シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」

【32】自主的避難等に関する指針、紛争解決センター

 今回は、中間指針追補にて示された自主的避難等に関する指針と、紛争審査会が原子力損害に関する紛争を解決するために設置した「紛争解決センター」についてQ&A方式でお話します。

q1
(自主的避難等に関する指針)
中間指針で示されなかった自主的避難等に係る原子力損害について、どのような指針の追補が出されたのですか?
a1
  • 政府による避難指示等に基づくものではなく自主的に行なわれた避難(自主的避難)に係る損害は、2011年8月5日に公表された中間指針において「引き続き検討する」とされていましたが、2011年12月6日の中間指針追補により損害の範囲が示されました。
  • 指針では、自主的避難をした者と避難せずに滞在し続けた者の損害額は、公平性及び合理性の観点から同額とすることが妥当とされました。
  • 対象地域は、県北、県中、相双、いわき地域の避難指示等対象区域を除く区域とされ、損害額は、子供・妊婦の場合40万円、それ以外の者は8万円が目安とされました。
  • なお、指針の対象外のものも個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められることがあり得る、とされています。

【A1.の解説】

 2011年8月5日に公表された中間指針において、政府による避難指示等に基づくものではなく自主的に行なわれた避難(自主的避難)に係る損害については、引き続き検討することとされていました。

 これに関して12月までの間に原子力損害賠償紛争審査会による調査・検討が行われ、2011年12月6日に自主的避難等に係る損害についての中間指針追補が公表されました。

 避難指示等対象区域の周辺地域では、事故発生当初に十分な情報が無い中で大量の放射性物質放出による放射線被曝の危険を回避しようと考えて自主的に避難した者、その後にある程度情報が入手できるようになった状況下で放射線被曝の危険を回避しようと考えて自主的に避難した者が相当数存在する一方で、ほとんどの住民が恐怖や不安を抱きつつも避難せずに滞在し続けました。

 こうした現状を踏まえ、指針においては福島原子力発電所からの距離、避難指示対象区域との近接性、政府等から公表された放射線量に関する情報、自主的避難の状況等の要素を総合的に勘案して、以下のような自主的避難等の損害範囲が示されました。

[対象区域]

下記のうち避難指示等対象区域を除く区域。

○県北地域
福島市、二本松市、伊達市、本宮市、桑折町、国見町、川俣町、大玉村

○県中地域
郡山市、須賀川市、田村市、鏡石町、天栄村、石川町、玉川村、平田村、浅川町、古殿町、三春町、小野町

○相双地域
相馬市、新地町

○いわき地域
いわき市

[対象者]

○事故発生時に自主的避難等対象区域内に住居があった者。
○事故発生時に避難指示等対象区域に住居があった者が、自主的避難等対象区域に避難して滞在した期間は自主的避難者等対象者に準じて対象となる。

[損害項目]

○自主的避難者及び滞在者のそれぞれの生活費の増加費用、精神的苦痛、移動費用等を合算し、自主的避難者及び滞在者の損害を同額として算定するのが、公平かつ合理的。損害額は以下を目安とする。
○事故発生時に自主的避難等対象区域内に住居があった者

  • 対象区域内に居住していた子供・妊婦
    事故発生から2011年12月末までの損害として、一人40万円。(平成24年1月以降に関しては今後必要に応じて検討する。)
  • 対象区域内に居住していた上記以外の者
    事故発生当初の時期の損害として、一人8万円。

○事故発生時に避難指示等対象区域内に住居があった者
 その後に子供・妊婦が自主的避難等対象区域内に避難、滞在した場合、事故発生から2011年12月までの損害として一人20万円を目安とし、対象期間に応じた金額とする。

 また、この中間指針追補においては、「対象とされなかったものが直ちに賠償の対象とならないというものではなく、個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められることがあり得る」とされています。  この追補による対象の住民は約150万人で、これの賠償総額は約2000億円に上るといわれています。

 なお、中間指針で示されなかった原子力損害には自主的避難等に係る損害の他にも、次のような損害があり、これらについては今後必要に応じて指針が検討されることになります。

○避難指示等対象区域における

  • 平成24年3月11日以降の精神的損害
  • 終期が設定されていない損害(例えば営業損害、就労不能等に伴う損害など)

中間指針追補の本文はこちら

q2
(原子力損害賠償紛争解決センター)
福島原発事故による原子力損害のうち、必ずしも紛争審査会による指針の対象に挙げられていないもの、あるいは東京電力の補償基準の対象に示されていないものなどについては、どのような解決方法がありますか?
a2
  • 紛争審査会の役割として、指針策定や損害の調査の他に「原子力損害の賠償に関する紛争について和解の仲介を行うこと」があります
  • 紛争審査会は和解の仲介の手続きを円滑かつ効率的に行うために「原子力損害賠償紛争解決センター」(紛争解決センター)を設置しました。
  • 紛争解決センターは、和解の仲介手続きを総括する「総括委員会」と、仲介委員が合意形成を後押しする「仲介委員」と、和解の仲介手続きに関する庶務を行う「原子力損害賠償紛争和解仲介室」との有機的な連携の下に、業務が遂行されます。
  • 紛争解決センターでは、紛争審査会の指針の対象に挙げられていない場合や、東京電力の補償基準の対象に示されていない場合の他、東京電力との間で損害賠償額の認識が一致しない場合などについても、原子力損害賠償に関する紛争解決の申立てを受け付けています。

【A2.の解説】

 福島原発事故による原子力損害については、原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)に基づいて、紛争審査会により当事者による自主的な解決に資する一般的な指針が策定され、指針に基づき東京電力が定めた補償基準により賠償が実施されています。

 しかし、指針は一定の類型化が可能な損害項目や範囲を示したものであり、全ての損害が示されているわけではありません。したがって、指針で対象とされなかったものが直ちに賠償の対象とならないというものではなく、このように指針で示されていない損害については、個別具体的な事情に応じて損害の有無や損害額を判断しなければなりません。こうした問題について被害者と東京電力との合意が成立しない場合には最終的には裁判所の司法判断を仰ぐことになります。

 原子力損害のような多数の被害者がそれぞれ裁判を起こさなければ解決できないとすれば、被害者個人にとっても、また社会にとっても多大な費用が必要となり、迅速な救済を与えることもできません。そこで、こうした場合に「原子力損害の賠償に関する紛争について和解の仲介を行うこと」もまた、原賠法第18条で定められた紛争審査会の役割となっています。

 今回の福島原発事故のため、紛争審査会は2011年8月に、和解の仲介の手続きを円滑かつ効率的に行うための「原子力損害賠償紛争解決センター」(紛争解決センター)を設置しました。紛争解決センターは、和解の仲介手続きを総括する「総括委員会」と、仲介委員が合意形成を後押しする「仲介委員」と、和解の仲介手続きに関する庶務を行う「原子力損害賠償紛争和解仲介室」との有機的な連携の下に、業務が遂行されます。

 具体的には、原子力損害の賠償に関する紛争は次のような流れで処理されます。

被害者による東京電力への賠償請求→示談成立→賠償金支払い
 ↓示談に至らない場合(紛争の発生)
被害者による紛争解決センターへの和解の申立て
 ↓
総括委員会による仲介委員の指名
 ↓
和解の仲介(仲介委員による合意形成の後押し、総括委員会による仲介手続きの総括、和解仲介室による庶務、の有機的な連携)
 ↓
和解案の提示→和解成立、当事者による和解契約書の作成→賠償金支払い
 ↓不合意の場合(和解不成立)
再度の和解の仲介の申立もしくは民事訴訟の提起

 なお、原子力損害賠償支援機構と東京電力が作成した「特別事業計画」において「紛争処理の迅速化に積極的に貢献するため、(中略)提示される和解案については、東電として、これを尊重することとする。」とされ、東京電力はこの手続による和解案での解決にできるだけ応じることが示されています。

 こうした手続によって、当事者間の合意により解決できない場合であっても、裁判所に訴訟を提起するなどの方法によることなく、紛争解決センターを利用することにより、費用や時間をかけずに適性に紛争を解決することが期待されています。

文部科学省ウェブサイト「原子力損害賠償紛争解決センターについて」はこちら

○ 原産協会メールマガジン2009年3月号~2012年10月号に掲載されたQ&A方式による原子力損害賠償制度の解説、「シリーズ『あなたに知ってもらいたい原賠制度』」を冊子にまとめました。

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