高レベル放射性廃棄物地層処分、全国シンポ始まる

2015年5月25日

 高レベル放射性廃棄物の地層処分について考えるシンポジウムが5月23日、東京・千代田区の経団連会館で開催された。新たな地層処分基本方針が22日に閣議決定されたところ、処分地選定へとつなぐべく今回の東京開催を皮切りとして6月にかけ全国9都市で理解活動を展開するもの。DSCF2300
 シンポジウムではまず、総合資源エネルギー調査会の放射性廃棄物ワーキンググループで委員長を務める増田寛也氏(野村総合研究所顧問)が基調講演に立ち、岩手県知事、総務大臣を歴任し、多くの政府審議会に携わった経験を踏まえ、「日本の中長期的な将来課題」として、人口減少、財政・社会保障、エネルギーの問題を説いた上で、原子力発電の運転に伴って発生する高レベル放射性廃棄物の処分問題の議論に先鞭を付けた。その中で、増田氏は、処分地選定が進まぬところ、新たな地層処分基本方針で盛り込まれた「国による科学的有望地の提示」に関して、「地域で議論するきっかけとなるもの」との考えを示し、今後全国で開催されるシンポジウムでの有意義な議論に期待をかけた。
 パネルディスカッションでは、増田氏の他、原子力発電環境整備機構理事長の近藤駿介氏、共同通信社元論説委員の谷口学氏、名古屋大学環境学研究科教授の吉田英一氏らが登壇し、事前に参加申込み者から受け付けた質問を元に討論が進められ、最も質問事項として多かった地層処分の安全性については、近藤氏が三浦半島で実施したボーリング調査で、埋設する深度となる地下300mに100万年前の海水が確認されたことについて触れ、国内に安定な地下環境が多く存在する可能性を述べた。また、吉田氏は、地質学の立場から、久慈の石油備蓄基地をエネルギー利用における地下立地の一例としてあげたほか、ガボンのオクロ天然原子炉跡に地層処分の可能性が発想されることなどを述べた。
 日本学術会議は4月に、高レベル放射性廃棄物処分の暫定保管に関する提言を公表しているが、これについて増田氏は、「現世代での解決」を強調した上で、基本方針で述べている政策変更に伴う可逆性や将来世代の選択肢の担保などに触れ、ワーキンググループの議論と「広い意味では同じことを言っている」としている。
 今後、シンポジウムは、高松、大阪、名古屋、広島、仙台、札幌、富山、福岡の順に開催される。参加申込みは、特設サイトより。
 なお、電気事業連合会は5月22日、地層処分基本方針の改定を受け、国、原子力発電環境整備機構との緊密な連携が重要だとした上で、廃棄物の発生者としての責任を認識し、最終処分事業の合意形成に向け、情報発信に努めていくとのコメントを発表している。