シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」

【43】スイスの原子力開発事情と原賠制度

 今回は、水力資源が豊富なスイスの原子力開発事情と原賠制度についてQ&A方式でお話します。

q1
(スイスの原子力開発事情)
スイスの原子力開発はどのような状況ですか?
a1
  • スイスでは、電力需要の約6割が水力、約4割が原子力で賄われています。
  • 連邦政府の主導により早くから原子力開発が進められており、現在は5基340.5万kWの原子力発電所が運転されています。
  • チェルノブイリ原発事故(1986年)などを受けて国民投票により原子力発電所の新規建設が1990年から10年間凍結されていましたが、2003年に実施された国民投票では凍結延長が否決され、近年は建て替えに向けて動き出していました。
  • しかし福島原発事故を受けて連邦政府は既設炉の段階的閉鎖と建て替えなしの方針を打ち出したため、2034年には全ての原子炉が閉鎖されることになります。

【A1.の解説】

 スイスでは、アルプス山系の豊富な水力資源を利用して、発電電力量の約6割を水力が占め、また、約4割を原子力が担っており、この両者により電力需要のほとんどが賄われていると言えます。これは、スイスが化石燃料に恵まれない内陸国であることによるものであり、事実、一次エネルギーの約6割は輸入に頼っているのが実情です。

 そこで、スイスでは連邦政府の主導により早くから原子力開発が進められてきました。原子力の平和利用を目的とした法整備は1946年から進められ、1959年には原子力法が制定されて、1962年に実験炉の建設が始まっています。
現在はベツナウ(PWR 38万kW 2基)、ミューレベルク(BWR 39万kW)、ゲスゲン(PWR 103.5万kW)、ライプシュタット(BWR 122万kW)の合計5基340.5万kWの原子力発電所が運転されています。

 スイスにおいて原子力は水力と並んで重要なエネルギー源と位置づけられており、1970年代後半から1980年代前半にかけて国民の大半の支持を得ていましたが、TMI原発事故(1979年)やチェルノブイリ原発事故(1986年)などの影響により反原発の動きが高まりました。

 スイスでは直接民主主義が採用されていることから、原子力政策などの重要事項は国民投票によって決定されます。そこで、1990年には「原子力モラトリアム」を求める国民投票が可決され、2000年までの10年間、原子力発電所の新規建設が凍結されていました。
その後、2020年以降に電力需給の逼迫が予想されるなか2003年に実施された国民投票では、新規建設の凍結延長や脱原子力を求める発議が反対多数で否決され、これを受けて連邦政府は2005年に原子力法の改正により新規建設の凍結を解除し、電気事業者も建て替え計画に向けて動き出しました。

 しかし福島原発事故(2011年)の発生により、2011年5月にスイス連邦政府が既設炉の段階的閉鎖と建て替えなしの方針を打ち出し、両院はこれを可決したため、スイスの原子炉は2019年から順次閉鎖され2034年には全ての原子炉が閉鎖されることになります。

q2
(スイスの原賠制度)
スイスの原賠制度はどのようになっていますか?
a2
  • スイスの原賠制度は、1983年3月18日に制定された「原子力損害の第三者責任に関する法律(LRCN)」に規定されており、無過失責任、責任集中、賠償措置の強制、国の補完的救済等、原賠制度の基本的原則が規定されています。
  • 賠償措置として10億フラン、更に利息・争訟費用1億フランの合計11億フランを保険契約する義務が規定されていますが、運転者の責任は無制限です。
  • 保険で補償されない場合は連邦政府が上記の11億フランまでを補償します。また、大事故により運転者、民間保険会社、連邦政府が有する資金力が、全賠償請求を上回る場合、連邦議会が政令により賠償金支払い制度を作って対応します。

【A2.の解説】

 スイスの原賠制度は当初、1959年12月23日に制定された連邦原子力法により賠償措置に関する事項が規定されていましたが、現在は原賠制度を規定する独立した法律として1983年3月18日に新たに制定された「原子力損害の第三者責任に関する法律(LRCN)」とその関連法令に規定されています。

 スイスの原賠制度は運転者の責任を無制限と明記している点が特徴です。原子力施設運転者は無過失・無限責任を負い(3条1項)、原子力施設運転者以外は責任を負わない責任集中が規定されています(3条6項)。運転者の免責事項は被害者の故意、被害者の重大な過失によって生じた原子力損害のみです(5条)。

 また、賠償措置として最低10億フラン、更に利息と争訟費用のために最低1億フランの民間保険に加入が義務づけられています(11条1項、2項及び施行令)。異常な自然現象、戦争、テロ行為により発生した原子力損害、損害発生から10年間請求されなかった場合、核物質の喪失・盗難・投棄・所有の終了から20年間請求されなかった場合については、民間保険では填補されないため(11条3項及び施行令)、連邦政府が11億フラン(うち利息・争訟費用が1億フラン)まで補償します(12条)。この政府補償や後日判明した損害(13条)のために運転者は連邦政府に負担金を支払うことになっており(14条)、運転者が連邦政府に支払った負担金とその利息によって連邦政府は原子力損害基金を設立します(15条)。なお、特例として、連邦政府は一般財源をもって、外国で発生した原子力事故などの被害者への補償等が行われます(16条)。

 運転者、民間保険会社、連邦政府の有する資金力が、大規模災害により発生したすべての損害請求に対して十分でないと予想される場合、連邦議会は政令により制度を作って適切に配分することとしています(29条)。

 また、国外で発生した原子力損害がスイスの運転者の責任であり、当該国がスイスと同等の賠償制度を有している場合には、相互主義の観点からスイスの原賠法に基づく賠償が行われるとしています(34条)。

 スイスはパリ条約とブラッセル補足条約に署名していますが、批准はしていません。また、2009年3月に改正パリ条約と改正ブラッセル補足条約を批准しましたが、これらの条約が発効するまではパリ条約とブラッセル補足条約の批准は無効としています。

より詳細な解説はこちら

○ 原産協会メールマガジン2009年3月号~2012年10月号に掲載されたQ&A方式による原子力損害賠償制度の解説、「シリーズ『あなたに知ってもらいたい原賠制度』」を冊子にまとめました。

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