[原子力産業新聞] 1999年12月23日 第2018号 <6面>

[金材研] 水冷銅磁石で世界記録、超伝導研究大きく前進

磁場37テスラを発生

金属材料技術研究所はこのほど、「ハイブリッドマグネット」で、37.3テスラの磁場発生に成功した。これは、定常的に長い時間発生できる磁場としては世界記録だ。これまでの記録は同所で95年に記録した36.0テスラ。今回は、ドーナッツ状の銅円板を積層し、絶縁板を間に交互に挟んだ仕組みで、銅円板には冷却用のチャンネルが全面に渡って設けられ、純水を強制循環冷却することにより、コイルで発生するジュール発熱を除去する機能を持つ「ビッター型水冷銅マグネット」を製作し、この記録を更新した。

金材研では、強磁場研究の中核センターとして強磁場ステーションを整備してきた。同ステーションには高磁場特性の評価や強磁場科学のための各種のマグネットが設置されているが、その中でも超伝導マグネットと水冷銅マグネットを組み合わせた「ハイブリッドマグネット」は世界最強の磁場を発生できる研究設備として注目を集めてきた。

同施設の「バイブリッドマグネット」用の超伝導マグネット「gama」は、室温有効内径40センチメートルの空間に15テスラまでの磁場を発生する能力を有し、その際の蓄積エネルギーは63.4メカジュールにも及ぶ。この空間に水冷銅マグネットを組み込み、超伝導マグネットによる磁場をバックアップとして37テスラを超える磁場を発生する。水冷銅マグネットの場合は銅の空気抵抗があるため、強い磁場を出すためにはプラント規模の電力設備とコイルで発生する熱を除去するための強力な冷却水設備が不可欠だ。強磁場ステーションは定格15メガワットの直流電源と、同規模の冷却水循環装置を備えた世界でも有数の施設だ。

限られた電源容量の中でできるだけ強い磁場を出すためには、導電率が低く、かつ高強度の材料の開発と、発熱を有効に除去するために冷却流路の設計が重要となる。今回開発された「ビッター型マグネット」は、内層、中層、外層と三つのブロックからなり、最内層と中層には、同所で開発された高強度の銅銀合金が使われている。

強磁場ステーションは昨年度から国内外の研究者に開放されている。水冷銅マグネットは励磁の度に自ら発生する強い電磁応力を受けて多少なりとも劣化する。したがって、水冷銅マグネットは消耗品だが、元来極めて高価なため、代替品を簡単には用意できない。このため、これまで、研究者に一般的に提供する磁場は、消耗を少なくするため、30テスラまでに限定されていた。一方、今回開発された内径32ミリメートルの「ビッター型マグネット」では、今回の最高磁場を発生した後でもマグネットに劣化が見られず、また、磁場発生中の冷却水の温度も従来のものより低く抑えられている。金材研では、このことから本マグネットは設計通りの十分な強度と冷却性能を持っていることが確認され、補修等が比較的容易なことも考慮すると、一般研究者への磁場提供に際しても、35テスラ程度までは安定して供給することができると考えている。


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