今井敬 日本原子力産業協会 会長挨拶

平成25年6月19日
於日本工業倶楽部



日本原子力産業協会
今井敬会長

 日本原子力産業協会 会長の今井でございます。
 定時社員総会の開会にあたり、一言ご挨拶申し上げます。
 本日は、お忙しい中を、ご来賓として、経済産業省から大臣政務官佐藤ゆかり様のご臨席を賜り、厚く御礼申し上げます。
 また、会員の皆様方には、遠路、また多数ご出席いただきまして、誠にありがとうございます。

 東日本大震災から二年余りが経過いたしましたが、東京電力福島第一原子力発電所の事故により、いまだに多くの皆様が、不自由な避難生活を余儀なくされておられることに、改めて、心からお見舞い申し上げます。

 私どもは、震災直後から「福島の復興なくして日本の原子力の再生なし」という言葉を、胸に刻みながら、地域の方々に寄り添い、当協会として、可能な範囲で、様々な活動を行って参りました。
 一番重要なのは、放射線に対する不安の解消であります。
 この不安感が払拭されない限り、地域の皆様が、いつまでも風評被害などに苦しめられることになりますことから、放射線理解促進に向けた活動を行って参りました。
 その他にも、復興の決め手となる除染作業について、関係者からのヒアリング調査を行ったところ、解決すべき諸問題が、浮き上がって参りました。
 そこで当協会では、住民の方々の納得のいく形で、除染活動が効果的かつ効率的に進むよう、課題と提案を取りまとめ、関係機関にお伝えすることと致しました。
 このような活動は、あくまで、国や自治体の事業を側面から支援するものではありますが、一過性で終わることなく、今後も続けていくことにより、少しでも、地域の方々のお役に立てればと考えております。

 さて、昨年12月に自民党が政権に復帰し、積極的な経済政策を打ち出してから、産業界にようやく安定感が戻り始めました。
 一方、原子力につきましては、規制委員会による新しい規制基準が、来月にも策定されて、法的基盤が整うことになりますので、再稼働に向けた動きが進展することを、期待しているところであります。
 しかしながら、規制委員会と電気事業者との間には、日本原電や東北電力の活断層をはじめとする議論など、十分な意思疎通が図られていないことや、審査のプロセスのスピード感にも大きな差があることを、懸念いたしております。
 これまで当協会といたしましては、規制基準についての産業界の考え方を伝えるべく、直接、規制委員会へ働きかけるとともに、マスコミなどを通じて、国民の皆様にも訴えて参りました。
 国際的な基準から乖離した規制や審査の停滞は、発電所の運転再開の遅れをもたらし、地元経済の疲弊や産業の空洞化とともに、化石燃料の輸入量の大量増加による、さらなる国富の流出を招くこととなります。
 ひいては、一日も早くと願われる、福島の復興の進捗にも、甚大な影響を与えかねません。
 これらの懸念を払拭するためにも、規制委員会には、新しい規制基準について、国民に判りやすく説明していただくとともに、万全な審査体制で、効率的に対応して頂きたいと思います。
 その際、いかなる技術もゼロリスクではない、という事実を踏まえまして、社会的に容認出来るリスクレベルは、いかにあるべきかについて、工学的観点から、合理的な判断がなされることを強く望みます。
 安倍政権におかれましては、安全が確認された発電所は再稼働する、との明確な方針が示されております。
 従いまして政府には、安全であるとされた発電所について、地元への十分な説明を行ってご理解を得るなど、一日も早い運転再開に結びつくよう、最大限の取組みを、切に望む次第でございます。
 一方、世論調査の結果などを見ますと、いまだ原子力に対する信頼の回復は道半ばであり、原子力の再稼働について、厳しい見方をされる方々が、多数おられることも事実であります。
 我々、原子力産業界は、この現実を真摯に受け止め、単に規制要求を満たすだけではなく、自らがより高い安全性を目指して、不断の努力をして参ります。
 そのことによって、国民の皆様の信頼を確実にしていかねばなりません。
 これは本当に根本的に大きな課題であります。
 当協会も、原子力への信頼回復を目指し、事業者の安全性向上に係る取り組みを、内外に広く情報発信するなど、透明性の一層の向上に努めて参ります。
 さらに、長期に亘る原子力の停滞は、経済のみならず、原子力人材の流出という、深刻な問題にも繋がります。
 技術力の低下や、若い世代の原子力離れを防止するためにも、官民あげて、原子力分野の人材育成に取り組む必要がございます。
 そのため、当協会といたしましても、人材育成ネットワークの強化に努めて参ります。

 また、国際協力分野につきましては、国家政策として、原子力を推進する英国をはじめとして、様々な国や国際機関との情報交換や相互協力を進めております。
 その中で、海外からは依然不透明な、わが国のエネルギー政策や、福島復興の実情などの情報が十分に伝わっておらず、現状が見えないとの指摘を多く受けました。
 また、廃炉や除染に関する経験や知見がある国々からは、技術支援や共同研究の多数の提案をいただいております。
 そこで、当協会では、国際会議や各国に赴くなどして、福島の状況についてご説明するとともに、このたびの廃炉作業は、かつて経験したことのない困難な作業であり、国際的な協力が不可欠であるとの考え方を述べてきたところでございます。
 先月、福島市には、国際原子力機関(IAEA)による「緊急時対応能力研修センター」が開設されるなど、その成果の兆しは見えつつあると思います。
 今後の廃炉技術等の開発・実施などにおきましても、より開かれた形で、国際的な協力体制が確立されることを期待いたしたいと思います。
 このほか当協会といたしましては、今年度、原子力の開発を積極的に推進している、中国などの東アジア地域とともに、原子力安全の確保などに向けた、更なる協力体制の充実を目指していきたいと考えております。
 加えまして、新たに原子力導入を進めようとする中東や東欧諸国等に関しましては、IAEA等国際機関と密接に連携して、相手国の人材育成などの基盤整備を支援するべく、活動を強化して参ります。

 さらに会員はじめ、国民の皆様の原子力や放射線へのご理解を進めるために、当協会ならではの情報発信にも努めて参りました。
 特に、今年の2月には、新しい規制体制の下で、原子力安全の関係者が一堂に会するシンポジウムを初めて開催いたしました。
 国内外の規制当局をはじめ、広い立場からご意見を頂くなど、相互理解の点からも、一歩前進してきたのではないかと思っております。
 今後、新規制基準に対する審査が本格化することを踏まえ、基準の適切な運用について、第三者的な立場に立った考察と、内外の専門家の知見に基づいた議論を行なうシンポジウムを、この秋に開催する予定でございます。
 多くの会員の皆様方のご参加をお願いいたします。

 平成25年度には、電力システム改革のプログラムがスタートして、電気事業を取り巻く環境が大きく変わっていく年になると思われます。
 そうした中で、当協会は会員の皆様の付託を受け、今後とも原子力産業界を代表する提言を発信して参ります。
 会員はじめ国民の皆様にも、有益かつ実利ある活動に努める所存でございますので、より一層のご支援を賜りますよう、お願い申し上げ、私の挨拶とさせていただきます。
 ありがとうございました。

以上