今井敬 日本原子力産業協会 会長挨拶

平成23年6月20日
於経団連会館



日本原子力産業協会
今井敬会長

 第61回通常総会の開会にあたり、一言ご挨拶を申し上げます。
 本日は大変お忙しい中を、ご来賓として、
文部科学省から、文部科学副大臣の笹木竜三 様、
経済産業省から、経済産業大臣政務官の中山義活 様、
のご臨席を賜り、厚く御礼申し上げます。
 また、会員の皆様方には、多数ご出席いただき、誠にありがとうございます。

 先般の東日本大震災で亡くなられた方のご冥福をお祈り致しますとともに、被災された方々、および 福島原子力発電所事故で避難されている方々には、謹んでお見舞いを申し上げます。一日も早い被災地域の復興と、避難されている皆様のご帰宅を、心よりお祈り申し上げます。
 福島第一原子力発電所の事故は、1000年に一度と言われている、地震・津波が原因で生じたものでありますが、結果的には、原子力発電の安全性に対する信頼を根本的に損ない、わが国のみならず、世界の原子力発電計画を、根底から揺るがすものとなったことは、誠に残念であります。

 政府におかれましては、今回の事故を徹底的に検証し、事故からの教訓や反省事項を、国内のみならず、国際的にもしっかりと説明し、国内外の原子力発電所の安全性向上に、役立てることが重要であります。

 すでに、米国、ロシア、および欧州各国は、今回の事故を踏まえて、安全規制の見直しを開始しております。今回の事故の検証と総括に関する、わが国の公式な見解を、早急にとりまとめる必要があります。地震・津波対策を含めた、最高水準の原子力安全を目指し、それを広く公開し、世界で情報を共有することにより、国際社会への貢献を果たしていくべきであると考えます。

 今回の事故につきましては、政府、東京電力、および原子力関係者が一体となって、取り組まなければなりません。これまで、国策として、原子力発電を推進してきたことを考えますと、事故の収束にあたり、国が前面に立って、対処する必要があります。

 福島第一原子力発電所で、今、最も急がれますことは、放射性物質の外部への放出を、止めることであります。東京電力は、収束に向け、懸命の作業を続けていますが、放射線レベルの高い瓦礫の除去や、高濃度の汚染水の処理などについて、国が前面に立って、迅速に実行する必要があり、当協会と致しましても、当局への働きかけを行っております。

 原子力発電につきましては、今回の事故で被災した福島の復興を、確実に行わない限り、その将来はないと、認識すべきであります。このため、政府はもとより、社会全体が一致団結して、福島の復興を支援していくことが大切であります。

 東京電力が提示した「福島第一原子力発電所事故の収束への道筋」を確実に実行すること、そのために、国・東京電力・その他関係者が全力を挙げて、一日でも早く、福島第一原子力発電所が安定な状態となるよう、取り組んでいただきたいと願っております。

 今回の事故によって、避難を余儀なくされている方々にとりまして、健康チェックはきわめて大切であります。全避難者を対象に、これを継続的に実施していくべきであります。

 また、精緻な放射線モニタリングの継続および避難区域の除染・モニタリングも実施していただき、1日も早く避難指示が解除され、今後の地域復興に道筋をつけることが必要です。また、避難者に対する当面の生活支援を行うこと、さらに損害賠償を適切かつ、迅速に実施していくことも重要であります。

 わが国は、福島事故後のエネルギー政策を、早急に決定する必要があります。安定した電力の供給は、社会文明や産業発展を支えてきました。今後のわが国の社会・産業の維持・発展にも、安定した電力供給が必要不可欠であります。
 原子力発電は、安全を大前提にして、資源のないわが国のエネルギー政策の中で、引き続き重要な電源であると考えます。そのためには、原子力発電の安全性の徹底的な検証を行い、国民の皆様のご理解を得ていくことが不可欠であります。当協会は、国民の皆様の信頼を回復するため、国、関係機関、会員と連携して、全力を尽していく所存であります。

 ドイツとイタリアは、脱原子力発電を決定しましたが、世界全体のエネルギー情勢を考えますと、化石燃料の需給逼迫、地政学的リスク、温暖化問題などが、常に潜在的に存在しておりますし、すべての国がドイツ、イタリアと同じような政策をとることは、考えられません。

 今後、エネルギー・原子力政策につきましは、原子力の必要性、安全目標、アクシデント・マネージメントの三つの分野において、聖域なき議論を行うべきであると考えております。

 国が、中部電力の浜岡原子力発電所の運転停止を要請したことにつきましては、一定の世論の支持を得ておりますが、要請に到る手続きには、大きな問題があったと考えております。そのため、他の原子力発電所の立地自治体、周辺自治体の人々は、大変困惑しております。

 現時点でわが国の原子力発電所は、約3割が運転しているのみで、これらも今後、定期検査が予定されております。停止した発電所の運転が再開されませんと、早晩、わが国の原子力発電所はすべて停止ということになります。総発電量の3割を占める原子力発電の供給がない状態で、わが国の社会の発展は考えられません。もし、そのような状況になりますと、国内産業の海外移転が更に加速化し、国益上、大きな問題を引き起こすことになります。

 これら、浜岡以外の原子力発電所の再稼働につきましては、国の浜岡の停止要請に起因する部分が大であり、国が最前線に立って、立地自治体、周辺自治体に責任を持って説明し、了解を得ることが必須であります。

 また、国として原子力政策の基本を早急に決定することが肝要であり、当協会と致しましても、そのために、全力を挙げて協力していく所存であります。

 当協会といたしましては、福島原子力発電所の情報を、正確かつ迅速に国内外に発信するとともに、この事故で避難を余儀なくされている、福島県の自治体を訪問し、避難されている方々の様々なご意見やご要望を聞かせていただく活動を行っております。

 それらのご意見・ご要望につきましては、国の要所にしっかり伝えるとともに、原子力関係組織と連携をとり、具体的な支援を続けてまいる所存であります。

 また、避難されている方々が、元の生活に復帰するまで、国の支援のみならず、様々な面で当協会として、できる限りのご支援を実施していく所存です。

 国際社会におきましては、福島事故後も、多くの国が原子力発電計画の堅持を表明しております。 今後、国際交流を活発化し、原子力先進国のみならず、ベトナム、リトアニアなどの原子力新興国につきましても、原子力の安全技術を含め、適正な情報を提供していきたいと考えております。

 今回の事故におきまして、基本的な放射線知識の普及が必要であることが、改めて認識されました。当協会は、これからも放射線に関する知識につきまして、学校教育への協力を含め、理解活動を継続してまいりたいと考えております。

 最後になりますが、今回の事故を受けまして、当協会といたしましては、会員の皆様とともに、福島の支援・復興と同時に、安全を大前提とした原子力発電の社会からの信頼回復に向けた取り組みを、鋭意行ってまいりますので、皆様には、より一層のご支援を賜りますよう、お願い申し上げまして、私の挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。

以上