[原子力産業新聞] 2000年1月27日 第2022号 <1面>

[原子力安全委員会] 佐藤安全委員長に聞く

 JCO臨界事故は我が国の原子力安全問題を根本から揺るがす重大な事故だった。原子力災害対策法や改正原子炉等規制法が慌ただしく制定され、法的に安全対策が整備されるとともに、原子力安全委員会も直ちに事故調査委員会を設置し、幅広い観点から事故原因やその背景となった要因等について掘り下げた調査を行い、昨年末最終報告書を取りまとめた。本紙は佐藤一男原子力安全委員会委員長に、JCO事故や今後の安全委のあり方等について聞いた。

 ――JCO事故調査委の報告書がまとまったが、感想は。

 佐藤委員長  最終報告は、これからのJCO事故に始まる我が国の原子力安全体制のあり方等にとって一つのメルクマールである。これを受け先日、安全委としてこれから基本的にどうやっていくかを決定したところだ。この内容はあくまで基本的方向であって、これから具体化していかなければならない。大変なことだが、気を引き締めて取り組んでいきたい。

 ――議論の中で安全審査等の見宿しも指摘されているが。

 佐藤委貫長  指針等については、その都度見直しているが、中には“経年変化”を起こしているものもある.そもそも指針の性格上、普段から見直していくことはあたりまえのことだが、色々なことが起こったものだから中々手が回らなかったことも率直に認めなければならない。指針を全体としてより整合性あるものにしていくことが重要。今後は事務局等強化されるので従前よりはてきぱき処理できると期待している。そして色々な分野の施設が、全体として整合性あり、同じフィロソフィーで、我々が目指す安全というものはどういうものなのか、いわゆる安全目標を明示的に示す必要があろう。これは昨年の安全白書で「やるぞ」といったばかりだ。それをベースとして各施設に対する指針等が整合とれたものにしていきたい。

 ――臨界事故について、どう考えるか。

 佐藤委員長  率直にいって、加工施設で臨界事故が起こったことは足元をすくわれた思いがしている。これまでの防災対策にしても大量に放射性物質が環境に放出された場合を想定しており、今度のように直接放射線で周辺に影響を与えるということはあまり想定されていなかったので、正直いって我々もやや戸惑ったし、教訓にもなった。それにしてもあそこまで法令に違反していたことは衝撃だった。どうして野放しにしていたのかという問題もあるが、こういった違反を防ぐことは規制だけで出来るものではない。やはり事業者の必要最小限のモラル、倫理をどうやったらちゃんとした姿にできるのかが重要だ。安全委でもセィフティカルチャーを常々言ってきたが、無規されていたことは残念だった。それは産業界にとってもそうだったろう。高いモラルを持つよう官民それぞれの立場から取り組んでいくことが重要だ。最近、不誠実なことをやることが原子力界で目立ってきているようだ。安全委としてもできるところから取り組んでいきたい。

 ――事故以降、災害対策特別措置法等できたが、どう評価するか。

 佐藤委員長  一つの進歩だと思う。特に災害措置法は従前から地元自治体から国がやってほしいと要望されていた。全面的に取り入れたものではないが、かなり要望を取り入れていると思う。ただ防災対策は、どこに橋がかかっているかなど地域特性がある。従って実効性のあるものにしていくには具体的な措置を講じていかなければならない。これまでは防災活動における安全委の位置づけは曖昧だった。緊急技術助言組織はどういう位慣づけがあるのかは法令等ではどこにも記されていなかったが、安全委として期待に応えていきたい。

 ――4月から委員会の機能強化等を図る目的で総理府に移管するが。

 佐藤委員長  機能強化等については以前から要望してきたことだが、事故をきっかけにかなり要望が受け入れられ、有り難いことだと思っている。一方では、これで言い訳はできないなという思いだ。もし至らないところがあれば全面的に我々の責任となるものだと思っている。

 来年の内閣府移管では100名体制でスタートする。うち技術参与として40名程度の外部からの協力を仰ぐことになる。この人達はこれまでのキャリア、バックグランドを持っておられ、我々としては専門家として、学会活動・発表などどんどんやってもらい、キャリアにプラスになるような仕事をしてもらいたいというのが希望だ。


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