[原子力産業新聞] 1999年12月23日 第2018号 <4面>

['99回顧] JCO臨界事故うけ、安全・防災対策再構築へ

「もんじゅ」の2次系ナトリウム漏洩事故を発端とした一連の事故・不祥事などにより、技術者らの倫理観を厳しく問われた原子力業界だが、今年は核燃料加工施設で、あってはならない臨界事故が起き、「原子力に係わる全ての人間が安全に対して真摯に向き合わない限り、信用を取り戻すことは出来ない」という当たり前の事実を、痛いほどに感じさせられる一年となってしまった。

9月30日に茨城県・東涌村のジェー・シー・オー(JC0)再転換施設で起きた国内初の臨界事故は、現場から半径350m以内の住民の避難、半径10km以内の住民の屋内退避勧告が出され、鉄道、パス、タクシーなど交通機関の運行が見合わされるなど深刻な事態となった。事故そのものは翌10月1日午前中までに終息し、翌2日には住民の避難要請も解除された。事故原因は科技庁に届けた原子炉等規制法に基づいた作業手順ではなく、未承認のステンレス製「バケツ」を使って臨界量を超える硝酸ウラニル溶液を沈殿槽に注入するという違法作業によるものだった。

この事態を受けた科学技術庁および通商産業省は、再発防止に向けて直ちに「原子力安全・防災対策室」を共同で立ち上げ、原子力防災法の検討を開始。12月の臨時国会では、徹底した事故防止策および、万一の事故発生時の場合の対応などを明文化した「原子力災害特別措置法案」と、燃料加工施設などにも発電所並みの定期検査を義務づけることや、全原子力施設の保安規定の順守状況の定期的な確認などを定めた「原子炉等規制法改正案」が成立。災害特別法は公布から半年以内に、改正炉規制法は2000年7月から施行されることとなった。

一方、民間も、原産会議がいち早く原子力産業界の自己改革を呼びかける声明を出すとともに、12月には「ニュークりアセイフティネットワーク(NSネット)」を立ち上げるなど、民間の立場から原子力業界全体の安全意識の向上や安全文化の共有化・レベルアップを目指すという、自らの手による改革に乗り出した。

また一方で、国による安全審査および地元の事前了解を得て、目標どおりの99年度中の開始が可能と見られていた東京電力の福島第一・3号機および関西電力の高浜4号機におけるプルサーマルについても、スケジュール変更を余儀なくされる事態が起きてしまった。

2001年度から開始を予定している高浜3号機用MOX燃料製造過程の直径計測データの一部に不正があったことが、関電MOX燃料加工会社の英国・BNFL社からの報告により9月14日に判明。事態を重く見た通産省・エネ庁は関電に対して徹底した調査を指示するとともに、調査が正しく行われているかを確認するために同省職員をBNFL社に派遣した。調査の結果、関電は「不正は3号機用のみで、4号機用には問題はなかった」などとする報告書を発表、4号機については計画どおりの年度内装荷が可能とみられていた。

しかし12月16日、再度のBNFL社からの連絡により、それまで「問題ない」とされていた4号機MOX燃料にも不正が行われていた事が判明。関電は4号機用MOX燃料についても使用中止を決め、エネ庁は同じく年度内開始を予定している東電の福島第一・3号機用MOX燃料についても、ベルギーのペルゴニュークリア社製ではあるが、再検査を指示。これによりプルサーマル開始時期が遅れる事はほぼ確実になってしまった。

JC0事故など最近の一連の事故や不祥事をみていると、こうしたことが起きる背景の一端には「合理化・効率化」へのあせりもあると指摘されている、近年の市場自由化の流れに電力業界も無縁ではなく、電力会社や関連会社間では合併・吸収劇が世界中で繰り広げられており、国内に目を転じても、12月に電事審の部会で電気事業制度改革の議論は終了し、2000年3月の改正電事法施行により部分自由化が始まることとなっており、自由化の波は激しくなりこそすれ、衰える気配はない。

自由化には価格を抑える側面があるのは事実だが、反面、過度の競争に陥り、行き過ぎた効率化争いに突入する危険性もはらんでいることを忘れてはいけない。なにもこれは原子力業界に限ったことではないが、この2つの事例は、自由競争に対する過度の幻想への警鐘といった側面もあるのではないか。

暗いニュースが多い一方、前向きな話題もあった。長年の思案だったクリアランス・レベルに放射性廃棄物安全基準部会が基準を示した事から、処分費用の見積もりなどが示されるなど、高レベル放射性廃棄物(HLW)問題について、今年は大きな進展があった。

総合エネ調・原予力部会が3月に、処分の実施主体のあり方、処分費用の合理的見積もりを示す報告書を策定したほか、11月には処分費用の総額は3兆408億円とする試算値を発表した。またサイクル機構も同月、HLW処分の技術的拠り所となる「第2次取りまとめ」を発表。計画では来年度に処分の実施主休が設立され、いよいよHLW処分事業がスタートすることになっているが、準備は着々と整っているようだ。

また海外に目を転じると、米国エネルギー省は3月26日に、「廃棄物隔離パイロットプラント」へ軍事用超ウラン元素を搬入・処分し、同国で初めての地層処分を実施したほか、8月3日にはフランスで、ジョスパン首相および原子力政策関係の3閣僚がHLW地層処分研究所の建設を承認する政令に署名するなど、バックエンド対策のシステム整備は世界的に進展を見せているようだ。

さらに一方では、11月に通産省から発表された98年度のエネルギー需給実績によると、原子力発電は84.2%という過去最高の設備利用率により一次エネルギーの13.7%を供給したばかりでなく、総発電電力量に占めるシェアも36.4%まで伸ばすなど、いずれも過去最高値を記録しており、一連の暗い出来事とは裏腹に、原子力発電は好調を維持し続けている。

6月からは、新世紀に向けて、原子力をどう位置付け、新たな理念の下に開発を進めていくかを議論する原子力長期計画の見直し作業も始まった。

今年は後半にきて、臨界事故によって原子カへの国民の不信感は再び高まってしまった。原子力に関係する全ての者は「99年」を決して忘れる事なく、自らが安全確保を第一とする「安全文化」を真に確立し、信頼回復に務めるとともに、環境・エネルギー問題に原子力が重要な役割を果たせるよう努力していかなければならない。


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