非破壊検査で原子力発電所の現場を支える
−日立NDEセンターの取り組み

 原子力発電所の保全は、運転開始から30年を超える高経年プラントも増えてきているなかで、その重要性を増している。とくにプラントの安全と信頼を支える機器を高精度に、また合理的に検査する技術の向上が求められている。
 日立製作所および日立GEニュークリア・エナジー鰍ヘ、非破壊検査(NDE)技術の高度化と、専門の検査員の技量維持・技術力の向上をはかるため、同社の日立事業所に「NDEセンター」を設立し、効果をあげている。同センターの取り組みを現地に取材した。

(原子力産業新聞 保科俊彦記者)

1.現場と密に連携し、検査技術の高度化に挑む

 同社センター内にはシュラウド(原子炉内に設置された仕切り板)支持部など、実物大の試験体が所狭しと並べられ、最先端の検査技術開発の現場適用性をみながらの開発が進められている。
 現在開発している技術のなかで、微小なきずの深さを精度よく測定できるフェーズドアレイ方式の超音波探傷技術の開発は、これまでの原子力発電所でのトラブル等の教訓を踏まえ重要な開発課題。フェーズドアレイ超音波探傷技術は、超音波を送受信する多数の素子をセンサ内に配列し、超音波ビームを電子的に走査させる方式なので、検査精度が向上し、検査時間も短縮できるものと期待されている。日立グループでは、現場適用を向上させるため小型化と探傷性能向上の両立をはかった新型フェーズドアレイ超音波探傷装置を開発し、製品化している。
 また原子炉内に設置されている機器も複雑な形状部分をもつため、最適なフェーズドアレイ探触子を開発している。例えば、シュラウド支持部溶接部などの曲面形状に適した探触子を開発、また炉底部の機器には多軸式のロボットアームなどと組み合わせて精度のよい非破壊検査が可能な技術を開発している。

三次元システムでの探傷結果の一例。立体画像をCADデータに重ねて示すと、格段にわかりやすい画像に
 (資料提供 日立GEニュークリア・エナジー)

 さらに高機能化を目指して、検査速度と欠陥検出性の更なる向上を目的に、三次元フェーズドアレイ超音波探傷システム「3D Focus-UT」の開発を進めている。
 このシステムは、センサ内の素子を二次元マトリックス状に配置し、センサを固定した状態で超音波ビームを三次元走査することができ、さらに探傷データを三次元表示することで、探傷領域を一括して評価することが可能だ。(左図に探傷結果の一例を示す。) また本システムは、CADシステムの画像などと組合せ、微小なきずの評価精度を格段に向上させている。
 今後、現場ニーズに合わせて製品化し実用に供していく考えだ。

 ガイド波センサーの一例
(部分設置型)
(写真提供 日立GEニュークリア・エナジー)

 また、原子力発電所内の配管の減肉状況の検査も高度化が期待されている技術のひとつだ。同社では、従来配管を覆っている保温材を取り外すなどの手間がかかっていた配管の減肉検査を合理的に進めるため、保温材の一部をはがしてセンサを設置し、ガイド波(超音波の一種)を送信して20m分を一括して検査できる技術を開発し、微小な減肉(例えば配管断面積の1%)も検出可能なシステムを実用化している。(右の写真には、大口径管に設置した部分設置型のガイド波センサの一例を示す。)

2.検査員の技量維持・向上の場としても活躍

 NDEセンターは、こうした先進の技術の開発とともに、専門の検査員の技量維持・向上の場でもある。取材に訪れたこの日も、定期検査に派遣される前の検査員の訓練が行われており、真剣な面持ちで取り組む姿がみられた。
 日々のたゆまぬ研鑽の場として、同センターは原子力発電所の現場と密接に連携し、現場を“守る眼と技術”の育成に力を発揮している。

 取材に訪れた日も検査技術
の訓練が 実施されていた
(写真はNDEセンター内)

 日立事業所では、安全を体感するための教育や現場での指導者を養成する取り組みをはじめ、品質保証の観点から原子力を含む全般的な教育訓練を実施するため「品質保証トレーニングセンタ」を置いて同事業所の社員全員に教育を行っている。そのなかにこの「NDEセンター」を置いたのが7年前。
 原子力の品質保証に関連する部署が連携して立ち上げたもので、協力会社を含めて非破壊検査技術だけでなく欠陥の事例や過去の履歴などを含めて実践的な教育訓練を行ってきた。
 先進の技術への対応ばかりでなく、従来技術に対応できる検査員の技量を維持・向上させ多様なニーズにこたえるための取り組みを継続していく方針だ。
 原子力産業の品質と信頼の向上を現場で支える技量を維持・向上させる重要な取組みの一端を同センターで垣間見ることができた。

 ※本稿は、原子力産業新聞の2009年10月29日付「原子力の日特集号」第12面に掲載された取材記事のフルテキスト版をご紹介する特集ページです。