[JAIF] 国際協力

ロシア・クルチャトフ研究所のベリホフ総裁、今井会長と懇談


青森で開催された第2回ITER(国際熱核融合実験炉)理事会に出席するために来日した、ロシアのクルチャトフ研究所総裁のベリホフ総裁は、6月19日、当協会の今井会長および服部理事長と懇談した。ベリホフ総裁は、冒頭に、「ITERは自分の30年越しの夢であり、日本に多くを期待する。これまでも経団連との会合等に多々出席したが、今井会長との会見ができなかったので、今回お会いできてうれしい」と述べた。今井会長は、ベリホフ総裁が原産協会と1993年に協力協定締結後から協力していることに感謝し、今後の日ロ協力についての支援を要請した。また、一昨年のサンクトペテルブルグでのG8サミット以降、原子力の再評価が進んでいることに触れ、原子力発電は地球温暖化防止の切り札と語るとともに、今年、東京で開催された第41回原産年次大会に福田首相が特別出席し、原子力支持について力強い所感を行ったことを紹介した。

ベリホフ総裁は、2000年の沖縄サミットのロシア側の準備に関わったことを披露、エネルギー問題での原子力発電の重要性を指摘した。さらに、ロシアでは現在の原子力発電依存率16%を今後、倍にして行く方針で臨んでいるのに、世界では、同依存率が今後20年から30年くらいでもわずか15%にしかならないことに警鐘を発し、これを同じく倍にすべきと語った。この観点から原子力発電の促進が必要であるが、それには核不拡散と安全の確保が重要で、これは技術の問題ではなく、政治的な課題であると述べた。

同総裁は、また、米国のGNEP(国際原子力パートナーシップ)などの各種構想の比較を行い、「現在、現実性の高いもののひとつが米国のGNEPだが、後発国には技術へのアクセスを禁止する不平等性の克服が課題である。この差別解消にはプーチン前大統領の国際核燃料センターが有効な面もあるが、これに加えて、さらに多くの国の参加を得るための提案をしたい」と述べ、かつて欧州の航空機産業が米国に対抗して行ったエアバス共同開発を先例とする、多くの国々の国益と企業活動の調整を原子力発電分野にも広げるため中型炉共同開発プロジェクトに関する提案を紹介した。このプロジェクトは、IAEAのエルバラダイの選任した「20/20」という専門家によるIAEAの中長期活動方針の検討チームの中で行っていることも紹介した。

さらにサンクトペテルブルグのサミットで、同総裁が原油の大高騰の予測を紹介したが、当時は信じる人がほとんどいなかったことも披瀝した。また、原子力発電のみでは現在のさまざまな問題に対処はできないが、原子力発電がその大部分に対応できるとの認識を示した。

今井会長は、原子力平和利用の重要性に触れ、日ロ間での原子力協力では、原子力協力協定の締結が不可欠との考えを強調した。ベリホフ総裁も、同協定の締結の必要性に同意した上で、「現在のメドベージェフ大統領とプーチン首相の関係は透明性が高く、政権としては非常に安定しており、長期化すると思われる。メドベージェフ大統領は、ロシアを活性化し、民主的国家にしたい、と就任演説で述べた。プーチン首相は経済運営に専念する。この観点からすると、米国のほうがロシアよりも見通しがたたないといえる」と語った。さらに、国際核燃料センターにはカザフスタンが参加していることを指摘した。

今井会長から、ロシアの極東地域での原子力発電所建設の計画についての質問があり、ベリホフ総裁から「ニーズはあり、今後の極東地域の電力は原子力発電もその選択肢にある。国内には石炭で全部の電力を賄えるという人もいないではないが、輸送や環境の問題が大きい。欧州ロシアでは原子力発電が不可欠。極東やシベリアに30〜40万kWの炉を作ることも可能であると思う」と答えた。

今井会長から、「それらの炉は国産化で進めるのか?輸出も志向しているのか?」との質問があった。ベリホフ総裁は、「ロシアの原子力発電プラント製造技術は米国同様遅れており、20年間製造経験がない。今度日本からの設備も入れたい。原子力発電プラントを早く量産化することが大切で、それにより標準化を促進したい。しかし、現実は、市場任せの結果、標準化とは逆行している。中国、インド、アルゼンチンの原子力発電開発もさまざまな形をとりつつあり、標準化がむずかしくなっている。が、やがては標準化が必要になるので、それなら早いうちにするのがいい。その観点では、30〜40万kW炉の標準化が最も協調性を生みやすい。送電、資金調達の問題もクリアしやすい。原子力は他のエネルギーに比較し、燃料コストの占める割合も低い。米国ではその容量の炉なら近い将来500基のニーズがあるとの試算もある。米国、ロシア、中国、インドも市場になる。量産すればコストも安くなる。ロシアは原子力艦船で中小型炉の運転経験が6000〜7000炉・年の実績があり、貢献できる。カザフスタンはロシアとの協力に関心を示しているが、二国間でやるものではなく、国際的な大きな枠組でやるべきことと考える。その土壌はIAEAのINPRO(革新的原子炉と燃料サイクルに関する国際プロジェクト)のようなところで出来つつある、日本もその推進に協力してほしい」と語った。

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