[原子力産業新聞] 2000年1月5日 第2019号 <6面>

[原研] 超高強度レーザー、20倍の集光強度実現

「位相共役鏡」で、航空写真、高精度加工に応用

日本原子力研究所は、超高強度レーザーを発生する際に、媒質の熱により光が歪む現象を補正する新たな技術を開発した。これは光の強度分布に応じてメモリー効果をもつ光誘起屈折率結晶を組み込んだ「位相共役鏡」を用いてレーザー光の歪みを補正する技術で、従来に比べ20倍を超える集光強度を実現、さらにコンパクト化にも成功。これにより、超高強度レーザー光と物質との相互作用に関する研究分野の開拓をはじめ、X線レーザーやレーザー加速のドライバーの小型化を可能にしたことで、人工衛星や航空機からの地上写真の撮影にも応用できる。また同技術により高輝度レーザー光を発生できることから、材料を溶かすことなく処理する高精度加工への応用が期待される。

原研は既に100テラワット高強度レーザーの開発に成功しているが、超高強度レーザーと物質の相互作用の研究には、更に強度の高いレーザー光の研究と同時に、高強度まで集光する技術の開発が求められる。しかし、強いレーザー光はレーザー媒質が熱のために不均質となっているため、ビームは大きく歪み、光学系で集光しても焦点の面積は理論値より一桁以上大きく、集光強度は高くできない。原研では、こうした大きな歪みを補正するため、ワークステーションで制御する大型の複合型ミラーを用いた実験を行ってきたが、装置が大型で高価格になることに加え精度が劣るなどの欠点があった。

今回開発した技術は、媒質内で集光を必要としない光誘起屈折率効果に着目したもので、固体の位相共役鏡を実現。また、位相共役波の発生に必要な光ループを外部で形成するリングループ方式の採用により結晶へのレーザーへの入射有効面積を増大させ、高出力レーザーへの適用を可能にした。さらに、リングループ内の像転送望遠鏡により、広がった光を効果的に集め位相共役波を高効率で発生させたほか、不要な反射型ホログラムを位相変調素子を用いて消去、またプリズムを用いて像を90度回転することで、結晶内に書き込まれたホログラムの高精度再生を実現させた。従来から研究されている結晶を利用した補正技術に比べ、晶質の悪いレーザーや極めて高出力のレーザーに対しても適用できることが特徴。


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