「世界3位の原子力大国 中国:安全運転の徹底と世界市場への進出」を掲載しました。(一部会員限定)

2018年10月12日

中国に関する最新報告書「世界3位の原子力大国 中国:安全運転の徹底と世界市場への進出」を当協会のウェブサイトに会員限定で掲載しました。ご参考までに、その概要を以下に記載します。

1.中国の原子力発電開発の現状
①運転中の原子力発電規模
・本年に入り陽江-5号機、台山-1号機、三門-1号機、海陽-1号機、三門-2号機が運転を開始(台山-1号機と三門-1号機は世界初のEPRとAP1000)。
・その結果、中国は日本を抜いて世界第3位の原子力発電大国になった。
 - 中国:44基(出力4,383.9万kW)
 - 日本:42基(同4,148.2万kW)
 (出典) 国際原子力機関(IAEA)PRISデータベース。

②原子力発電開発目標は、「2020年に運転中5,800万kW、建設中3,000万kW以上」を掲げているが電力需要の低迷で建設を後ろ倒しにする傾向がある。2018年中の着工予定は6~8基で、三門Ⅱ期(2基)、海陽Ⅱ期(2基)、遼寧徐大堡(2基)の6基(いずれもAP1000)が含まれる模様。

2.「絶対的」原子力発電安全運転への国務院の徹底指導
・福島第一原子力発電所事故以降、国務院は原子力・放射線安全管理・監督体制の大改革を掲げ、繰り返し原子力安全運転の徹底を指示している。「高い安全水準ではなく、絶対的安全が必要」として事業者のみならず国務院内や地方政府にも実施計画や職責等の明確化を要求していることが注目される。

3.中国の炉型選択と世界市場を狙った今後の戦略
①中国のこれまでの炉型選択の流れ
・運転中の多くの炉は、大亜湾原発の仏製PWR技術をベースに国産化を図った第二世代か第二世代改良型のPWRである。
・2007年以降、西側第三世代炉技術の吸収と国産化で米ウェスチングハウス(WEC)社製AP1000とその補完炉としての仏AREVA(現FRAMATOME)社製EPRの導入を決定、AP1000とその出力増強国産化炉CAP1400を中国の主流炉型にすると見られた。それに基づく多数の原子力発電所建設計画も立てられた。
・ところが2013年から2014年にかけて、突然国産第三世代PWR「華龍一号」(以下「華龍」と略)が登場。仏技術を吸収した中国核工業集団公司(CNNC)と中国広核集団有限公司(CGN)の別個の設計を融合したもので、現状では「華龍」が中国のPWRの主流炉型になる可能性が強い。

②PWR標準化を促進:世界市場でのブランド化をめざして
・2017年2月23日に「華龍一号国家重大プロジェクト標準化実証実施方案」を公表し、4月3日に「華龍」標準化プロジェクトを開始した。
・2018年8月10日、国家能源局(NEA)が「原子力発電の標準化強化事業に関する指導意見」の中で「華龍」の標準化をPWR全体に拡大する方針を示した。10年後に国際原子力標準化で中国が主導的役割を果たすことを狙う。

③国家成長戦略に基づく積極的な原子力輸出
・2015年1月の国務院常務会議で、経済圏構想「一帯一路」の重点施策として原子力発電プラントや高速鉄道の輸出加速を決定した。
・現在、「華龍」はパキスタン(カラチ-2・3号機)で建設中。またアルゼンチン(5号機)、英国(ブラッドウェルB)への輸出を予定。トルコではAP1000×4基(またはAP1000×2基+CAP1400×2基)の建設計画が進展中。
・このうち英国のブラッドウェルBプロジェクトでは、CGNが仏電力(旧EDF。現Iberenergia)の英国法人「EDFエナジー」と協力して「華龍」×2基を建設する。EDFエナジー33.5%、CGN66.5%の出資で現地に業務管理合弁会社「General Nuclear Services (GNS)」を設立、また同比率で原発建設費用も賄う。現在英国原子力規制局(ONR)の包括的設計審査が進展中である。
・中国が原子力輸出で価格の安さに加えアピールしているのは次の諸点である。
 a.中国側事業者を単一の窓口にした全サービスの提供
 b.国産化協力(トルコへは「技術移転」という言葉を使用)
 c.資金調達
 d.世界市場への将来の協力
・ロシアは、BOO(建設・運営・所有)方式の資金調達支援、総合的な要員育成システム、核燃料サイクルの手当てで強みを発揮している。フランスも、要員育成システムと核燃料サイクルの手当てで強みをもつ。
・中国は要員育成システムと核燃料サイクルの手当てでは弱点を抱えるものの、資金調達、国産化協力、世界市場での協力は新興国には魅力的である。
・EPRとAP1000を世界で最初に運転開始した実績に加え、さらに建設中の「華龍」の技術的・経済的実証ができれば大量の顧客獲得が期待できる。
・それゆえ、中国の原子力技術力の試金石となる西側先進国英国のブラッドウェルBプロジェクトには全力を挙げて取り組んでいる。

④中国の将来炉の開発路線
・第四世代炉の開発では、中国は世界の最先端国グループに入ったと言える。
・とくに「高温ガス炉」は、実証モジュール炉HTGR(グロス電気出力21.1万kW)の建設が石島湾で進展。また60万kW級商業炉プロジェクトが江西省、福建省、浙江省、広東省等で準備されている。
・高速炉では実証炉CFR600(60.0万kW)が福建省霞浦で2017年12月29日に着工した。
・モジュラー式小型炉(SMR)でも海上浮揚式実証炉ACPR50S(6.0万kW)が2016年11月4日に着工した。

4.中国の原子力産業の基盤強化に向けた取り組み
①製造部門の重要技術課題への取り組み
・2010年ころからの製造技術課題として次の品目が繰り返し指摘されていた。
 a.主冷却材ポンプ(RCP)
 b.圧力容器(含鍛造部材製造)
 c.安全バルブ
 d.計装制御システム(I&C系)(含デジタル化技術、シミュレータ技術)
 e.電線電纜(とくに不燃性)
・これら製造技術課題への中国側取り組みの成果
 RCPでは、概ねAP1000、CAP1400のRCP国産化を達成したが、改善の余地がある模様。
 圧力容器では、部材もほぼ国産で調達でき、製造技術はすでに世界レベルというが、圧力容器や鍛造部品の製造技術は弱いとの評価も一部に残る。
 安全バルブでは、世界レベルの製造にはまだ時間がかかる模様。
 I&C系では、2016年に北京広利核系総工程有限公司(CTEC)がIAEA安全規格審査に合格し、2017年にはSNPTCがCAP1400のデジタル・システム「NuPAC」の米国原子力規制委員会(NRC)の安全認証を取得した。しかし国務院の通達では国産I&C系の信頼性の向上の期待が強い。2018年5月に運転開始した陽江-5号機では、デジタル化したI&C系を米・仏・日に次いで国産化したとCGNが発表している。
 電線電纜は、中国側にとって依然関心の高い品目である。
・この他、最近の中国側の関心品目として、「使用済核燃料の貯蔵・輸送容器製造技術」、「非常用ディーゼル電源」、「溶接材料」も挙げられている。

<日本原子力産業協会の会員の皆様へ>

・以上が今回の中国の原子力発電開発に関するレポート概要のご紹介です。
今回の調査では、繰り返し発令される安全規制や技術向上指導の通達から、国務院の国家能源局(NEA)や国家核安全局(NNSA)の求める「世界レベルの絶対安全な原子力発電運転」の真剣さが伝わって来ました。
中国の原子力産業が国務院の厳しい要求水準にどう応えて行くのかはこれから注目するところですが、現在、世界一の勢いで原子力発電所を建設している中国は、この間重大な事故を起こさないよう細心の注意を払って行けば、OJTにより試行錯誤を積み重ねながら着実に世界一の安全水準に向かって成長を遂げることになるのではないでしょうか。
監督・管理を厳格にして危機に対処する方向に走り勝ちで、適正な対応力を養う指導の仕方が弱いように感じる中国ですが、今回のレポートが、中国の産業界との互恵的なビジネス実現の一助となれば幸いです。

世界3位の原子力大国「中国」:安全運転の徹底と世界市場への進出

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