シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」

【54】時効延長特例法と中間指針第四次追補

 今回は、時効延長特例法と、中間指針第四次追補についてQ&A方式でお話します。

q1
(時効延長特例法)
原子力損害賠償紛争解決センターにおける和解仲介の申立をすることなく3年が経過してしまった場合、その後に裁判で請求することはできないのですか?
a1
  • 民法では損害賠償について「損害を知った時から3年」「不法行為の時から20年」の時効期間がありますが、原賠ADR時効中断特例法により、原子力損害賠償紛争解決センターが行う和解仲介の途中で3年経過してしまっても打切りから一月以内に裁判所に訴えることにより時効にかからないようになっています。
  • 和解仲介の申立を行っていない被害者については、原賠ADR時効中断特例法の対象ではないため3年の時効適用の可能性が排除されていませんでしたが、福島原発事故の被害者の中には今なお不自由な避難生活を余儀なくされ、証拠収集や賠償請求に時間を要することから、時効期間を延長する新たな特例法が制定されました。
  • 「東日本大震災における原子力発電所の事故により生じた原子力損害に係る早期かつ確実な賠償を実現するための措置及び当該原子力損害に係る賠償請求権の消滅時効等の特例に関する法律」により、時効の期間は「損害を知った時から10年」「損害が生じた時から20年」となります。

【A1.の解説】

 原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)において時効に関する規定はありません。そのため、時効に関する一般規定である民法724条に基づき「不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。」という原則が、原子力損害賠償の時効にも適用されることになります。

 時効については、和解仲介制度の活用を促進する観点から2013年6月に「東日本大震災に係る原子力損害賠償紛争についての原子力損害賠償紛争審査会による和解仲介手続の利用に係る時効の中断の特例に関する法律」(原賠ADR時効中断特例法)が制定され、和解の仲介の途中で時効が経過してしまった場合でも、打切りから1ヶ月以内に裁判所に訴訟を提起すれば、当該和解の仲介の申立ての時に訴えの提起があったものとみなすこととされています。
 ただし、この時効期間の延長は、原賠ADRによる和解の仲介が打ち切られた場合に限って適用されるものであり、例えば未請求の被害者が時効期間経過後に請求を行った場合等については、東京電力は「時効の完成をもって一律に賠償請求をお断りすることは考えておらず、時効完成後も、ご請求者さまの個別のご事情を踏まえ、消滅時効に関しては柔軟な対応を行わせていただきたい」という考え方を示しているものの、法律的に時効適用の可能性が排除されたわけではありませんでした。

 しかし、福島原発事故による災害が大規模で長期間にわたる未曽有のものであり、被害者の中には、今なお不自由な避難生活を余儀なくされ、損害額の算定のための証拠収集に支障を来している者が多く存在すること、個々の被害者に性質や程度の異なる原子力損害が同時に生じて、その賠償の請求に時間を要すること等により、賠償請求権の行使に困難を伴う場合があります。
 そこで、被害者が早期かつ確実に賠償を受けることができるようにするための体制を国が構築するために必要な措置について定めるとともに、特定原子力損害に係る賠償請求権の消滅時効等の特例を定めるための「東日本大震災における原子力発電所の事故により生じた原子力損害に係る早期かつ確実な賠償を実現するための措置及び当該原子力損害に係る賠償請求権の消滅時効等の特例に関する法律」が2013年12月11日に制定されました。

 この法律では、「国は、特定原子力損害の被害者が早期かつ確実に賠償を受けることができるよう、国の行政機関における特定原子力損害の賠償の円滑化のための体制の整備、紛争の迅速な解決のための原子力損害賠償紛争審査会及び裁判所の人的体制の充実、原子力損害賠償支援機構による相談体制及び情報提供体制の強化その他の措置を講ずるものとする。」ことが規定されています。
 さらに、原子力損害に係る賠償請求権の消滅時効に関し、民法724条の適用の特例として、

  • 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から10年間行使しないとき
  • 損害が生じた時から20年を経過したとき
    とされました。

時効延長特例法の本文はこちら

q2
(中間指針第四次追補)
避難指示の長期化等に係る損害について、原子力損害賠償紛争審査会から出された指針の追補はどのような内容ですか?
a2
  • 避難を余儀なくされている住民は具体的な生活再建を図ろうとしていますが、住宅の賠償金額が低額であるために、帰還の際の修繕・建替えができない、あるいは長期間の避難等のための他所での住宅の取得ができないという問題が生じています。特に、従前よりも地価単価の高い地域に移住せざるを得ない場合には、移住先の土地を取得できないという問題が生じます。
  • また、事故後6年を大きく超える長期避難が見込まれる帰還困難区域等の住民からは、将来の生活に見通しをつけるため、長期化する避難生活の精神的苦痛に対する損害賠償の考え方を示すことが求められていました。
  • このような状況を踏まえて、2013年12月26日に中間指針第四次追補が策定され、帰還困難区域等での生活の断念を余儀なくされた精神的苦痛と、住居確保に係る損害として事故前の財物価値を超えて負担した必要かつ合理的な費用が賠償されることになりました。

【A2.の解説】

 2013年8月に避難指示区域の見直しが完了したことにより、居住制限区域や避難指示解除準備区域では復旧・復興・帰還に向けた準備が進められている一方、帰還困難区域においては避難指示解除の見通しすら立たず、避難指示が長期化することが想定されています。

 避難を余儀なくされている住民は具体的な生活再建を図ろうとしていますが、特に築年数の経過した住宅に居住していた住民においては、第二次追補で示された財物としての住宅の賠償金額が低額となり、帰還の際の修繕・建替えや長期間の避難等のための他所での住宅の取得ができないという問題が生じています。また、長期間の避難のために他所へ移住する場合には、従前よりも相対的に地価単価の高い地域に移住せざるを得ない場合があることから、移住先の土地を取得できないという問題も生じています。さらに、事故後6年を大きく超える長期避難が見込まれる帰還困難区域等の住民からは、将来の生活に見通しをつけるため、避難指示解除の見通しがつかず長期化する避難生活の精神的苦痛に対する損害賠償の考え方を示すことが求められています。

 このような状況を踏まえて、中間指針第四次追補では、避難指示区域において避難指示解除後に避難費用及び精神的損害が賠償の対象となる相当期間の具体的な期間、新たな住居の確保のために要する費用のうち賠償の対象となる範囲及び避難指示が長期化した場合に賠償の対象となる範囲について、中間指針、中間指針第二次追補に加えて次のような損害の範囲が示されました。

1.精神的損害

 長年住み慣れた住居及び地域が見通しのつかない長期間にわたって帰還不能となり、そこでの生活の断念を余儀なくされた精神的苦痛等による損害(第二次指針追補で示された避難生活等を余儀なくされたことによる精神的損害とは異なり一括で賠償する損害)を賠償する。

対象:帰還困難区域(除染・インフラ復旧計画がない等、避難指示解除の見通しがない区域)。
ただし、原発が立地し、町の中核的機能が帰還困難区域にある大熊町・双葉町については町全域。

内容:一人1000万円(一括払い。生活費の増加費用を含まない。)。
避難区域の見直しが2012年6月の場合は、追加賠償額は700万円。

※対象者以外(居住制限区域及び避難指示解除準備区域)については、事故後6年間経過後も引き続き1人月額10万円。

2.住居確保に係る損害

 移住等に伴い新たな住居を取得するためや、帰還に伴い元の住宅の大規模修繕や建替えをするために、事故前の財物価値(既に東京電力が賠償中)を超えて負担した必要かつ合理的な費用を賠償する。

① 上記1.の対象者
住宅:元の住宅の新築価格と事故前価値の差額の75%を賠償。
(財物賠償と合わせ、元の住宅の新築価格の8~10割までを賠償。)
宅地:新たに取得した土地の価格(広大な場合は福島県内の主要な避難先の平均宅地面積250㎡を基準とし、単価が高額な場合は平均単価38,000円/㎡を基準とする。)と元の土地(広大な場合は福島県の平均宅地面積400㎡を基準とする)の価格の差額を賠償。

② 移住することが合理的と認められる者(居住制限区域及び避難指示解除準備区域)
住宅:元の住宅の新築価格と事故前価値の差額の75%を賠償。
(財物賠償と合わせ、元の住宅の新築価格の8~10割までを賠償。)
宅地:①の額の75%を賠償(元の土地の価値が将来値上がりすることを考慮)。
※①②の賠償を受けた後、新たな住居に転居した時点で、避難費用の賠償は終了。

③ 帰還する者
住宅:元の住宅の新築価格と事故前価値の差額の75%まで(財物賠償と合わせ、元の住宅の新築価格の8~10割まで)を上限として、実際に負担した修繕・建替え費用(建替えの場合、元の住宅の解体に要した費用も賠償)。
※従前の住居が借家であった者が新たに借家への入居が必要となった場合には、一時金(礼金等)に加え、新たな借家の家賃(元の借家面積に応じた平均的な家賃を上限とする)と従前の家賃の差額の8年分を賠償。

3.避難指示解除後の「相当期間」

 避難指示解除後、精神的損害及び避難費用が賠償の対象となる「相当期間」は、1年間を当面の目安とする。(ただし、一定の医療・介護が必要な場合や、子供の通学先の学校の状況等、特段の事情がある場合を除く。)

 中間指針第四次追補によって示された以上のような賠償に加え、政府は避難指示解除後の帰還に伴う生活再建への配慮が足りないとの声に応えるため、早期に帰還する住民が直面する生活上の不便さに伴う費用についての賠償(早期帰還者賠償)を追加する方針を示しています。

中間指針第四次追補の本文はこちら

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