シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」

【28】福島原発事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針

 今回は、東京電力(株)福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の判定等に関する中間指針についてQ&A方式でお話します。

q1
(中間指針の位置づけ)
原子力損害賠償紛争審査会により8月5日に決定された、福島原発事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針とは、どのようなものですか?
a1
  • 原賠法に基づいて4月11日に設置された原子力損害賠償紛争審査会により、原子力損害の範囲の判定等に関する一般的な指針が策定されています。
  • 指針は、可能な限り早期の被害者救済を図るため、原子力損害に該当する蓋然性の高いものから、第一次、第二次、第二次追補、と順次策定されました。
  • 8月5日に決定された中間指針は、第二次追補までの指針で既に決定した内容にその後の検討事項を加えたもので、原子力損害の当面の全体像を示すものです。
  • この中間指針には、中間指針で対象とならなかったものが直ちに賠償の対象とならないというものではないこと、今後の状況の変化に伴い必要に応じて改めて指針で示すべき事項について検討することが明記されています。

【A1.の解説】

 事故から1ヵ月後の4月11日、原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)18条に基づいて、文部科学省に原子力損害賠償に関する指針策定や紛争の和解の仲介等を行う「原子力損害賠償紛争審査会」(紛争審査会)が設置されました。この紛争審査会は、原賠法18条2項2号に定める「原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針」を策定する役割を担っています。

 指針策定にあたって紛争審査会は、多数の被害者の生活状況等が損害の全容の確認を待つことができないほど切迫しているという事情に鑑みて、原子力損害に該当する蓋然性の高いものから順次指針として提示していきました。
 まず4月28日に、①避難等の指示に係る損害、②航行危険区域設定に係る損害、③出荷制限指示等に係る損害について、(1)避難費用、(2)営業損害、(3)就労不能等に伴う損害、(4)財物価値の喪失又は現象等、(5)検査費用(人、物)、(6)生命・身体的損害を対象として、第一次指針を決定・公表しました。
 続いて5月31日に、①避難等の指示に係る損害として、「一時立入費用」、「帰宅費用」、「精神的損害」、「避難費用の損害額算定方法」、「避難生活等を余儀なくされたことによる精神的損害の損害額算定方法」、②出荷制限等に係る損害として、「出荷制限指示等の対象品目の作付断念に係る損害」、「出荷制限指示等の解除後の損害」、③作付け制限指示等に係る損害、及び④風評損害を対象とした第二次指針を決定・公表しています。
 さらに6月20日には、避難生活等を余儀なくされたことによる精神的損害の損害額の算定方法に関する第二次追補を決定・公表しました。

 紛争審査会が8月5日に決定・公表した中間指針は、第二次追補までの指針で既に決定した内容に、いわゆる間接損害や、放射線被曝による損害など、その後の検討事項を加えて、賠償すべき損害と認められる一定範囲の損害類型を示したもので、原子力損害の当面の全体像を示すものです。
 なお、この中間指針については、その「第1 中間指針の位置づけ」において、「中間指針で対象とされなかったものが直ちに賠償の対象とならないというものではなく、個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められることがあり得る」ということ、「今後、本件事故の収束、避難区域等の見直し等の状況の変化に伴い、必要に応じて改めて指針で示すべき事項について検討する」ということが指針の位置づけとして明記されており、今後も紛争審査会において更なる指針の検討が継続されます。

q2
(中間指針によって示された損害類型と損害項目)
8月5日に決定・公表された中間指針において示された原子力損害はどのようなものですか?
a2
  • 中間指針には、まず、原子力事業者が責任を負うべき「原子力損害」の範囲について、社会通念上、原子力事故から当該損害が生じるのが合理的かつ相当であると判断される範囲のもの、というような各損害項目に共通する考え方が示されています。
  • 具体的な損害については、対象地域や対象者ごとに「避難等の指示等に係る損害」や「出荷制限指示等に係る損害」など七つの損害類型に分けられ、それぞれの類型について「検査費用」「避難費用」「一時立入費用」「帰宅費用」「生命・身体的損害」「精神的損害」「営業損害」「就労不能に伴う損害」「財物価値の喪失又は減少等」などの損害項目ごとに指針が示されています。
  • また、各種給付金と損害賠償金との調整や、地方公共団体等の財産的損害等についても考え方が示されています。
  • この指針に含まれていない自主避難に関する賠償や、損害の終期に関する指針等は、今後必要に応じて検討され、改めて示されることとなります。

【A2.の解説】

 中間指針には、まず、各損害項目に共通する考え方として、原子力事業者が法律上責任を負うべき「原子力損害」の範囲について、社会通念上、原子力事故から当該損害が生じるのが合理的かつ相当であると判断される範囲のもの、というような基本的な考え方が示されています。
 具体的な指針については以下のように、七つの損害類型の各々について項目ごとに分けて示されています。

①政府による避難等の指示等に係る損害について

[対象区域]

避難区域、屋内退避区域、計画的避難区域、緊急時避難準備区域、特定避難勧奨地点、地方公共団体が住民に一時避難を要請した区域

[避難等対象者]

避難指示等により避難等を余儀なくされた者

[損害項目]

(1)検査費用(人)

  • 避難等対象者が負担した被曝による身体への影響の有無を確認する目的で受けた検査の検査費用及び付随費用

(2)避難費用

  • 避難等対象者が負担した交通費、家財道具移動費用、宿泊費等

(3)一時立入費用

  • 「一時立入り」に伴う交通費、家財道具移動費用、除染費用等

(4)帰宅費用

  • 住居に最終的に戻るために負担した交通費、家財道具の移動費用等

(5)生命・身体的損害

  • 避難等を余儀なくされたための傷害、健康状態悪化、疾病あるいは死亡による逸失利益、治療費、薬代、精神的損害等
  • 避難等を余儀なくされ、これによる健康状態悪化等を防止するために負担が増加した診断費、治療費、薬代等

(6)精神的損害

  • 避難等により対象区域外滞在を長期間余儀なくされた者が、正常な日常生活が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的苦痛
  • 事故発生から6ヶ月間(第1期)は一人月額10万円(避難所等において生活をした期間は一人月額12万円)、第1期終了から6ヶ月間(第2期)は一人月額5万円、第2期終了から終期まで(第3期)は改めて算定方法を検討

(7)営業損害

  • 事業の不能等により現実に減収のあった営業、取引等の減収分
  • 事業への支障による追加費用、支障を避けるために負担した追加費用
  • 指示解除後の事業再開のために生じた追加費用

(8)就労不能に伴う損害

  • 対象区域内に住居や勤務先がある労働者が、避難指示等によりあるいは営業損害により、就労不能となった場合の給与等の減収分及び追加費用

(9)検査費用(物)

  • 対象区域内にあった財物につき、安全確認をすることが必要かつ合理的である場合に、所有者等の負担した検査費用

(10)財物価値の喪失又は減少等

  • 避難等に伴い、管理不能や放射性物質への曝露によって現実に価値が喪失又は減少した財物(不動産を含む)の、価値の減少分及びこれに伴う除染等の追加費用

②政府による航行危険区域等及び飛行禁止区域の設定に係る損害について

[対象区域]

航行危険区域、飛行禁止区域

[損害項目]

(1)営業損害

  • 漁業者が対象区域内での操業を断念し減収があった場合の減収分及び追加費用
  • 内航海運業者や旅客船事業者等の航路迂回により発生したことに伴う減収分及び追加費用
  • 航空運送事業者の迂回飛行により発生したことに伴う減収分及び追加費用

(2)就労不能等に伴う損害

  • 対象区域内で操業不能となった漁業者、内航海運業者、旅客船事業者、航空運送事業者等の経営状態悪化のために、そこで勤務していた勤労者が就労不能を余儀なくされた場合の給与等の減収分及び追加費用

③政府等による農林水産物等の出荷制限指示等に係る損害について

[対象]

農林水産物及び食品の出荷、作付けその他の生産・製造及び流通に関する制限又は農林水産物及び食品に関する検査について、政府が本件事故に関し行う指示等(地方公共団体等が合理的理由に基づき行うものを含む)に伴う損害

[損害項目]

(1)営業損害

  • 農林漁業者が指示等により事業に支障が生じたため減収があった場合の減収分及び追加費用(商品の回収・廃棄費用、代替飼料の購入費用、汚染された生産資材の更新費用等)
  • 指示等の対象品目を既に仕入れ又は加工した加工・流通業者が、指示等により対象品目又はその加工品の販売を断念するなど事業に支障が生じた場合の減収分
  • 指示解除後も支障が生じたため減収があった場合の減収分、事業再開のために生じた追加費用

(2)就労不能等に伴う損害

  • 指示等により対象事業者又は加工・流通業者の経営状態悪化のために、そこで勤務していた勤労者が就労不能等を余儀なくされた場合の給与等の減収分及び追加費用

(3)検査費用(物)

  • 指示等に基づき行われた検査に関し、農林漁業者その他事業者が負担を余儀なくされた検査費用

④その他の政府指示等に係る損害について

[対象]

事業活動に関する制限又は検査について、政府が本件事故に関し行う指示等に伴う損害

[損害項目]

(1)営業損害

  • 指示等の対象事業者において、指示等に伴い、事業に支障が生じたため減収があった場合の減収分

(2)就労不能等に伴う損害

  • 指示等に伴い、対象事業者の経営状態が悪化したため、そこで勤務していた勤労者が就労不能等を余儀なくされた場合の給与等の減収分及び追加費用

(3)検査費用(物)

  • 指示等に基づき行われた検査に関し、対象事業者が負担を余儀なくされた検査費用

⑤いわゆる風評被害について

(1)一般的基準

▽ 放射性物質による汚染の危険性を懸念し、敬遠したくなる心理が、平均的・一般的な人を基準として合理性を有していると認められる場合
▽ 損害項目としては、営業損害、就労不能等に伴う損害、検査費用(物)

(2)農林漁業・食品産業の風評被害

(対象となる産地)

▽ 農林産物:福島、茨城、栃木、群馬、千葉、埼玉
▽ 茶:福島、茨城、栃木、群馬、千葉、埼玉、神奈川、静岡
▽ 畜産物:福島、茨城、栃木
▽ 水産物:福島、茨城、栃木、群馬、千葉
▽ 花き:福島、茨城、栃木
▽ その他農林水産物:福島
▽ 北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、新潟、岐阜、静岡、三重、島根において産出された牛肉等
▽ 農林水産物の加工業及び食品製造業:加工又は製造した事務所又は工場が福島県に所在するもの、主たる原材料が風評被害の対象となるもの
▽ 農林水産物・食品の流通業:風評被害の対象となる産品等を継続的に取り扱っていた事業者が仕入れた当該産品等に係るもの

(3)観光業の風評被害

▽ 福島県、茨城県、栃木県、群馬県に営業の拠点がある観光業
▽ 外国人観光客に関しては、我が国に営業の拠点がある観光業について、事故以前に予約が入っていた場合であって通常の解約率を上回る解約が行われたもの
▽ 東日本大震災による影響を踏まえて合理的な範囲で損害額を推認する

(4)製造業、サービス業等の風評被害

▽ 福島県に所在する拠点で製造、販売を行う物品又は提供するサービス等に関して当該拠点において発生したもの
▽ サービス等を提供する事業者が来訪を拒否することによって発生した福島県に所在する拠点における当該サービスに係るもの
▽ 放射性物質が検出された上下水処理等副次産物に関するもの
▽ 水の放射性物質検査の指導を行っている都県において事業者が実施を余儀なくされた検査に係るもの
▽ 外国人が来訪して提供する又は提供を受けるサービス等に関しては、我が国に存在する拠点において発生した被害のうち、事故以前に契約が為された場合であって5月末までに解約されたもの
▽ 損害額の算定に当たっては東日本大震災による影響の検討も必要

(5)輸出に係る風評被害

▽ 輸出先国の要求によって生じた必要かつ合理的な範囲の検査費用や各種証明書発行費用等
▽ 事故以降に輸入先国の輸入拒否がされた時点において、既に当該輸出先国向けに輸出され又は生産・製造されたもの

⑥いわゆる間接被害について

  • 間接被害とは、第一次被害が生じたことにより、第一次被害者と一定の経済的関係にあった第三者に生じた被害を意味するものとする
  • 間接被害者の事業等の性格上、第一次被害者との取引に代替性がない場合には、本件事故との因果関係のある損害と認められる
  • 損害項目としては、営業損害、就労不能等に伴う損害

⑦放射線被曝による損害について

本件事故の普及作業等に従事した者が、本件事故に係る放射線被曝による急性又は晩発性の放射線障害により、傷害を負い、治療を要する程度に健康状態が悪化し、疾病にかかり、あるいは死亡したことにより生じた逸失利益、治療費、薬代、精神的損害等

 その他にも、以下のような考え方が指針として示されています。

○ 被害者への各種給付金等と損害賠償金との調整について
本件事故により原子力損害を被った者が、同時に本件事故に起因して損害と同質性がある利益を受けたと認められる場合には、その利益の額を損害額から控除すべきである。

○ 地方公共団体等の財産的損害等
地方公共団体又は国が所有する財物および地方公共団体等が民間事業者と同様の立場で行う事業に関する損害については、賠償の対象となるとともに、地方公共団体等が被害者支援等のために、加害者が負担すべき費用を代わって負担した場合も賠償の対象となる。

 なお、この指針に含まれていない自主避難に関する賠償や、損害の終期に関する指針等は、今後、事故の収束等の状況の変化に伴い、必要に応じて検討され、改めて示されることとなります。

中間指針の本文はこちら

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