[原子力産業新聞] 2000年2月10日 第2024号 <6面>

[東京大学] 単一光子を直接検出

 東京大学の小宮山進教授らは新たな半導体量子素子を開発し、遠赤外光領域において光のエネルギーの最小単位である単一光子を直接検出することに世界で初めて成功した。従来の波長限界を100倍破る170〜200マイクロメートルという長波長領域で、10秒間に1個の光子入射という微弱光を測定することかでき、従来に比べて1万倍の感度を達成した。電波天文学をはじめとする基礎研究に貢献できるほか、高速・大容量通信技術への応用も期待できるという。科学技術振興事業団の戦略的基礎研究推進事業の一環として開発したもの。 全ての物質および光は、波動と粒子の性質を併せ持っており、光の弱い極限では光の粒子(光子)を一つずつ数えることができる。しかし、波長が2マイクロメートル以上となる赤外光や遠赤外光については、光子のエネルギーが波長に反比例して小さくなるために計測が難しく、これまで粒子としての検出は不可能だった。

 

 開発した半導体量子素子は、ガリウムヒ素とアルミニウムガリウムヒ素化合物半導体の積層構造中の直径0.15マイクロメートルの領域(量子ドット)に、微細な金属製アンテナを結合した構造。構造全体を単一電子トランジスターとして動作させ、絶対温度0.4K以下に冷却して量子効果を発現させたもの。ゲート電極を兼ねたアンテナに電圧をかけトンネル電流が流れる導通状態にしておき、入射する遠赤外光を長さ100マイクロメートルのアンテナで集めて量子ドットに吸収させる。光子が1つ吸収される毎に単一電子トランジスターは導通状態から遮断状態に遷移し、電流がパルス的信号となって単一の遠赤外光を検出する仕組み。

 実際の測定では、3〜4テスラの強い磁場をかけてサイクロトロン共鳴吸収を利用。検出した光子のエネルギーは磁場に比例して170〜200マイクロメートルの長波長領域だった。量子ドット構造を改良することにより、動作波長範囲を拡大することも可能だという。


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