今井敬 日本原子力産業協会会長 年頭挨拶

平成25年1月9日

   皆さん、明けましておめでとうございます。
 今年の3月で、福島の原子炉の事故から2年目を迎えます。民主党政権下での事故の初動対応をめぐる混乱、大飯再稼働を巡る混乱等を見て、これは日本の国難だと思っていた次第であります。
 昨年の12月に総選挙がありまして、自由民主党が大勝して安倍政権が出来たわけですが、いろいろなところで報道されておりますように、自由民主党の衆議院議員の数は非常に増えましたが、得票数そのものは前回の選挙より減っております。ですので、必ずしも自由民主党が国民の全面的な支持を得たというわけではなく、むしろ敵失であれだけの票を獲得したわけです。安倍総理も、色々な発言を聞いておりますと、この事を十分に認識しておられると思います。現在、参議院で、過半数に16議席足りないねじれが続いておりますが、その原因は6年前の安倍政権の時の参議院選挙で、当時29の1人区で自民党が6勝23敗という結果にあるわけです。今年7月に参議院選挙が行われますが、現政権の政策が国民の信頼を得て、その29の1人区で前回選挙と逆の結果が出れば、参議院でも自公で過半数を取れることになります。そうして初めて「決められる政治」が実現するということになります。色々な状況を見ておりますと、政治の力というものが、いかに大切であるかつくづく痛感している次第です。

   それでは自由民主党の過去の政策が、全く正しかったのかというと、そうではありません。
 昨年の国会の事故調査委員会は、あの事故は「明らかに人災である」と結論づけております。それは国も東京電力も、「あのような長時間に渡る電源喪失は絶対に起こりえない」と信じて、その対策をやっていなかったということだと思います。電源喪失がなければ、あのような災害は起こらなかったということは、福島第一原子力発電所の5・6号機や福島第二原子力発電所を見れば明らかです。
 従いまして、「人災」であるがゆえに、その原因をはっきりと究明して対策を講ずれば、原子力を再稼働しても大きな災害は起こらないということです。

 東京電力はあの事故によって、大きなダメージを受けました。そして資本注入後の新しい経営体になり、昨年9月に「原子力改革監視委員会」を作り、海外を含む5人の有識者をメンバーとするということを発表されました。そして、11月には「再生への経営方針」を打ち出されました。
 大変詳細な方針が書いてありますが、私流に解釈しますと、4つくらいに纏められると思います。第一に福島の事故の被害者の皆様への賠償と、汚染された地域の除染体制を大幅に強化するということ、第二は、あのような大震災等のクライシスにも負けない防災体制を作るということ、第三は、1〜4号機の廃炉措置を加速化し、それにあたって海外の専門チームを常設するということを謳っております。第四は、経営体として財務体質、経営体質の強化を謳っています。
 誠にはっきりとした経営方針を出されました。これから大変ご苦労だと思いますが、これを実行していただきたいと心から念じております。

 各種の世論調査では、脱原発の声が半数近くありますので、自由民主党は、参議院選挙まではあまりはっきりしたエネルギー・原子力政策を打ち出さないだろうと思います。
 一方では、昨年発足しました「原子力規制委員会」が新しい安全基準を作る準備をしておりまして、今日の一部の新聞によりますとその骨子が出ております。
 私は昨年、浜岡や柏崎刈羽原子力発電所を視察いたしましたが、今日の新聞で言われているようなことは既に実行されておられます。別に新しいことではありません。しかしこの基準が固まらなければ動きが取れないわけです。
 一部の政府筋は、この基準を満たす原子力発電所については、地元との協議・説明には政府が責任を持って行うと言っておられまして、誠に心強いと思っております。
 やはり原子力発電がなければ、電力の安定供給・低廉供給ということは出来ません。その結果、産業の競争力は維持出来なくなります。産業が海外に移転すれば雇用も落ちます。経済再生どころの話ではないわけです。また、一次エネルギー自給率は、僅か4%しかありませんから、もし原子力発電が動かなければ、安全保障上も大変な問題を抱えることになります。
 また、東京電力の再生計画も、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働が前提となっておりますので、政府はそういうことを考慮に入れて、原子力発電所再稼働について検討を進めていってもらいたいと考えております。

 今年の後半、7月以降、原子力産業にとりまして正念場を迎えると、私は思っているわけです。

 一方、そういった中で、電力会社全体にも新しい動きがありました。
 それは私ども原産協会と兄弟組織である「日本原子力技術協会」を解散し、新たに「原子力安全推進協会」を作られたことです。
 私の理解しているところでは、この協会は原子炉の安全性について、電力業界から独立し、海外の機関とも協力しながら独自の技術評価を行って、事業者、つまり電力会社の社長に対して提言・勧告を行う、そしてそれを受けた事業者の社長は、改善計画を作りそれを実行することを約束するという事です。また、そうした課題について、他の事業者とも共有するということになっております。
 つまり、政府の基準だけに頼るのではなく、自らそういった独立機関を作って、その提言を受け入れて、自ら安全に対する施策を実行するということです。これは、従来にない新しい展開だと思っております。

 以上、昨年起こりました問題、つまり、東京電力を含む電気事業者の自主的な安全に対する動き、その中で海外の知識を活用する、海外と協力してやっていくという機運が出てきたということ、そしてまた新政権におきましては、責任あるエネルギー・原子力政策がとられるだろうという期待について申し上げました。

 私ども日本原子力産業協会といたしましても、政府あるいは新しく出来た原子力安全推進協会、また電気事業者、さらにはプラントメーカーの方々と緊密に連携をとりまして、原子力の安全・推進、さらには何と言っても福島の復興、これに全力を尽くしたいと思っております。また、海外から、新しい原子力発電所の導入につきまして、いろいろな要望が出ておりますけれども、政府の方針が固まりましたら、私どもとしてもこれに全面的に協力していきたいと思っている次第です。

 以上、年頭に当たりまして、私の考え方を申し上げました。
 どうか今年が皆様方ならびに原子力産業にとって、本当に良い年になりますように心から祈念いたしまして、私の挨拶と致します。

以上