[原子力産業新聞] 2000年2月10日 第2024号 <6面>

[原研] 世界最高性能 中性子回析装置を開発

 日本原子力研究所は1月18日、生体物質中の水素原子や水分子の構造を決定できる世界最高性能の中性子回析装置「BIX-V」を開発し、これを用いてタンパク質「ルブレドキシン」の水素原子の位置決定に成功したことを明らかにした。

 タンパク質の三次元構造の解明は主にX線結晶解析法により行われ、生命科学に大きく貢献してきたが、水素原子の位置を十分に決定できないという問題があった。一方、近年ではタンパク質中の水素や水分子が立体構造の維持などに大きく関与していることが明らかとなり、水素原子の位置情報の需要が急速に増大してきた。

 そこで、原研では先端基礎研究セン夕ーが開発した中性子イメージングプレートの技術に、弾性湾曲シリコンモノクロメー夕の技術を組み合わせ、ノイズが非常に少なく、従来に比べて10倍も質のよいデータを取得できる「BIX-V」を開発した。また、この種の装置にはなかった縦型の装置にすることで小型化(全高1,800ミリメートル、直径950ミリメートル)した。これにより、中性子強度の高い原子炉炉心近傍に設置できるようになりデータの収集時間の短縮も可能になった。

 先端基礎研究センターでは、開発した「BIX-V」を使用して電子を伝達するタンパク賢「ルブレドキシン」の水素原子の位置決定実験を試みたが、分解能1.5オングストローム(10のマイナス10乗メートル)の精度で分子構造が決定できる高精度なデータが約2週間で取得でき、本装置が設計通り世界最高性能を持っていることが確認できた。この種の装置としては、これまで仏のラウエ・ランジュバン研究所に分解能2オングストロームの装置が設置されている。「BIX-V」を使用すれば、短時間で質の高いデータ収集か可能となり、タンパク質の構造構築の原理、酵素反応の機構および機能の発現機構、タンパク質がDNA遺伝情報を解読する機構を明きらかにすることも夢でなくなったといえる。また、将来的にタンパク質の構造を計算機だけで解明し、「ヒトゲノム」計画にも貢献するかもしれない。


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