今井敬 日本原子力産業協会 会長挨拶

平成22年1月5日



日本原子力産業協会
今井敬会長

 みなさん、新年おめでとうございます。
 今年は、元日から良いお天気が東京では続いておりまして、皆様方も御家族ともども、良いお正月をお迎えになったことと存じます。

 さて、昨年を振り返ってみますと、経済では株価に昨年というものがはっきりと現れております。株価は昨年1月に9千円からスタートし、3月には7千円の底値になりました。しかしそこから徐々に上昇し、6月には1万円の大台を回復いたしました。その後半年間は、円高の影響で2回ほど急落いたしましたが、大体6〜7百円ぐらいの幅で、1万円前後で推移いたしております。特に輸出関連株が、下げが大きかったものの大きく上げており、現在の日本の経済状態を反映しているものと言えましょう。
 昨日の大発会では、1年3ヶ月ぶりの高値をつけまして、一昨年のリーマン・ショックの傷も株価の面では取り戻した形になっております。

 政治の方では、アメリカが“Change!”を掲げて、オバマ大統領が1月に就任しました。同大統領は、4月にはチェコのプラハで、『核なき世界』という演説を行って大喝采を受けました。そして9月には国連の安全保障理事会の首脳会議で、この『核なき世界』を提唱し、全会一致で合意を見ております。その結果、10月にはノーベル平和賞を受賞しました。
原子力の平和利用においては、『核なき世界』といいますか、核不拡散が絶対の条件になりますので、大変な問題だとは思いますが、一歩一歩進めていただきたいと考えております。

 日本の政治に目を移しますと、8月の末の総選挙で、麻生政権が退陣し、50有余年ぶりに本格的な政権交代が実現いたしました。鳩山内閣は発足後まだ百十数日でございますので、評価するのは時期尚早ですが、予算編成を見る限り、歳出が92兆円と過去最大、そしてそれを賄うために10兆円の埋蔵金を使い、なおかつ44兆円の国債を発行する。これもまた史上最大であり、これからこの財政規律を如何に維持するかが、非常に大きな課題になると、私は考えております。

 外交問題につきましても、いろいろございますが、私ども経済界といたしましては、なんといっても地球温暖化の問題が最大の懸念材料です。CO2の削減については、麻生前政権の時代の6月に、「2020年に2005年に比べて15%純減させる」ということが発表され、私どもは目を丸くしましたが、鳩山さんは8月の選挙に勝って1週間もたたないうちに「2020年に1990年比で25%削減する」と発表されました。これは2005年比に直しますと実に32%ぐらいの削減にあたり、麻生さんの倍でございます。国内でこれを完全に実施するとなると、相当なGDPの低下を招き、おそらく毎年1兆円規模の、あるいはそれ以上のお金が海外の援助のために流出していくということになると思います。これから心配でございますが、幸いにも、米中の参加が前提条件とされており、両国は「法的拘束力は嫌だ」ということで賛成いたしませんでしたので、結論が出ずに先送りされております。これから日本国内でこの32%、90年比25%という問題をどう処理していくかということは、日本の国民ならびに国にとって、非常に重要な問題だと思っております。

 さりながらこの地球温暖化の問題、そしてエネルギー・セキュリティの確保の問題は、国際的ならびに日本の国内でも大きな問題であり、解決には原子力発電の活用しかないということは各国でも認められているところです。現在、世界中で原子力発電の新設計画が目白押しに並んでおりますが、原子力の平和利用にとって一番大切なことは、やはり平和利用の原則である――核不拡散、核セキュリティ、そして原子力安全――を確実に守るということです。IAEAが、これを担当しておりますが、その事務局長に、7月に天野之弥氏が選任され、12月1日に就任されたことは、日本の原子力平和利用の実績が国際的に評価されたものとして大変喜ばしく思っております。

 一方、日本の原子力発電は稼働率が60%と、アメリカや韓国の90%に比べ著しく低い。つまり米韓並みの稼働率で換算すると、15基の原子力が眠っていることになり、これは日本経済にとっても、大変不幸なことであります。原因は2年半前の中越沖の大地震で、その後耐震基準の見直しが非常に厳格に行われました。そうした中で、東京電力さんが、2年半をかけ、柏崎刈羽の6〜7号機を営業運転のところにまでこぎつけたことは大変敬意を表する次第で、これをきっかけに、各電力会社さんが耐震確保を含めまして原子力の安全に全社を挙げて努力され、稼働率を上げられるように心から期待している次第です。

 核燃料サイクルにつきましては、日本原燃さんの六ヶ所再処理施設の度重なる操業延期が非常に懸念されます。使用済み燃料の再処理は核燃料サイクルの一番の基本であり、電力業界挙げて出来るだけ早期の稼動に持っていっていただきたいと考えております。
また、今年は、高速増殖炉『もんじゅ』が年度内の3月までに運転を開始する予定です。連立政権の中には「もんじゅ」に反対の政党もあることから、今回うまくいきませんと、これは将来に非常に大きな影響を及ぼします。是非安全に万全の準備を整えて、再開にこぎつけていただきたいと思います。

 それ以外の諸問題、たとえばプルサーマルは昨年初めて実施されましたし、それからまたフルMOXの大間の発電所も、私、昨年視察させてもらいましたが、建設が順調に進んでおり、大変に結構なことだと思っております。

 私ども日本原子力産業協会といたしましては、そういった国内の諸問題に、いろいろお手伝いすると同時に、海外で現在建設が計画されております原子力発電プラントを出来るだけ日本が受注するべく、微力ながら努力いたしております。アラブ首長国連邦のプロジェクトが韓国に取られてしまったことは大変残念でございますが、現在それを上回るベトナムのプロジェクトがいよいよ動き出そうとしており、これについては、電力/プラントメーカー/日本政府が全力を上げて受注を目指しており、私ども協会といたしましても、微力ながら窓口を開いて努力しているところでございます。

 こういった電力以外の原子力の平和利用については、昨年茨城のJ-PARCが稼動いたしました。これは日本の産業界の発展にとりまして大変大きな意義があることだと思っております。そのほか医療や食品に対する放射線の利用についても、お手伝いするべく、微力を尽くしているところでございます。

 いろいろ現在の諸問題について縷々申し上げましたが、今年は原子力産業にとって意義のある年になりますよう、そしてまた御参集の皆様の御健勝、御多幸を心から祈念いたしまして、私の新年の挨拶といたします。本日は本当に、大勢の皆様にお集まりいただきまして誠にありがとうございました。

以上