今井敬 日本原子力産業協会 会長挨拶

平成24年6月21日
於日本工業倶楽部



日本原子力産業協会
今井敬会長

 日本原子力産業協会の今井でございます。
 定時社員総会の開会にあたり、一言ご挨拶申し上げます。
 本日は、お忙しい中を、ご来賓として経済産業省から、経済産業大臣政務官北神圭朗様のご臨席を賜り、厚く御礼申し上げます。
 また、会員の皆様方には、多数ご出席いただき、誠にありがとうございます。

 昨年の東日本大震災から、すでに1年3カ月余りが経過いたしました。しかしながら、東京電力福島第一原子力発電所の事故により、いまだ、多くの方々が、不自由な避難生活を強いられておられます。
 私たち日本原子力産業協会は、「福島の復興なくして日本の原子力の将来は無い」との考えのもと、一日も早い被災地域の復興と、避難されている方々のご帰宅に向けて、全力を傾注していくことを、ここで改めて肝に銘じたいと思います。
 これからも会員同士、力を合わせ、復旧・復興に向けた活動を行ってまいりたいと思いますので、引き続き、情報の共有と連携のほど、お願い申し上げます。

 さて、我が国の原子力発電所は、北海道電力の泊発電所3号機が5月5日に定期検査のため停止してから、全て停止した状態となっておりましたが、夏を間近に控えた今月16日に、ようやく関西電力の大飯発電所3,4号機が再起動する運びとなりました。
 大飯発電所の再起動に際し、野田総理大臣は、「国民生活を守る」を唯一絶対の判断の基軸と位置づけ、その第一の意味として「次代を担う子供たちのためにも、福島のような事故は決して起こさない」ということ、第二の意味として「計画停電や電力料金の大幅な高騰といった日常生活への悪影響をできるだけ避ける」ということをあげておられます。
 さらに、石油資源の7割を中東に依存している我が国にとって、エネルギー安全保障の観点からも、原子力発電は重要な電源であり、夏場限定の再稼働を否定しています。
 この野田総理大臣がおっしゃったことは、私たちがこれまで主張してきたことと軌を一にするものであり、総理にはぜひその考え方に立って、これから8月をめどに決めようとされている、中長期のエネルギー政策の議論に、臨んでいただきたいと思います。

 現在、関西電力では、大飯発電所3、4号機のフル稼働に向け、作業が進められております。
 しかしながら、フル稼働までには、まだ数週間ほど要するため、政府の節電要請が始まる7月2日には、間に合わないのが現状です。
 関西地域において、電力の安定供給に道が開かれたことは、喜ばしいことですが、これをもって、夏場のピークを乗り切れる保証はなく、厳しい状況に変わりはありません。
 中長期のエネルギー政策に関しては、今月8日にエネルギー・環境会議から選択肢に関する中間的整理が提示されました。
 政府は今月中に、「原発依存度」「核燃料サイクル政策」及び「温暖化対策」の、3つに関する選択肢を、統合した形で提示し、8月をめどに革新的エネルギー・環境戦略を決定すべく、7月から国民的議論を行っていくとしています。
 民主党政権は、昨年の福島事故を受け、原発への依存度を、可能な限り減らす方向で、検討を行ってきており、今後、再生可能エネルギーの開発や省エネ、節電を推し進めていこうとしています。
 しかしながら、電力供給において、これらでどの程度の成果が挙げられるか、不確定要素が多いことを考慮すると、原子力発電を放棄するような選択肢はありえず、原子力発電が一定の役割を果たさなければならないことは、明らかだと思います。
 エネルギー政策は、一国内の情勢だけで定める問題ではないことも十分認識し、激動する世界のあらゆる変化を踏まえて、大局的な視点から、冷静に策定されるべきものと考えます。
 国政を預かるリーダーには、今回の大飯の再起動問題で決断されたように、自らの目で事実を直視し、種々のリスクについて、しっかり勘案した上で、国民の暮らしを守るという責務の上に立ち、合理的で正しい目標を定めて、国民をリードしていっていただきたいと思います。
 そのために、当協会としても、これからの国民的議論に参加し、引き続き、意見を発信してまいりたいと思いますので、会員の皆様におかれましては、いつでもご意見をお寄せいただき、当協会の動くべき方向をご示唆くださるよう、よろしくお願いいたします。

 大飯発電所に続く他の原子力発電所の再起動については、原子力安全委員会が、これらの発電所のストレステストの評価を、これから立ち上がる予定の、新規制組織にゆだねていることもあり、いまだ見通しが立っておりません。
 このため、関西電力を含め、北海道電力、四国電力、九州電力の4電力管内で、計画停電の実施が現実となるかも知れません。
 原子力発電所の再起動については、地域の方々は新しい安全基準を強く要望されています。
 その策定を担う、原子力規制組織に関する国会審議が、先月末から進められてきましたが、本日会期末を迎えた本国会において、ようやく、成立にこぎつけることができました。
 エネルギー政策は、国の根幹をなす重要な政策であり、その中で、既存の原子力発電所をどう扱っていくかは、喫緊の課題であります。
 新しい規制組織には、一刻も早く活動を開始していただき、新しい安全基準作りや、既存原子力発電所の再起動に向けて、早急に動き出していただきたいと願っております。
 そして事業者には、単に国の安全基準を満たすだけではなく、原子力の安全性を、更に高めていく努力を、不断に追求していただくよう、お願いいたします。

 福島事故は、世界のいわゆる「原子力ルネッサンス」に、大きな影響を与えました。しかし、最も影響を受けた国々は、従来から原子力に懐疑的だった所に限られており、原子力発電をより広く利用していこうという動きは、新興国を中心に続いています。
 特に、ベトナム、トルコ、ポーランドなどの、新規導入を計画している国は、我が国が、長年に渡って培ってきた技術力に、期待を寄せています。
 福島第一原子力発電所の事故は、大変残念なことですが、この事故の教訓を世界と共有し、原子力技術の維持・向上と、人材の確保・育成に努め、世界の原子力発電の安全性向上に貢献していくことは、わが国の重大な責務です。
 わが国の原子力産業界は、この役割と責任を十分認識し、世界からの期待に、着実に応えていく必要があります。
 また、原子力分野の人材育成については、原子力安全の向上、原子力産業や、技術力維持の観点のみならず、長期にわたる廃炉プロジェクトを、適切に実施していくためにも、重要な課題です。人材の確保・育成への取り組みは、そういった観点からも、真剣に行う必要があるものと考えます。
 一方、福島事故以降、放射線を必要以上に不安視する方々が、多く見られます。こうした方々に、放射線に関する情報や、正確な知識を、適切に発信していくことも、私たちの大切な役割であると思います。
 また、わが国は、医療などの放射線利用分野でも、高い技術を持っており、これらについても、ハード・ソフトを含めて、多くの国際展開の機会があると考えており、積極的に、海外へ出て行く必要があるものと考えます。

 当協会は、福島事故以来、関連情報を正確かつ迅速に、国内外に発信し続けており、海外の関係機関からは、当協会の情報に対し、高い評価をいただいております。
 今後とも、会員の皆様のご協力をいただきながら、福島の復興支援を引き続き行うとともに、原子力産業の活性化に向けて、活動を強化する所存でございますので、より一層のご支援を賜りますよう、お願い申し上げ、私の挨拶とさせていただきます。
 ありがとうございました。

以上