第46回原産年次大会 原産協会会長所信表明



一般社団法人 日本原子力産業協会
今井敬会長

   日本原子力産業協会の会長を務めております今井でございます。第46回原産年次大会の開会にあたり、一言ご挨拶を申し上げます。

 東日本大震災から二年余りが経過いたしましたが、東京電力福島第一原子力発電所の事故により、いまだ多くの皆様が、不自由な避難生活を、余儀なくされておられます。
 このことに対し、心からお見舞い申し上げます。

 わが国の経済は、前政権の一貫しない原子力政策に翻弄され、大きく停滞してしまいました。
 ほぼ全ての原子力発電所が停止している状態が、長期化しており、とりわけ立地地域において、ダメージが顕在化しています。
 今月に発表された貿易収支は、9ヶ月連続の赤字であり、東日本大震災が起きた2011年3月からの累積赤字額は、2年間で12兆円にも達しております。
 その要因は、原子力発電所の稼働停止に伴う、液化天然ガス(LNG)や原油の輸入量の大幅増加によるものです。
 これによる国富の流出は、年間4兆円にものぼります。
 先日、東京電力に加え、関西電力と九州電力が、電気料金の値上げをいたしました。他の殆どの電力会社も、今後値上げを予定しております。
 一般家庭の負担増とともに、製造業をはじめとするわが国の産業が苦しめられ、国民全体が、ますます疲弊していくこととなります。
 中でも、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働については、もし再稼働できないという事になりますと、東京電力が果たすべき福島の復興計画の破綻につながりかねない、重要な問題であります。
 また、再稼働の見通しがつかない状況が続けば、原子力業界の投資の停滞と共に、技術力の低下や、人材の他産業や海外への流出などが、一層深刻になり、国力そのものの地盤沈下を招きます。

   わが国のエネルギー自給率は4.8%に過ぎず、化石燃料依存度は88.8%であります。
 その大半を中東地域に依存しており、ホルムズ海峡に有事があった場合には、わが国は壊滅的な打撃を受けることになります。
 シェール革命に沸きながら、エネルギー安全保障の観点から、原子力重視の姿勢を堅持する米国の姿勢に学ぶべきです。
 加えて、再生可能エネルギーが、安価で安定的な電源となるには、まだまだ時間を要するという現実を踏まえますと、経済性に優れた基幹電源としての原子力の必要性は、自明のものであります。
 昨年末に発足した自民党政権は、3年以内に、原子力の方向性を決定する、とのスタンスをとっております。
 原子力規制委員会の下で、安全が確認された原子力発電所は再稼働させるとの方針を打ち出しておりますが、早期に適切な政治判断をされることを、切に望みます。

   一方、世界の情勢をみますと、一部の国を除き、多くの国々が、事故後も、原子力の開発・利用を継続する、との政策をとっており、アジアなど数ヶ国でも、新規に運転を開始しています。
 また、中国、インド、韓国、ベトナム等においても、多数の新規建設が予定されており、2030年には、アジア地域で約200基が、世界では約500基の原子力発電所が稼働している、との見通しであります。
 我々は、事故の経験と知見を、世界と共有し、原子力安全向上に繋げなければなりません。
 3Sすなわち、核不拡散、原子力安全、核セキュリティーの確保を大前提に、世界の期待に応えていくことは、原子力先進国である、わが国の責務でもあります。
 また、原子力技術の海外展開は、日本の成長戦略の一翼を担うものであります。

   政府には、原子力ビジネスの実情を、危機感を持って受け止め、強いリーダーシップと、省庁横断的な司令塔機能の強化を望みます。
 次に、原子力規制委員会について、述べたいと思います。
 今後の原子力の利用に当たっては、安全性の確保が全てに優先することは、申すまでもありません。
 政府から独立し、原子力発電所の安全性を、客観的・科学的立場から判断する原子力規制委員会が設立されたことは、失われた信頼回復の観点からも、大変有意義な一歩となりました。
 何より大事なのは、原子力規制委員会が策定した新基準案が、国内のみならず、海外からも受容される内容であることであります。
 そのためには、徹底的に透明性を維持し、また、批判的な視点にも、考慮を払うことが重要です。
 また、過去の規制制定における経緯や、科学的知見等について、関係者から十分に聴取し、今後の判断に活用する必要があります。
 そして、科学的知見のみならず、工学的観点から、安全性を考察するスタンスを取り入れて、過剰に高いハードルを、設定することがないように、していただきたいと思います。
 また、諸対策を実施している事業者等ともオープンに意見交換し、お互いが、理解・納得できる実効的な規制を目指すべきと考えます。
 さらには、今後、日本の規制基準を、国際基準と整合させる為に、海外の専門家とのコミュニケーションを、いっそう充実していただきたいと思います。

   次に述べるのは、福島の再生・復興についてです。
 「福島の再生と復興なくして、日本の原子力の将来はない」。これが、エネルギーにおける原子力の位置づけを考える際の、出発点であります。

   避難を余儀なくされている多くの方々の、一日も早いご帰還を実現するためにも、国内外の叡智を結集し、資源(人、物、金)を、優先的に投入していく必要があります。
 中でも、福島第一原子力発電所の廃炉問題は、これまでに人類が経験したことのない、困難な課題であり、その行方は、世界中が注視しております。
 世界の智慧を結集し、その経験を共有するため、我々はこれまで、福島に廃炉技術に関する、「国際研究開発センター」を設立すべきと提唱してまいりました。
 このセンターは、廃炉作業を、安全かつ効率的に進めるための技術開発の核となります。同時に、原子力の人材育成や、福島地域の再生・復興の観点からも、重要な役割を果たすことが期待されます。
 これに対し、今般、政府は、850億円という、巨額の廃炉技術の開発・実証施設を、2014年度までに、福島県内に建設する構想を明らかにしました。
 また、今後、研究開発に関する運営組織の設立や、国際原子炉安全研究センターの設置も計画しています。
 これらの実施にあたっては、ロシア、アメリカなど、事故を経験した海外の知見も、是非取り入れていただきたいと思います。
 加えて、チェルノブイリから得られた、低線量被曝に関する正しい理解の重要性を教訓に、放射線についての正しい知識を、被災地の皆様へ提供する体制の整備が、喫緊の課題であります。
 放射線影響への理解を高めることは、除染や中間貯蔵施設、ひいては、福島の再生・復興にもつながるのではないでしょうか。
 また、被災地域の産業再生に向け、風評被害を一掃する為にも、福島のみならず、国民全体が、放射線の影響や被災地域の実状について、正しく理解することが重要と考えます。

   これまで述べてまいりました課題に着目して、本年次大会は「原子力ゼロ? 世界がつきつける日本の責務」を、基調テーマといたしました。
 プログラムの構成といたしましては、特別講演に引き続いて、3つのセッションを、2日間にわたって行ってまいります。
 一つ目のセッションでは、新たなエネルギー基本計画が見直される中、わが国の将来像を見据えた上で、エネルギーミックスのあるべき姿について考えます。
 二つ目は、事故の教訓を真摯に受け止め、原子力の安全性向上への取組みについて、国内外の原子力安全専門家の知見を共有いたします。
 三つ目のセッションでは、被災された自治体の、大熊町(おおくままち)や復興庁からもご出席いただき、福島の長期に亘る再生・復興への道筋について、関係者による意見交換を行います。
 このように、幅広く国内外からご登壇をいただく方々と、認識を共有しながら、今後の原子力に求められる方策について、ご出席の皆様と共に、考察したいと思います。

   今回の議論で、少しでも、福島はもとより、わが国の経済が回復することを期待します。

以 上