新規原子力発電導入国の動き マレーシア原子力庁レポートより


翻訳:石井敬之
監修:小林雅治/中杉秀夫

アルバニア

 政府は2007年、原子力発電所建設計画を提案。建設候補サイトは、同国西部のドゥレス。国内への電力供給だけでなく、バルカン諸国やイタリアへの電力輸出も狙っている。イタリア電力(ENEL)が現在、原子力発電所建設の実行可能性を調査中。

アルジェリア

 アルジェリアは天然ガスの輸出大国であり、天然ガスによる発電電力量は340億kWh(2005年実績)。

 政府は2007年1月、原子力発電の導入調査でロシアと協定を締結、原子力発電導入に意欲を示しているが、今後20年の長期スパンで検討するという。そのほかにも米国と2007年6月に、フランスと2007年12月に原子力協力協定を締結。特に仏アレバが強い関心を示している。中国とも2008年3月に原子力平和利用協力協定を締結した。

 国内では1995年から、Draria(アルゼンチンのINVAP社製)とAin Ouessara(中国製)で2基の研究炉が稼働中。

オーストラリア

 オーストラリアは2006年に2,550億kWhを発電。設備容量は4,600万kW。発電電力量のうち年間230億kWhは、アルミ産業が消費している。最終電力消費量は1,870億kWhで、一人当たりの年間電力消費量は9,100kWh。

 総発電電力量に占めるシェアは、石炭火力が80%、天然ガスが12%、水力が7%。低コストな電力が同国の強みだが、CO2排出量が多い。こうしたことから、将来的な原子力発電の導入の可能性を探る議論が始まっており、2007年9月にはGNEPに参加した。

 オーストラリアでは研究炉が1956年より稼動してきたが、現在、これに代わる20MW(熱出力)の新しい研究炉が運開している。

 政府は1970年頃に、ニューサウスウェールズ州東部のジャービス湾に原子力発電所を建設するプロジェクトの競争入札を検討。英米独加の4炉型が候補となったが、1972年の政権交代によりプロジェクトはキャンセルされた。濃縮プラントの建設に関しては、1983年まで数多くの計画が浮上した。

 2006年末、首相直轄の専門家タスクフォースが原子力発電導入を検討した報告書を発表した。報告書は、「原子力発電は石炭火力よりも20〜50%ほどコストが割高であるが、CO2排出に対し課金(CO2トン当たりAUD 15〜40、USD 12〜30)されるようになれば、再生可能エネルギーとともに十分に競争力を持つ」、「原子力発電はベースロード電力を供給できる最も安価でCO2排出量の少ない技術であり、ライフサイクルでの環境影響も少ない」と指摘。第1陣の原子力発電所を15年後に運開させ、長期的には2050年までに国内電力需要(現在の2倍と予測される)の3分の1を、25基の原子力発電所(沿岸部に建設)でまかなう、とした。そして、原子力発電に投資することで温室効果ガスを劇的に削減するとして、「2050年にはオーストラリアのCO2排出量の8〜18%を原子力発電で削減できる」との予測を示した。

 2007年初め、民間のAustralian Nuclear Energy社が、将来的な原子力発電導入を検討中であることを明らかにした。

アゼルバイジャン

 アゼルバイジャンの総発電電力量は210億kWh(2005年実績)。政府は100万〜150万kW級の原子力発電所1基を建設する計画を掲げている。2010年にも同国南部のAvai地方で着工し、同地方の工業開発を推進させたい考えだ。

 国際原子力機関(IAEA)は2008年6月、10〜15MW級の研究炉建設の支援で同国政府と暫定的に合意した。首都バクー郊外に建設し、2012年の着工を予定している。研究炉の総コストは1億1,900万ドルで、原子力研究機関であるNational Academy of Sciences Institute for Radiation Problemsが運営する。

バングラデシュ

 バングラデシュの2005年の総発電電力量は226億kWhで、総発電設備容量は400万kW。総発電電力量の89%は天然ガス火力が占めている。一人当たりの年間電力消費量は114kWhだ。バングラデシュでは近年、電力需要が急増している。

 同国西部への原子力発電所建設計画が浮上したのは1961年。数多くの報告書が、技術的にも経済的にも建設は可能と判断し、1963年には建設サイトをパブナ地区ルプール・サイトに決定。用地も取得された。

 政府も建設計画を正式に承認し、独立後の1980年には12万5,000kW級原子力発電所の建設が承認されたが、実行されなかった。

 その後、電力需要の増大や送電容量の余剰などから、より大きな炉が建設可能と判断され、政府は1999年、ルプール原子力発電所の建設を遂行する考えを表明。2001年には原子力建設に向けた行動計画を決定し、2005年に中国と原子力協力協定を締結した。

 バングラデシュ原子力委員会は2007年、2015年までにルプール・サイトに50万kW級原子炉2基を建設する計画を発表。コスト計算例として、60万kW級原子炉なら9〜12億ドル/基、100万kW級原子炉なら15〜20億ドル/基との数値も示した。2008年4月、政府は中国の協力でルプール原子力発電所を建設すると再度強調した。中国は同建設計画への資金調達を表明した。

 ロシアと韓国も以前、バングラデシュの原子力導入に向けた財政面および技術面での支援を申し入れていた。

 なおバングラデシュには3MW級TRIGA炉があり、1986年から稼動している。

ベラルーシ

 ベラルーシは700万kWの設備容量(ほとんどがガス火力)から年間310億kWhしか発電していない。一人当たりの年間電力消費量は、3,330kWhだ。

 ガスの90%はロシアから輸入しており、ほとんどが発電に使用されている。長期的にはエネルギー自給率25〜30%(現在はその半分程度)の達成を目標としている。1基の原子力発電所を導入すれば、年間2億〜4億ドル分のガス輸入を減らすことが出来ると試算されており、@ロシア製原子炉の国内建設、Aロシアのスモレンスクまたはクルスクに建設される新規原子力発電所への資本参加――の2オプションが検討されている。

 新規石炭火力発電所の建設計画は、石炭供給のメドが立たず2005年に棚上げされたが、現在60万kW級石炭火力発電所が建設中だ。

 2006年中旬、政府はベラルーシ東部のモギリョフにまず第一期分として200万kW分(100万kW×2基)のPWRを建設するプロジェクトを承認した。実現すれば、40億ユーロ(2008年1月推定)のターンキー方式で、ロシア産ガスの半値(同じ設備容量分の年間ガス所要量50億立方m)で電力供給が可能。2020年までに国内電力需要の30%をまかなうことが出来る。

 エネルギー省の2008年8月の発表によると、露アトムストロイエクスポルト社、ウェスチングハウス−東芝、仏アレバ(EPRは出力が大きすぎるが)が同プロジェクトに関心を示している。これまでのところ、ロシアが最有力候補と考えられている。計画では初号機(100万kW)を2016年に、2号機(100万kW)を2018年に運開させる。将来的には2025年までにさらに2基の原子力発電所も検討されている。なおロシア輸出入銀行は2007年6月、露パワーマシーンズ社製品などに20億ドル分の輸出信用を付与した。

 2007年11月、大統領令により原子力発電導入を所管する組織や、エンジニアリングやサイト選定に必要な予算が手当てされた。サイト選定は2008年末に終了する予定で、モギリョフのクラスノポリヤンスクとククシノブスクの2地点が候補に挙げられている。2009年初めにもサイト準備作業を開始し、2010年にも着工にこぎつけたい意向だ。原子力発電所は部分的あるいは全体的に民営化されることになっており、ブルガリアでの前例を研究中である。

 大統領令はまた、原子力安全や放射線安全について国際原子力機関(IAEA)の勧告に従うとしている。原子力発電所建設総局がエネルギー省の傘下に、原子力・放射線安全局は緊急事態省の傘下に発足する予定で、規制当局としての役割を果たす。国営のBelnipienergoprom社は、建設プロジェクトの事業主体として、契約交渉から実行可能性調査の実施、入札の実施に至るまですべてを実施する。

 安全保障会議は2008年1月、ベラルーシが2020年までに30%の電力を供給するために原子力発電所建設に着手している、と確認した。建設コストは40億ユーロとなる見込みだ。

 なお首都ミンスク郊外ではかつて、VVER-1000型炉が建設されつつあった。しかし1988年のチェルノブイリ事故により中断した経緯がある。

チリ

 チリはエネルギーの70%以上を輸入しており、そのほとんどが炭化水素である。2005年の設備容量は1,100万kWで、総発電電力量は500億kWh、20億kWhを輸入した。アルゼンチンによるガス供給途絶などエネルギー・セキュリティを確保するため、2020年までに500万〜700万kWの追加設備容量が必要となっている。一人当たりの年間電力消費量は2,760kWhだ。降雨量に左右されるが、電力の40〜50%は水力に依存しており、約35%が輸入に依存する天然ガス火力である。石炭火力は20%で、新規建設計画もある。

 エネルギー省は2007年2月、原子力発電開発に向けた技術的検討に着手したと発表。すでに主要事業者が仏アレバ社と、国内北部および中央部グリッドに接続する新規原子力発電所について交渉を開始している。2007年11月には、チリ大統領がエネルギー相に、次期政権に向けた原子力オプションについて新たな検討を実施するよう指示した。

エジプト

 エジプトの2005年の発電設備容量は1,800万kWで、総発電電力量は1,090億kWhだった。一人当たりの年間電力消費量は1,350kWh。総発電電力量の割合は、天然ガスが84%、水力が16%。電力需要は、年間約7%で増加している。

 1964年、出力15万kW、海水脱塩能力2万立方m/日の原子力発電所建設計画が浮上。その後1974年には出力60万kWの原子力発電所建設計画が浮上した。1976年にはエジプト原子力庁(NPPA)が発足し、1983年には建設サイトとして地中海沿岸エルダバ地点が選定された。同計画はチェルノブイリ事故で頓挫したが、NPPAは2003年、発電および海水脱塩の併用プラントとして実行可能性調査を実施した。

 2004年末には、ロシアと新たな原子力平和利用協力協定を締結し、2008年3月にはそれを強化。エジプトの原子力発電/海水脱塩プラントはロスアトムの支援により復活している。中国とも2006年に原子力協力協定を締結した。

 エジプトはロシアから供与された1961年製の2MW級研究炉を保有しているほか、ロシアの部分支援によりアルゼンチン製の22MW級研究炉を1997年に起動している。

 エルダバでの原子力発電/海水脱塩プラントの実行可能性調査をベースに、エネルギー省は2006年10月、同サイトへの100万kW級原子力発電所の建設計画を発表した。2015年までに着工する考えで、総コスト15億〜20億ドルと試算される同計画には海外資本の参入も視野に入れている。

エストニア/ラトビア

 両国はこれまで自国での原子力発電所建設計画を持たず、リトアニアでのイグナリナ原子力発電所リプレース計画に参加している。同計画はリトアニアだけでなく、エストニア/ラトビアとポーランドへの電力輸出も企図したものだ。

 エストニアは2008年、自国での原子力発電所の建設可能性に向けたサイト選定の準備に着手。同時に、フィンランドで浮上している6基目の原子力発電所建設プロジェクトへの参加可能性を検討している。エストニアは最近、欧州委員会からの援助に加え総額1億1,000万ユーロを投じ、フィンランドとエストニアを結ぶ送電ケーブル(容量35万kW)を開通させた。

 エストニアは、旧ソビエト海軍が原潜搭乗員の訓練に使用した小型の舶用炉を2基保有している。両機はそれぞれ1968年、1983年から使用されていたが、ともに1989年に閉鎖され、安全に管理されている。解体は50年後の予定だ。

グルジア

 グルジアの2005年の総発電電力量は73億kWh。そのほとんどが天然ガス火力によるものだ。そのほか電力輸入量として15億kWhがあった。

 グルジアはロシアへのエネルギー依存度が極めて高く、エネルギー自立を支援するために原子力発電所を建設することについてはかなりの議論がある。これについてはアゼルバイジャンやアルメニアと連携することもありうる。

 2006年11月、ロシアはグルジアへの天然ガス価格を2倍に引き上げた。2008年8月、ロシアはグルジアへ侵攻した。

ガーナ

 ガーナの2005年の総発電電力量は68億kWhだった。

 2007年4月、政府はエネルギー・セキュリティの観点から原子力発電導入計画を発表。2008年5月には、2018年までに40万kWの原子力発電設備容量を導入する計画を明らかにした。なお2007年9月、GNEPに参加している。

 ガーナには小型の中国製研究炉があり、1994年から稼動している。

湾岸諸国、アラブ首長国連邦

 2006年12月、湾岸協力会議(GCC)に加盟する6カ国――クウェート、サウジアラビア、バーレーン、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、オマーン――は、原子力発電導入に向けた検討に着手すると発表。フランスが検討作業への協力を、イランが技術面での協力を申し出た。

 6カ国の2003年の総発電電力量は2.730億kWhで、すべて化石燃料火力により、電力需要は年率5〜7%で増大している。総発電設備容量は8,000万kWで、6カ国共通の送電グリッドを形成している。また、現在石油やガスで稼動させている海水脱塩プラントの需要も高い。

 UAE単独の発電設備容量は1,800万kWで、電力の85%をガス火力で、残りを石油火力でまかなっている。

 6カ国は2007年2月、原子力発電および海水脱塩の実行可能性調査に関する協力で国際原子力機関(IAEA)と合意。サウジアラビアが調査を主導しており、2009年に計画の詳細が明らかになると思われる。

 6カ国はいずれもNPTに署名しており、UAEは2003年にIAEAの保障措置協定を批准している。2008年中頃、UAEはIAEA大使を任命した。

 2008年1月、仏企業のアレバ社、スエズ社、トタール社の3社は、UAEへのEPR×2基供給に向け、パートナーシップ協定を結んだ。スエズ社とトタール社がそれぞれ建設プロジェクトの25%までを出資し、残りの少なくとも50%をアブダビ(ドバイ西方100km)の実施主体が出資する。アレバ社がプラント供給と燃料管理を実施し、スエズ社が運転者となる。スエズ社とトタール社は現地に根付いており、アブダビで発電/海水脱塩プラントを運転している実績がある。初号機の運開は2017年以降と見られている。

 2008年4月、UAEは独自に包括的な原子力政策を発表。電力需要が2008年の1,550万kWから2020年には4,000万kWに急増するとの見通しに言及し、天然ガスでは電力需要の半分にしか対応できないと指摘した。そして環境面やエネルギー・セキュリティの観点から、輸入炭は問題外であるとし、「確立された環境面にやさしい技術であり、コスト面でも競争力を持つ原子力発電が、UAEの経済および将来のエネルギー・セキュリティにベースロード電源として多大な貢献をする」と結論している。

 そしてIAEAの勧告に従い、UAEは@原子力発電開発計画を評価・実施する「アラブ首長国連邦原子力公社(ENEC)」を設立し、資本金1億ドルを供出、A独立した原子力規制当局を発足すべく、原子力法の策定に着手、B原子力発電所の建設・運転にあたり海外資本の参入を呼びかけ(UAEは水資源や電力の開発のため、これまでも株式の60%を政府が、残る40%を海外資本による共同企業体が所有する形態を採用している)――等を実施している。

 ただし濃縮や再処理は実施せず長期契約により、原子燃料の確保/安全で確実な燃料輸送/(可能ならば)燃料リース等による使用済み燃料処分を、確立するとしている。

 報道では、UAEの初号機建設に9社が関心を寄せている模様で、UAEは2020年までに150万kW級原子力発電所3基を運開させ、天然ガス火力の4分の1のコストで発電する計画のようだ。

 すでに米国はサウジアラビア、バーレーンおよびUAEとそれぞれ原子力協力協定を結んでいる。英国は2008年5月に、UAEと原子力協力の覚書を締結。フランスはUAEと原子力協力協定を結んでいるだけでなく、サウジアラビアでの原子力導入についても仏原子力庁(CEA)による協力を申し入れている。

インドネシア

 インドネシアでは2億4,200万の人口を、発電設備容量2,140万kW、総発電電力量1,270億kWh(2005年実績)でまかなっている。一人当たりの年間消費電力量は475kWhだ。

 経済成長率は10.5%と高く、電力需要は2013年に1,750億kWh、2026年には4,500億kWhに達すると予測されている。現状の低い供給余力は、発電設備の低稼働率とあいまってしばしば停電を引き起こしている。

 インドネシアの電力の45%は石油火力とガス火力、石炭火力は36%、水力は12%、地熱が7%だ。原子力発電を導入すれば、人口密集地での電力需要増に応えるだけでなく、国内で産出する石油を輸出に回すことが出来る。

 インドネシア原子力庁(BATAN)は3基の研究炉を運転している。1987年に運開した3基目の研究炉(熱出力30MW)は、ジャカルタ近郊スルポンの原子力施設内にあり、原子力発電の導入を支援するとの位置づけだ。

 インドネシアでは1989年、ジャワ島中部ムリア半島への原子力発電所建設を目指し、BATANが本格検討に着手。地質上の安定性からUjung Lemahabangサイトを対象に、計700万kWの原子力発電所を建設する包括的な実行可能性調査が実施され、1996年に完了した。しかし初号機建設計画は、1997年初めに無期限延期された。

 その後2001年の電源開発長期計画で、ジャワ−バリ送電系統に原子力発電を導入することが盛り込まれた。出力1kWあたり2,000ドルの投資コストで、設備利用率85%の技術的に実証されている100万kW級原子炉を採用し、2016年に200万kW、2025年に600万〜700万kWの原子力発電所を導入するという。ジャワ−バリ系統の電力需要は、インドネシアの電力需要の4分の3以上を占めている。

 2003年後半、BATANが採用炉型を、韓国製100万kW級PWR(OPR-1000)とカナダ製70万kW級PHWR(ACR-700)の2つに絞ったと報道された。電力不足の緊急性から韓国炉が優勢だったようだ。

 その後2006年の原子炉許認可法に従い、独立した発電事業者がムリア半島の3サイトのうち1サイトに原子力発電所を建設する可能性も出てきた。計画によると、2008年にムリア1,2号機(各100万kW)の入札を開始し、2010年には主契約者を決定した後着工、それぞれ2016年、2017年に運開させる。燃料は海外から調達し、できればリース形態とする。使用済み燃料は集中的に中間貯蔵する。ムリア3,4号機は2016年に入札を開始し、2023年から順次運開させる。

 政府は、4基計600万kWを2025年までに運開させるため、すでに80億ドルを用意している。現行の計画では、2017年までに電力需要の2%を原子力でまかなうとしており、石油火力やガス火力の発電コスト7セント/kWhに対し、原子力発電コストを4セント/kWhに抑えたい考えだ。

 2007年7月、韓国電力と韓国水力原子力発電(KHNP)はインドネシアのPT Medco Energi Internasional社と、エネルギー分野での協力の一環として、OPR-1000×2基を30億ドルで建設する実行可能性調査を実施することで、覚書を結んだ。

 さらにBATANは、マズーラでの発電および海水脱塩を目的に、韓国製小型炉SMARTを導入する予備調査に着手しており、現在は韓国での参照炉(先行炉)の完成を待っている状態だ。また、SulawesiのGorontalo地方で、ロシア製海上浮揚型原子炉の導入を検討しているとの報道もある。

 2007年後半には、原子力発電所の建設・運転への支援を想定し、日本と協力文書を取り交わした。これは2007年11月、日本とインドネシア両政府が締結したもので、日本がインドネシアの原子力発電開発計画の準備/計画/促進/PR活動を支援する内容が盛り込まれている。

 国際原子力機関(IAEA)はインドネシアのNuclear Technology Supervisory Agencyと連携し、ムリアおよびマズーラ・サイトでの建設計画の安全性をレビューしている。

 1980年代、原子力発電開発に向けてインドネシアは数多くの技術者を養成した。技術者の多くは新プロジェクトへも活用が可能である。

 インドネシアではさまざまな原子力施設が稼動しており、3基の研究炉以外にも、(研究所規模ではあるが)製錬・転換・燃料加工などフロントエンド部門の実施能力もある。再処理については実験レベルでも一切行っていないが、研究炉の使用済み燃料の放射性廃棄物管理プログラムがある。

 インドネシアはカリマンタンにウラン資源がある。

イラン

 イランの総発電設備容量は3,100万kW、総発電電力量は1,800億kWh、一人当たりの年間電力消費量は1,943kWhだ。電力の73%はガス火力、18%は石油火力だ。

 1970年代半ばに独シーメンス発電事業部(KWU)がブシェール・サイトに120万kW級PWRを2基着工したが、1979年に中断。革命後のイランは1991年に原子力発電開発計画を再開し、中国設計の30万kW級PWR(秦山原子力発電所の同型炉)の供給を受けることで中国と合意したが、実現しなかった。

 1994年、ロシア原子力省とイラン原子力庁(AEOI)は、ブシェール1号機の既存の設備を活かしてVVER-1000型炉を建設することで合意した。このブシェール1号機(91万5,000kW)は露アトムストロイエクスポルト社が建設しており、2008年後半にも起動し、2009年半ばに商業運転を開始する予定だ。ブシェール2号機も同サイトで計画されている。

 ブシェール原子力発電所への燃料供給に関する2つの契約は、イラン側が使用済み燃料のロシアへの無償返還に抵抗を示したため、当初予定よりも2年も遅れ、2005年初頭にようやく締結された。ひとつは新規燃料をブシェールに供給するというもの。もうひとつは、使用後に燃料をロシアに返還するというものである。

 燃料供給は本来、イランがIAEA保障措置協定の追加議定書に署名することが条件だった。イランは署名はしたが、批准はしていない。ただしロシアとの契約により、イランは予想可能な将来の燃料供給を確保する代わりに、自国での濃縮活動を禁止された。またブシェール1号機により、イランは年間60億〜70億kWhを得ると見込まれており、その分の石油や天然ガスを外貨獲得のために輸出へ回すことができる。ちなみにこれは、石油で換算すると年間160万トン、天然ガスで換算すると年間18億立方mに達する。

 露アトムストロイエクスポルト社は2007年12月、ブシェール1号機の初装荷用燃料集合体163体を搬入した。同燃料は濃縮率3.62%以下で完全な保障措置下にある。ロシア政府はイランの濃縮活動に関する交渉が進展するまで、燃料供給を差し控えていた。

 AEOIは国産の36万kW級原子力発電所を同国南西部(ペルシャ湾の奥)のフゼスタン地方ダールホヴェインに建設すると発表している。ダールホヴェインではかつて1970年代に、仏フラマトム社製90万kW級原子炉の建設計画があった。

 AEOIはほかにも、ブシェール原子力発電所近郊に2基の原子力発電所(計160万kW以下)を建設する計画を掲げ、入札を募集している。2016年頃の運開を目指している。

アイルランド

 アイルランドは人口410万、年間の総発電電力量は280億kWh、総発電設備容量は600万kW、一人当たりの年間電力消費量は6,300kWh。電力の半分を天然ガス火力でまかなっているが、石油火力のシェアは10%と、他の欧州諸国よりも石油火力への比重が比較的高い。石炭は28%で、風力が6%(設備容量は80万kW)だ。アイルランドは2020年までに300万kWの風力発電設備を整備することを目標としている。

 1981年、政府はアイルランド南東端のカーンソー岬に65万kW級PWRを建設することを検討した。しかしアイルランドの送電系統には容量が大き過ぎ、アイルランド海を越えて英国本土への連係線を整備する必要があり、その後のエネルギー需要の落ち込みに応じて撤回された。

 政策諮問機関であるForfasは2006年4月、長期的なエネルギー・セキュリティを確保するために原子力発電導入を再検討する必要があるとする報告書を発表した。報告書は、比較的小さな原子炉導入を念頭に、英国本土への東西連係線を強化し、アイルランドの原子力発電所から英国へ電力を輸出することを視野に入れている。

 2007年、アイルランドの電力供給庁は、原子力発電の導入に向けEUの主要エネルギー企業と共同企業体を形成する考えがあることを明らかにした。2008年4月には、アイルランドのエネルギー規制当局が、風力発電や再生可能エネルギーでは将来のエネルギー需要をまかなえず、代替策を模索する必要があるとして、懸案事項となっているエネルギー危機に原子力発電で対応することについて全国的な議論をするよう国民に呼びかけた。

イタリア

 イタリアの2005年の電力消費量は3,300億kWh、一人当たりの年間電力消費量は5,640kWhだった。総発電設備容量は8,100万kWで、2006年の総発電電力量は3,150億kWh。総発電電力量の電源別シェアは、天然ガス=50%、石油=15%、石炭=16%、水力=14%。国内電力需要の約15%にあたる503億kWhを、電力輸入している。そのほとんどがフランスの原子力発電所によるもので、換算すると、計700万kWの原子力発電所を80%の設備利用率で運転させた計算になる。

 石油、天然ガス、輸入電力に高く依存しているため、イタリアの電力料金はEU平均よりも45%割高になっている。今やイタリアは、原子力発電所を持たない唯一のG8国にして、世界最大の電力輸入国である。

 かつてのイタリアは原子力発電のパイオニアであり、1963〜1990年にかけて原子力発電所を建設・運転していた。しかし18カ月前に起きたチェルノブイリ事故に影響され、1987年11月の国民投票で原子力関連プログラムは大部分が凍結された。1988年には政府が原子力発電所の建設を中断させ、運転中の原子力発電所は閉鎖し、1990年からデコミッショニングに移行している。以来15年、イタリアは原子力発電を実施していない。

 2004年に制定された新しいエネルギー法により、海外企業との共同企業体で海外の原子力発電所に資本参加し、そこから電力輸入することが認められた。世論の変化がその理由であり、イタリアでは特に若い世代の間で原子力発電に対する支持が高い。

 2005年、フランス電力(EDF)とイタリア電力(ENEL)は協力協定を締結。ENELはフラマンビル3号機(EPR、170万kW)の出力20万kW分と、今後建設される5基から合計出力約100万kW分を獲得することになった。ENELは、各プラントの12.5%株式を所有するだけでなく、設計・建設・運転にも参加することが認められている。これによりイタリアのエネルギー・セキュリティが強化され、経済状況が改善されるだけでなく、イタリアの原子力技術能力の再建にも大きく寄与することだろう。なおENELのフラマンビル3号機への出資金額は3億5,000万ユーロだ。

 またENELは、スロバキア国内で6基の原子力発電所を運転するスロバキア電力の66%の株式を取得している。2005年にスロバキア政府が承認した、ENELのスロバキア電力への出資計画には、モホフチェ3,4号機(計94万2,000kW)の建設資金として16億ユーロが手当てされている。両機は2011〜2012年までに運開する計画だ。

 2008年、エネルギー研究所(主要電力事業者系のシンクタンク)は国内で4基の原子力発電所を建設するプロジェクトの実行可能性調査に着手した。

 ENELは4〜5基の原子力発電所(出力各180万kW)を、自社のみで、あるいは主要電力消費産業者とのコンソーシアムで建設し、国内需要の20〜25%をまかなう考えだ、とも報じられている。

 イタリアではAGN Constanza(1960年〜)、Pavia’s LENA Triga II(250kW、1965年〜)、ENEA’s Tapiro(5kW、1971年〜)、ENEA’s Triga RC-1(1MW、1960年〜)、などの研究炉や臨界未満集合体が稼動している。

 アンサルド・ニュークレア社は、カナダ原子力公社(AECL)と共同でルーマニアのチェルナボーダ2号機を建設した実績がある。近年は、国際的な次世代炉の研究開発に参画している。

ヨルダン

 人口600万のヨルダンは、エネルギー需要の95%を輸入している。2005年の電力需要は104億kWhだった。総発電設備容量は203万kWで、2015年までに120万kWの追加設備容量が必要になると予測されており、また、年間5億立方mもの慢性的な水不足に苦しんでいる。

 エネルギー相は、2015年までに発電と海水脱塩を目的に原子力発電を導入したい意向で、政府の原子力戦略委員会は、2030年までに原子力発電で電力の30%を供給し、電力輸出も実施する原子力発電開発プログラムを策定した。

 2008年中旬、ヨルダン原子力委員会、カナダ原子力公社(AECL)、SNCラバリン社は、天然ウランを利用したAECLのCANDU-6型炉(74万kW)を建設し、発電と海水脱塩に供することを想定し、3年間の実行可能性調査に着手することで合意した。アカバ近郊の紅海沿岸30kmを対象に、2009年にサイトを選定する計画だ。

 ヨルダンには低コストで産出可能な14万トンのウラン埋蔵量に加え、リン酸塩鉱床の中にある5万9,000トンのウランがあり、政府はこれら資源の採掘に乗り出すことを表明している。リン酸塩製造の副産物としてウランを回収する実行可能性調査が進んでいる。

 発電および海水脱塩に関し、ヨルダンは米国、フランス、英国と原子力協力協定を結んでおり、国際原子力機関(IAEA)からの支援を得ることも模索している。また中国とは、ヨルダンでのウラン生産分野と発電も含んだ原子力協力協定を締結している。

 ヨルダンは2007年にGNEPに参加した。

カザフスタン

 カザフスタンの2005年の総発電設備容量は1,700万kWで、ほとんどが民営化されており、総発電電力量は680億kWhで、125億kWhの輸出超過だった。一人当たりの年間電力消費量は3,460kWh。電力の52%は石炭火力で、天然ガス火力は26%、石油火力は17%となっている。

 国営の送電系統はないが、北部系統はロシアと連携しており、南部系統はキルギスタンやウズベキスタンと連携している。

 カスピ海沿岸アクタウ(旧名シェフチェンコ)にある高速炉BN-350では、出力の60%を熱や海水脱塩に利用していた。そしてBN-350では1999年半ばに閉鎖されるまで27年間、電気出力13万5,000kWで日量8万立方mまでの水を供給していた。運転者はマンギスタウ発電会社(MAEK)だ。ロシア原子力省の監督の下に建設されたロシア製BN-350は、熱出力の設計値は100万kWだったが75万kW以上の熱出力で運転されたことはなく、晩年は52万kWと言われていた。しかしコジェネレーション・プラントとしての、フィージビリティ、信頼性を確立した10基の多重効用蒸留(MED)システムにより、BN-350の海水脱塩能力は石油・ガスボイラーの併用により日量12万立方mにも達した。

 カザフスタンには以前より、アルマトゥイ近くの南部のバルハシ湖近郊を対象とした新規原子力発電所建設計画がある。2006年7月には、露アトムストロイエクスポルト社の共同企業体が、露OKBM製小型炉VBER-300をベースにした中・小型炉の建設を提案。アトムストロイエクスポルト社はこの建設を期待していた。

 2007年4月には、原子力発電所の新規建設支援に関し2つの協定が締結された。1つは日本原子力発電とカザフスタンの3企業が締結、もう1つは東芝とカザトムプロム社が締結した。

 旧核実験場だったクルチャトフ(旧名セミパラチンスク21)には3基のタンク型の研究炉(出力は6MW、10MW、60MW)があり、国立原子力センターが所有、原子力研究所が運転している。4基目の研究炉(高温ガス炉、400kW)はアルマトゥイにある。いずれもロシア製で高濃縮ウランを使用する。

 同国東部のウスチカメノゴルスクにあるウルバ冶金プラントは1949年に操業を開始した。ウランをさまざまな形状に加工しており、1997年以降は専ら国内で産出されたU3O8の製錬を実施している(ベリリウムやニオブ、タンタルも生産している)。

 同プラントでは1973年以来、ロシアで濃縮されるウランからロシアやウクライナのVVERやRBMK用の燃料ペレットが製造されていた。これらにはガドリニウムやエルビウムなど可燃性毒物も混入された。そのほか米国にも輸出しており、2007年にはアジア市場への進出も計画している。また1968年以来短い期間、潜水艦用燃料や人工衛星の炉用燃料を製造したほか、1985年以降は再処理ウランも扱えるようになった。

 同プラントはカザトムプロムが筆頭株主で、34%を露TVEL社が所有している。現在増資が検討されている。ISO9001およびISO14001認証を取得している。2007年に日本と技術支援協定を締結し、同プラントは単に原料を販売するのではなく、ウランを成型加工した燃料の形もしくは少なくともペレットに加工した上で販売する方向に転換しつつある。プラントのウェブサイトでは、ロシアとの共同企業体濃縮取扱に沿って、ウラン転換能力をうたっている(1952年以来HFを製造している)。

 カザフスタンは2007年9月にGNEPに参加した。

リビア

 リビアの2005年の総発電電力量は225億kWhだった。

 2007年初め、リビアが発電および海水脱塩を目的に米国の支援で原子力発電所を建設する協定締結を模索していると報じられた。一方リビアとフランスは2006年、原子力平和利用協定を締結しており、2007年半ばには、(アレバTA社を供給者とする)海水脱塩用中型炉の建設で覚書を結んでいる。

 リビアは2003年に極秘裏に進めていたウラン濃縮プログラムを放棄し、全施設を国際原子力機関(IAEA)の査察下に置いた。現在リビアにはロシア製研究炉(10MW)があり、IAEAの保障措置下に置かれている。

モンゴル

 ロシアがモンゴルでの原子力発電所建設に向けた実行可能性調査を実施していると報じられている一方で、両国は2008年4月、モンゴルでのウラン資源の探査および開発に関し、ハイレベルの協力協定を締結している。

モロッコ

 モロッコの2005年の総発電電力量は226億kWh。ほとんどが石炭火力で、残りが石油火力だ。同国の電力需要は増加傾向にある。また、海水脱塩による水資源の確保も必要としている。

 政府は2016〜2017年をメドにSidi Boulbraサイトに原子力発電の初号機を建設したい考えで、露アトムストロイエクスポルト社が実行可能性調査に協力している。

 モロッコでは出力2MWのTriga型研究炉が建設中だ。

 海水脱塩に関しては中国の協力で、大西洋岸Tan-Tanサイトに熱出力10MWの加熱炉を建設し、日量8,000立方mの水資源を確保する事前調査が完了している。

 2007年10月にはフランスと、マラケシュ近郊への原子力発電所建設に向けた協力協定が締結された。

ナミビア

 ナミビアの2005年の電力需要は32億kWhで、ほぼ半分が南アフリカからの輸入電力でまかなわれており、電力需給は危機的な状況だ。港湾都市のウォルビスベイに石炭火力の建設を計画している。

 ナミビアには世界のウラン資源の約7%が埋蔵されており、世界中の原子力発電所にウランを供給していると言っても過言ではない。政府は現在、原子力発電の導入の検討を始めている。

ニュージーランド

 ニュージーランドの総発電設備容量は840万kW、総発電電力量は410億kWhである。総発電電力量の75%は水力でまかなわれている。人口は404万で、一人当たりの年間電力消費量は10,000kWh。ただし、アルミ精錬で消費される分を国内消費に分類しないならば、9,000kWhである。

 ニュージーランドは長年、水力発電に依存していたが、設備容量の拡大に限界がある上、降雨量次第なため、2001年や2003年には電力供給が不安定となった。

 最近の大きな水力発電開発計画は、NZASアルミ精錬所に低コストの電力を供給することを目的としており、同国南島にあるマナプール湖の水位を上昇させた。

 水力発電電力量は過去15年間増加しておらず、1990年以降の電力需要の増加分は、国営のハントリー火力発電所(出力100万kW)がエネルギーの80%を石炭でまかなうように転換するまでは、ガス火力でまかなわれていた。

 ニュージーランドの2003年の総発電電力量410億kWhの内訳は、水力58%、ガス火力24.5%、石炭火力7.6%、地熱6.7%、風力2%、バイオマス1.3%だった。総発電設備容量840万kW(2002年のデータ)の内訳は、水力525万kW、ガス火力138万kW、石炭火力100万kW、地熱42万kW――である。2004年に、新たに風力発電設備が17万kW分設置され、7万kW分が稼動している。

 政府の電力開発計画は1968年、可能な水力発電所サイトが開発し尽くされたこともあって、「10年以上先に原子力発電が必要になる可能性」について初めて言及。オークランド近郊カイパラ港のオイスターポイントに初号機を建設することを明らかにした。そして1990年までにオークランドの電力需要の80%をまかなうため、4基の25万kW級原子力発電所を建設するとされたが、マウイガス田やハントリーの石炭鉱床が発見されたため、原子力導入計画は1972年までに撤回された。

 1976年には原子力導入をさらに検討する王立委員会が発足。同委員会が1978年に発表した報告書は、「ニュージーランドが今すぐ原子力発電導入に乗り出す緊急の必要性はない」と指摘したが、「21世紀初頭には原子力発電プログラムが経済性を持つ」との見通しを示していた。

ナイジェリア

 ナイジェリアの2005年の総発電設備容量は600万kWで、総発電電力量は235億kWh。最終消費量は170億kWhで、一人当たりの年間電力消費量は113kWhだ。ベースロード電源に対する需要は急増しており、ナイジェリアは2025年までに400万kWの原子力発電設備容量を導入する計画を持ち、国際原子力機関(IAEA)の支援を求めている。

 ナイジェリアはアフリカで最も人口が多く、2007年までに1,000万kWの発電設備容量が必要となると予測されているが、現状の送電系統では260万kW分しか送電できない。

 2008年初め、科学技術大臣が「政府は原子力発電導入プログラムの着手を決定し、人材養成・インフラ開発から、原子炉設計認証、許認可手続き、建設、運開に至る技術的な枠組みを承認した」と発言。2008年半ばには計画がさらに加速し、2017年までに500万kWの原子力を導入する目標となった。

 アフマド・ベロ大学にある2004年に運開した同国初の研究炉は、出力30kWの中国製小型中性子線源炉で、中国をはじめガーナ、イラン、シリアで稼動している。IAEAは、医療技術、地球化学、鉱物および石油化学分析や探査などの分野で、原子力技術を支える人材の強化・拡充の支援をしている。

ノルウェー

 ノルウェーの電力はほとんどが水力である。2006年の総発電電力量は1,217億kWh、総発電設備容量は2,750万kWだった。一人当たりの年間電力消費量は24,000kWhだ。ノルウェーの電力輸出入は、スカンジナビア半島の季節や降雨量によって大きく変化する。2004年は115億kWhの輸入超過だったが、2005年は120億kWhの輸出超過だった。相手国はいずれもほとんどがスウェーデンである。

 ノルウェーの産業界は、水力を補完するために原子力導入を要望しており、ノルウェーに豊富なトリウムを利用した原子力発電利用こそ、将来のエネルギー危機を回避する手段と考えている。

 政府の諮問委員会は2008年2月、自国のハルデン研究炉でトリウム燃料を装荷試験することで、トリウム炉の建設可能性が開けると指摘した。また、ウラン・オプションの補完としてのトリウム・オプションを堅持するために、原子力分野での国際協力関係を強化し、原子力科学・工学分野での人材を養成するよう勧告。「将来の持続可能なエネルギー開発のために、原子力の役割を再認識すべき」と結論した。

 ノルウェー放射線防護局は、国内の石油ガス業界から発生する放射性廃棄物の山中での地層貯蔵を認可している。計6,000トンのNORM(天然起源の放射性物質)が埋設される計画で、すでに400トンが埋設されている。

フィリピン

 フィリピンの2005年の総発電電力量は565億kWhだった。

 1973年の石油ショックを契機に、フィリピンはバターン原子力発電所(2基)の建設を決定。1号機(WE製PWR、62万1,000kW)を1976年に着工し、4億6,000万ドルを投じて1984年に完成させた。しかし財政問題と安全性に対する懸念から、燃料は装荷されず、同機は起動されなかった。フィリピン政府が同機の最終的な支払いを完了したのは、2007年4月のことである。

 政府は同機を天然ガス火力に転換させることを検討したが、これは現実的ではなく、同機はそのまま維持されている。

 エネルギー省は2007年、包括的な国家エネルギー政策の観点から、原子力発電開発を検討するプロジェクトを発足させた。原子力は、輸入石油・石炭に対するフィリピンの依存度を軽減するものと考えられている。

 国際原子力機関(IAEA)の調査団は2008年、バターン1号機について、「再生工事(コストは8億ドルと試算されている)を施せば、安全かつ経済的に30年間運転が可能」とフィリピン政府に答申した。また、原子力導入に向けた政策面での枠組み作りを勧告した。

ポーランド

 ポーランドの2006年の総発電電力量は1,617億kWhで、総発電設備容量は3,200万kW。一人当たりの年間電力消費量は3,700kWh。ほとんどが石炭火力発電であるため、CO2排出量はきわめて高い。ポーランドはEU最大の石炭資源国(140億トン)で、総発電電力量に占める石炭火力シェアは93%である。2025年にはポーランドの電力需要は90%増と予測されているが、EUはCO2排出に厳しい制約を課してきている。

 2005年初旬、ポーランド政府は、エネルギー源多様化とCO2およびSOX排出量の削減のため、原子力発電の早急な導入に向け準備を進め、2020年直後の初号機運開を目指す計画を決定した。2006年7月、新首相も原子力発電所新設の必要性を再度容認し、フランス技術の導入に言及した。

 2006年に実施した実行可能性調査は、「1,150万kWの原子力発電設備容量の導入が望ましいが、コストが負担しきれない」とし、2030年までに450万kWの原子力発電を導入するよう提案した。その後2007年に発表されたエネルギー政策案には、2030年までに10MWの国産原子炉を完成させ、2022年までに総発電電力量の7.5%を、2030年までに10%を原子力でまかなうことが盛り込まれている。

 ポーランドでは1980年代に、4基の44万kW級原子炉がジャルノビェツに建設中だったが、1990年に中断され、機器類は売却された。

 2006年7月、エストニア、ラトビアと新規大型炉建設計画を立ち上げたリトアニアが、ポーランドにも参加を呼びかけた。EUの要求により閉鎖されるリトアニアのイグナリナ原子力発電所をリプレースする計画で、ポーランドが参加すればEPRのような大型で経済的な炉の導入が可能になる。2007年2月、バルト3国とポーランドはイグナリナへの原子力発電所新設で合意。当初の設備容量は320万kWで、ホスト国であるリトアニアが34%を、その他3国が22%ずつ所有し、初号機を2015年までに運開させる計画だ。総コストは60億ユーロと試算されている。しかしポーランドは、少なくとも100万kW分(後に120万kWを要求)の設備容量を確保できなければ、リトアニアからポーランドへの連係線を整備する価値がないと難色を示した。なお独E.Onは以前、同計画への資本参加に関心を示していた。

 2008年5月、リトアニア政府は新規原子力発電所建設とスウェーデンやポーランドへの連携線整備を目的に、リトアニア・エネルギー機関(LEO)を設立した。2008年7月、LEOはラトビア、エストニア、ポーランドの電力会社(Latvenergo、Eesti Energia、Polska Grupa Energetyczna)と、出力計320万〜340万kWの原子力発電所建設を目的に、共同企業体ヴィサギナス・プロジェクト開発社を設立した。ホスト国であるリトアニアが同社の51%株式を保有。残る3国が16%株式を保有することになった。ただし同社は後にプロジェクトの実施主体として再構成され、その際株式配分は再度見直されることになっている。

 新たに建設される原子力発電所は、イグナリナ原子力発電所に隣接しているが、近郊の町の名を冠しヴィサギナス原子力発電所と名付けられた。同発電所の設備容量の配分に関し、リトアニアが34%(109万〜116万kW)、ポーランドが100万kW、残る2国がそれぞれ40万〜60万kWを要求している。

 一方、原子力発電所とは別に、リトアニアとポーランドを結ぶ400kV高電圧直流連係線(100万kW)を2015年までに整備する計画があり、総コストは2億5,000万〜3億ユーロ。欧州委員会がコストの半分を手当てする。これは同じく欧州委員会から資金手当てを受けたエストニアとフィンランドを結ぶ連係線エストリンク(150kV、容量35万kWの直流連係線。総コストは1億1,000万ユーロ)に続くものだ。リトアニアに建設される原子力発電所からスカンジナビア半島へ電力輸出するため、スウェーデンとリトアニアを結ぶ容量70万〜100万kWの海底連係線も検討されている。

 ポーランドの原子力庁が2006年12月に実施した世論調査によると、同国の天然ガスへの依存とCO2排出量を低減するために、60%が原子力発電所建設を支持している。よく見られるNIMBY症候群はなく、48%が電気料金の低価格化など直接の便益を理由に、近隣に原子力発電所を建設しても良いと答えている。

 ポーランドは2007年9月にGNEPに参加した。

ポルトガル

 ポルトガルの電力需要は460億kWh、1/3を石炭火力で、1/4を天然ガスで、20%を水力でまかなっている。スペインから年間65億kWh(ネット値)の電力を輸入している。送電系統はスペインの系統と緊密に連係しており、スペインの大西洋岸の原子力発電所が両国に電力を供給している。

 政府は2004年、原子力発電所導入計画を却下したが、現在再検討されている。

シリア

 シリアの2005年の総発電電力量は350億kWh。うち90%が化石燃料で、残りを水力で手当てしている。

 1980年代にVVER-440型炉の建設計画が浮上したが、チェルノブイリ事故やソ連崩壊などで撤回された。しかし石油やガス価格の急騰に伴い、原子力発電導入が再度検討されている。

 一方、2001〜2007年にかけて、シリアは北朝鮮・寧辺のプルトニウム生産炉に似たガス冷却炉を遠隔地に建設。これは隠密裏に行われ、シリアはNPTでの遵守事項に違反していた。同炉は2007年にイスラエルの空爆で破壊され、シリアは施設を解体した。

タイ

 タイのピーク需要は2,000万kWで、総発電電力量は1,320億kWhだ(2005年実績)。70%が天然ガスでまかなわれている。タイはASEAN諸国の電力ハブとなる潜在能力がある。

 タイでは今後20年間、電力需要が年率7%で増加すると予測されており、原子力発電開発に着手する計画が再浮上している。2016年には4,800万kWの設備容量が必要と見込まれている。

 天然ガス価格の上昇に伴い、原子力委員会と原子力庁(OAP)が原子力発電の導入可能性を検討しており、電力公社(EGAT)が初号機建設の実施主体となりそうだ。独立系発電事業者らも原子力発電導入に関心を示している。原子力導入に関しては、科学技術省が所管している。

 タイのエネルギー政策委員会が原子力発電導入の実行可能性調査を実施した結果、電力開発計画案の中に、2007〜2021年に計500万kWの原子力発電所を建設し、2020〜2021年頃に初号機を運開させるとのオプションが盛り込まれた。

 2007年6月、エネルギー大臣はEGATが計400万kWの原子力発電所建設計画を進めるとし、2008〜2011年分予算として計5,300万ドルを準備作業に手当てしたと発表した。資金の半分は石油輸出による収入が財源である。2015年に着工し、2020年に運開。60億ドルを投じ、石炭火力よりも若干安い発電コスト、kWhあたり6セントを達成すると試算されている。政府は原子力安全や規制面でのインフラストラクチャーを2014年までに整備する考えで、2008年初旬に正式な実行可能性調査(期間:3年)に着手した。

 タイでは1977年以来研究炉が稼動しており、現在より大型な研究炉を建設中だ。

チュニジア

 チュニジアの2005年の総発電電力量は137億kWh、ほぼすべての電気が化石燃料を利用している。政府は、60万kW級原子力発電所の導入可能性を検討していると報じられており、総コストは11億4,000万ドルと試算されている。

 チュニジアは2006年12月、原子力発電と海水脱塩を中心とした原子力協力協定をフランスと締結。2008年4月、同協定はさらに強化された。

トルコ

 トルコの2006年実績は、総発電電力量が1,760億kWh、総発電設備容量が3,500万kW、一人当たりの年間電力消費量は2,000kWhだった。総発電電力量に占める電源別シェアは、天然ガス火力が44%、石炭火力が26%、水力が25%。電力需要は年8%で伸びている。天然ガスは、3分の2をロシアから輸入し、残りのほとんどをイランから輸入している。

 トルコではこれまで何度か原子力発電導入計画が浮上している。1970年に、30万kWの原子力発電所建設を目指す実行可能性調査が実施され、電力当局は1973年、8万kWの実証炉の建設を決定した。しかし現実には建設されないまま、1976年にはメルシン港に近い地中海沿岸アックユ・サイトへの原子力発電所建設が認可された。1980年、原子力発電所建設計画は政府の支払い保証が得られずに頓挫したが、1993年に原子力発電が政府の投資計画に組み込まれ、ウェスチングハウス、カナダ原子力公社(AECL)、フラマトムの3社が、計200万kWの原子力発電所建設に向けた競争入札に応札した。しかし経済情勢の悪化により、建設計画は2000年に撤回された。

 2006年初旬、黒海沿岸のシノップが原子力発電所建設サイトに選定された。同サイトはアックユ・サイトよりも冷却水の温度が5度低く、熱出力が1%増強されるという好条件があった。計画では、同サイトに10万kWの実証炉を建設し、その後2012年から計500万kWの原子力発電所を順次運開させることになった。建設および運転は、国だけでなく民間資本活用が想定された。

 政府は新たに2006年8月、105億米ドルを投じて2012〜2015年までに3基、計450万kWの原子力発電所を運開させる計画を発表。第一陣としてAECLと75万kW級CANDU炉2基を導入する交渉が進められている。炉型はCANDUやPWRが有力のようだ。初号機はすでに認可を取得しているアックユ・サイトに建設される予定だ。シノップ・サイトでも現在、認可手続きが進行している。

 2007年、トルコ議会および大統領は、原子力発電所の建設・運転および売電に関する法案を承認した。同法により、原子力発電所の建設・運転に関する規準がトルコ原子力庁(TAEK)に示され、トルコ電力公社(TETAS)が原子力発電所の全電力を15年契約で購入することが義務付けられた。また公共事業者にも原子力発電所建設に道を拓いた。廃棄物管理やデコミッショニングの資金手当についても、原子力発電事業者が放射性廃棄物勘定(URAH)とデコミッショニング勘定(ICH)に積み立てると規定された。

 2008年3月、TETASは競争入札手続きを開始し、同9月24日までアックユ初号機の入札を募集した。TAEKが示した採用炉型の仕様は、40年の運転寿命を持つ出力60万kW以上のPWR、BWR、PHWRとされた。TAEKが建設計画のサイト特性の検討に集中するため、炉型の設計認証は製造国のものが有効とされている。建設計画の技術的安全性をTAEKが、経済性をTETASが検討した後、政府が炉型を決定し、2008年末をメドにサイト準備作業を開始。運開は2014年を予定している。

 2008年2月中旬の発表では、2号機および原子力技術センター(17億ユーロ)をシノップに建設するための準備作業が開始されたようだ。また、2020年までにさらに10〜12基の原子力発電所を建設する計画という。これは、トルコの民間会社IOSBBが主導するもので、黒海沿岸シノップ・サイトや地中海沿岸ゴコバ・サイトに、出力各150万kW級原子力発電所を建設するというものだ。IOSBBは、イスタンブール近郊の8つの産業パーク(計70,000社、年間電力消費量15億kWh)が設立した共同企業体。

 2008年5月、米国との原子力平和利用協力協定が発効した。

ベネズエラ

 ベネズエラの2005年の総発電電力量は1,010億kWh。66%が水力で、残る34%が化石燃料だ。

 議会は原子力発電を電源オプションに含める法案策定作業を進めており、大統領は2007年11月、ブラジルやアルゼンチンを参考に原子力発電開発に着手すると発表した。

ベトナム

 ベトナムの2005年の総発電電力量は535億kWhで総発電設備容量は1,140万kW。一人当たりの年間電力消費量は445kWhだ。電力の60%を水力でまかなっており、電力需要は急増している。2008年半ば時点の総発電設備容量は1,250万kWで、ピーク電力需要は設備容量を大幅に上回っており、輪番停電を余儀なくされている。政府は2006年末、「今後2010年まで電力需要は年率15%で増加すると見込まれており、2,500万kWに設備容量を増強する必要がある」としている。

 ベトナムでは1980年代前半、原子力発電導入に関する2つの予備調査が実施された。さらに調査を加え、1995年、「電力需要は2015年頃に1,000億kWhを超える見込みで、原子力発電の導入が必要」と報告された。その後議会が承認した国家エネルギー計画には、2010年までに少なくとも200万kWの原子力発電所を運開させることが盛り込まれている。

 2002年、ベトナムは実行可能性調査を実施するとともに、ロシア、韓国、米国とそれぞれ原子力協力協定を締結した。これは主に、ダラト研究炉(500kW)に関する協力協定だ。

 2006年2月、政府は計200万kWの原子力発電所を2020年までに運開させる計画を発表。そのための実行可能性調査は2008年に完了する予定で、その後、入札手続きを開始するための正式決定が出される見込みだ。2011年着工、2017年運開を目標としている。2007年8月に政府が承認した原子力発電開発計画では、同目標を踏襲した上で、2025年までに計800万kWの原子力発電所を運開させることが盛り込まれている。2008年4月には、ニン・トゥアン省南部に計400万kWの原子力発電所を建設する計画を発表した。2015年着工、2020年運開を目指している。

 韓国は同計画に入札する考えで、韓国科学技術省はベトナムとの長期的な原子力協力計画を準備している。2006年11月に協定に署名している。ベトナムは2008年5月には日本とも原子力協力文書を結び、同6月には米原子力規制委員会とベトナム放射線防護・原子力安全機構が原子力に関する技術情報を共有するために、協力協定を締結した。同協定には、原子力の法規制、環境影響、サイトの安全性等について情報交換を実施することが明記されている。

 科学技術省傘下のベトナム原子力委員会は、1976年に発足した。

イエメン

 報道によると2007年9月、イエメンが米国テキサス州のPowerEd社と、原子力発電所の建設契約を締結した。計500万kWの原子力発電所を2017年までに着工するという。

 しかしイエメンの2005年の総発電電力量は47億kWh(ベースロード電源の設備容量は67万kW)に過ぎず、大規模な原子力発電の導入などはとても考えられない。後にメディアは、建設契約が取り消されたようだと報じている。


以 上