、今も継続する被害全容の確認や見通しを待てないほど切迫しており、このような被害者を迅速、公平かつ適正に救済する必要があることから、当該指針は原子力損害に該当する蓋然性の高いものから順次策定、提示されることとなりました。
 4月28日に策定された第一次指針では、まずは政府による指示に基づく行動等によって生じた一定の範囲の損害についてのみ、基本的な考え方を明らかにしており、その概要は以下の通りです。本文は文末のリンクからご覧ください。

①政府による避難等(避難区域、屋内退避区域、計画的避難区域、緊急時避難準備区域)の指示に係る損害

(1)検査費用(人)

  • 避難等対象者が負担した被曝による身体への影響の有無を確認する目的で受けた検査の検査費用及び付随費用

(2)避難費用

  • 避難等対象者が負担した交通費、宿泊費等(実費賠償が原則だが、一定額を支払う場合に用いる平均的損害額は今後検討)

(3)生命・身体的損害

  • 避難等を余儀なくされたための傷害、健康状態悪化、疾病あるいは死亡による逸失利益、治療費、薬代、精神的損害等

(4)精神的損害

  • 避難等を余儀なくされ、正常な日常生活が長期間にわたり著しく阻害されたことによる精神的苦痛は損害と認められる余地がある。(判定基準や算定要素は今後検討)

(5)営業損害

  • 事業の不能等により現実に減収のあった営業、取引等の減収分(原則として逸失費用)
  • 事業への支障による追加費用、支障を避けるために負担した追加費用(商品、営業資産の廃棄費用、事業拠点の移転費用等)

(6)就労不能に伴う損害

  • 対象区域内に住居や勤務先がある労働者が、避難等により就労不能となった場合の給与等の減収分

(7)検査費用(物)

  • 対象区域内にあった財物に係る安全確認や取引先の要求等による検査費用

(8)財物価値の喪失又は減少等

  • 避難等に伴い、管理不能や放射性物質への曝露によって現実に価値が喪失又は減少した財物(不動産を含む)の、価値の減少分及びこれに伴う追加費用

②政府による航行危険区域設定に係る損害(海上保安庁による航行危険区域(30km圏内)の設定に伴う損害)

(1)営業損害

  • 漁業者が対象区域内での操業を断念し減収があった場合の減収分
  • 内航海運業者や旅客船事業者等の航路迂回により発生したことに伴う費用の増加分又は減収分

(2)就労不能等に伴う損害

  • 対象区域内で操業不能となった漁業者、内航海運業者や旅客船事業者等の経営状態悪化のために、そこで勤務していた労働者が就労不能となった場合の給与等の減収分

③政府等による出荷制限指示等に係る損害(政府による出荷制限指示、地方公共団体による出荷・操業の自粛要請等があった区域及び対象品目に係る損害)

(1)営業損害

  • 農林漁業者が出荷制限指示等により出荷又は操業を断念した場合の減収分及び追加費用
  • 流通業者が出荷制限指示等により対象品目の販売を断念した場合の減収分

(2)就労不能等に伴う損害

  • 出荷制限指示等により対象品目を生産する農林漁業者等の経営状態悪化のために、そこで勤務していた労働者が就労不能となった場合の給与等の減収分

 なお、政府の指示等によるもの以外が損害賠償の対象から除外されるものではなく、第一次指針で対象とされなかった損害項目や範囲については、今後更なる検討が行われ、順次追加的に指針が示されていくこととなっており、続いて第二次指針策定や7月頃に原子力損害の全体像に係る中間指針策定が予定されています。

第一次指針本文はこちら

○ 原産協会メールマガジン2009年3月号~2012年10月号に掲載されたQ&A方式による原子力損害賠償制度の解説、「シリーズ『あなたに知ってもらいたい原賠制度』」を冊子にまとめました。

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