今井敬 日本原子力産業協会 会長挨拶

平成23年1月5日
於東京プリンスホテル



日本原子力産業協会
今井敬会長

 みなさん、あけましておめでとうございます。ご家族ともども良い新年をお迎えのことと存じます。

 昨年を振り返りますと、経済につきましては、3年前のリーマンショックで非常に落ち込んだ経済が、一昨年の4月から回復に向かいまして、1年半、昨年の秋まで成長が続いたわけでございます。しかし、日本を含む世界各国の景気対策が一段落したということ、また、日本は急激な円高に見舞われまして、10月頃から成長が止まり、今踊り場に立っているところでございます。あと3カ月ぐらいは続き、そして新年度、4月から本来の潜在成長力である、1ないし1.5%の成長に戻るのではないかという予測が専らでございまして、そういうふうになってもらいたいと思っているところでございます。

 政治につきましては、ここに政治家の先生もいらっしゃいますけれども、昨年は好ましくない状態だったわけでございます。日本の外交防衛の問題に大きなダメージを与えた鳩山政権は、昨年の6月に政治とカネの問題で小沢さんと一緒に退陣されました。その後を菅さんが継がれましたが、参議院選挙で大敗いたしまして、再び国会にねじれ現象が生じました。その後、いろいろ菅さんがご努力されておりますが、よい事を言ってはおりますが、なかなか実行されないという事が続いておりまして、一層強力なリーダーシップの発揮が強く望まれております。このままでは大事な問題が進行を停止する恐れがあるわけでございます。

 私ども経済人といたしましては、この際、従来の行きがかりを捨てて、野党を含めて重要な問題を話し合う、あるいは本格的な政界再編成をやって、現在問題になっております持続的な社会保障の構築と、その財源を確保するための本格的な税財政改革の実施を期待しております。そしてまた、日本の国益のために、思い切った開国をする、つまりTPP、あるいはFTA、EPA等に参加をいたしまして、そのためにダメージを受ける農業、これは日本の食糧安全保障のために必要ですから、是非とも強化策を講じなければいけないわけでございまして、そういったような直近の非常に重要な問題、そして願わくば今の小選挙区のポピュリズムをベースにした選挙、こういったものをやらなくてもすむような衆議院、参議院の選挙制度の改革、こういったものを一括して処理してもらうということを、我々経済人は熱望しているわけでございます。激動する世界情勢の中で、日本に残された時間はまったくないというのが我々の認識でございます。

 核問題に移りたいと思います。昨年の正月は一昨年のオバマ大統領の登場で核無き世界ということが熱狂的に受け入れられまして、非常に明るい正月でございました。しかし、今年は北朝鮮の後継問題に絡んで再び核兵器問題がクローズアップされてきておりまして、不安定な正月を迎えたことになります。

 しかしながらそうした中で、昨年の10月にベトナムの原子力発電第二期計画のパートナーに日本が選ばれましたことは、大変に喜ばしいことでございました。そしてまた、かねて準備しておりました日本政府、電力業界そして機器メーカーが集まって共同出資して、国際原子力開発株式会社がその直前に出来ましたことは、本当にタイミングが良かったと思います。私ども原産協会といたしましては、ベトナムの原子力につきまして、10年来、人材養成等について協力をしてきた立場から、このたびのパートナー選定ということを大変に喜んでいる次第でございます。今後、日本原電がFSを進める一方で、先ほどの国際原子力開発が窓口となりまして、様々な問題、技術、人材、資金あるいは燃料、廃棄物の管理、安全等、多々ある問題をベトナム側と話し合って、受注を最終的にするという作業が残っているわけでございまして、これができますと、今、世界各国で起こっている、原子力発電所の建設、これの受注のきっかけになるということで、私どもは大変大きな期待をしているわけでございます。

 日本の原子力発電の現状でございますけれども、ゆっくりではございますが確実に着実に進行いたしております。現在着工中の原子力発電炉は2基、そして地元の了解を得て準備中の炉が7基ございます。私がこの原産協会の会長に就任しましたのは4年半前でございますが、それから本当にこの原子力業界は、例えば中越沖の地震だとか、安全規制の強化だとかいうことで、苦境に陥っていたわけでございますが、昨年の年末の状況を調べてみますと、原子力発電の発電量はほぼ5年前の状態を回復しております。また、総発電量に占める原子力発電の割合も、33%とかつての水準に達しております。それから、一番大切な稼働率でございますが、これは一時60%まで落ち込みましたけれども、最近では71%ということでかつての水準に近づいているわけでございます。今年は願わくばこれを80%台に定着させるということが大いに期待されるわけでございます。稼働率が10%上がりますと、54基原子力発電所がありますので、5基分の新設に当たるわけでございます。大変に重要な問題であります。

 そのためには国も、最近、科学的判断に基づく、合理的、実効的な安全規制、これを絶え間なく見直していくということを言われておりまして、そういう会議を始めております。私ども原産協会も参加して、是非、原子力発電所の稼働時間を伸ばし、稼働率向上に貢献いたしたいと考えている次第でございます。

 核燃料サイクルの問題につきましては、昨年は今一つでございました。日本原燃は、六ヶ所再処理工場の竣工を昨年10月に、2カ年延期するということを発表されました。今後、安全を最優先いたしまして、そして確実な竣工に向けて取り組んでいくということになります。このようにMOX燃料が日本で作られるのはまだまだ先のことになってしまっております。プルサーマルにつきましては現在3基の原子力発電所が稼働しておりまして、近々もう1基稼働するということになっております。

 高速増殖炉もんじゅにつきましては、14年半の待機時間を経まして、昨年稼働を開始したわけでございますが、開始数カ月でメカニカルトラブルを起こしました。現在停止中でございます。この原型炉がとにかく進まないことには先に進めないわけでございまして、是非、原因解明をやって早期の再開を願っているところでございます。

 最終処分場につきましては、国、NUMOが懸命になって国民や地方の了解を得るべくPRをやっておりますが、まだ具体的な候補地の名前は挙がっていないわけでございます。そういう状態の中で中間貯蔵所の建設は着実に進行いたしておるわけでございます。

 民主党政権は社民党と別れまして、国内外の原子力発電の発展につきまして、非常に積極的に動いていただいており、感謝いたしている次第でございます。しかし、そのためにはなんといっても人材の確保ということが非常に重要でございます。産官学一体となった人材養成体制の構築が必要になると考えて、私どももお手伝いをしているところでございます。原子力発電の問題は以上でございます。

 それ以外の原子力の平和利用につきましては、例えば兵庫県のSPring−8、最近、また出来ました茨城県のJ−PARC、これらが積極的に活動して産業の技術開発に大変大きな貢献をいただいております。また、医療に原子力を使うということで、千葉県でやっておりました重粒子を活用した治療施設が、昨年、群馬大学に一般を対象として開設されたわけでございます。そのほか、陽子を使った治療施設も各地で発展しております。

 私ども原産協会といたしましては、原子力発電所の問題と並行してそうした原子力の平和利用全般の問題についても、今後とも一生懸命取り組んでいきたいと思っております。どうか皆様方におかれましては、私どものそういう現状にご理解いただきまして、今後、一層のご支援、ご協力をお願い申し上げまして、私の新年の挨拶といたします。ご清聴ありがとうございました。

以上