[原子力産業新聞] 2000年2月17日 第2025号 <6面>

[insight]
原子力の将来見通し 「存続可能」に評価変更

 その多くが原子力発電所を所有していなかった電力業の首脳は2年前、価格重視の市場の中で原子力発電所の競争力に悲観的な見解を持っていた。ワシントンDCに本社があるコンサルティング会社が調査したところによると、原子力発電所は競争的な環境の中で生き残っていけるだろうと考えていた電力会社は半数にも達していなかった。

 現在では、話が違ってきている。電力業界、原子力産業界、そして金融業界内では、規制緩和された電力市場の中で原子力発電所がますます魅力的な資産になってきているとの認識がある。

 1997年にシンクタンクであるワシントン・インターナショナル・エナジー・グループ(WIEG)が毎年発行している「エレクトリック・インダストリー・アウトルック」のためにエネルギー業界の首脳に調査を行った時点では、原子力産業界としては最も良い状態ではなかった。いろいろな理由から、発電量が減少したため、原子力産業界も、どうしなければならないかについて認識していると98年1月に行った財務アナリスト向けの説明の中で言及していたのである。

 1人のアナリストが後に語ったところによると、電力市場が自由化され競争が激しくなった場合の原発の競争力に対してウォールストリートが懸念していたことから、業界関係者の説明はその点に集中した。スタンダード&プアーズは最近、97年の調査に言及し、「米国とカナダでは4,200万キロワットの原子力発電設備が閉鎖に至るほど脆弱であった」と指摘している。

 しかし格付け会社の同社は、「しかしながら、それ以来、エンタジー社やペコエナジー社といった大規模な電力会社が原子力発電所の拡大を確約していることから明らかなように、原子力発電所は存続可能であるという方向に流れが変わってきた」と語っている。

 97年に調査した同じ首脳の何人かが、今年は原子力発電所について楽観的になっているのは別に不思議なことではない。これは部分的には、電気事業が再編された24の州での実績を反映したものである。電力会社に対し回収不能コストを回収させるような好機ももたらされている。そうした楽観論のほとんどは、原子力発電所が競争力を持った資産として売りにだされたということに由来しており、いくつかの電力会社は運転認可の更新に勝算があるとしてこれを支持している、とWIEGは指摘した。

競争に備えて

 ボルチモア・ガス&エレクトリック社とデューク・エナジー社の3社は、5基の原子力発電所の運転認可更新をすでに申請している。このほか、デューク・エナジー社を含む10社は、11サイトの21基の原子力発電所で運転認可を更新する考えであることを原子力規制委員会(NRC)に対し書簡で通知している。これらをすべて合わせた26基の原子炉は、米国内で運転中原子炉の約4分の1に相当する。

 スタンダード&プアーズは10月に公表した電力会社に関する「グローバル・セクター・レビュー」の中で、「効率的で実績の優れた原子力発電所の寿命を延長することによって、新規に発電所を作ったり高価な電力を購入する必要がなくなる」と述べている。

 さらに、同社は、原子力発電所の運転認可を更新する電力会社は、自由化された市場において競争力を持った価格で電気を売れるという有利な立場を確保することができるだけでなく、発電の限界コストが低い減価償却が終わった原子力発電所では、運転認可の更新によって収益力が向上することも考えられると指摘している。

 いくつかの電力会社は、競争力を確保するため、発電事業から撤退し、原子力発電所を売却しようとしている。一方で、アマージェン社やエンタジー社といった電力会社は、原子力発電所を購入しようとしている。これまでに6か所の7基の原子炉で購入あるいは購入が提示されていることに加え、物件探しが行われていることからも明らかなように、原子カ発電所は有利な資産となってきている。スタンダード&プアーズ社は、アマージェン社やエンタジー社に追随し、原子力発電所を積極的に購入するという戦略をとる電力会社か近い将来にでてくるとみている。

実績が向上

 スタンダード&プアーズは、グローバル・セクター・レビューの中で、原子力発電量が再び増加してきているという見解を固めている。同社は、原子力発電所の運転実績が近年、向上してきていると指摘した。こうした見解は、次のような産業界のデータがもとになっている。

 ▽1998年の発電量は前年に比べて7%増加した。また、99年の1月から7月までの発電量は前年比の9.3%増となった。

 ▽原子力発電所の性能の指標となる平均設備利用率は、98年に84.3%を記録、前年の79.6%から大幅に上昇した。

 モルガンースタンレー・ディーンーウィッターのカレン・バード会長は、アナリストと投資家は、原子力発電所が2年前にどうであったかには関心がないと語っている。

 彼女は、「投資家の関心は、原発の現在の経済性である」と述べ、「原発の経済性はますます良くなっている。今後についても、原子力産業界の統合が原発の運転実績の向上に貢献することになろう。そして、運転認可を更新する原発の競争力も非常に強まっていくはずだ」と指摘している。


施設の安全評価で団結

 市場での競争がますます強まっている中で、企業は安全問題についてさえ自発的に協力することはないだろうと懐疑論者は考えていた。しかし、昨年9月30日に日本の東海付の核燃料加工施設で起こった事故を受け、米国の核燃料企業は国内の主要核燃料施設の安全評価に共同で着手するため団結した。

 産業界によって始められた努力は米国の施設によって管理され、原子力規制委員会(NRC)の手で検討が行われている厳格な安全・検査プログラムを補足するものである。具体的には、日本での事故から得られた教訓を国内施設の操業面での全体的な評価に適用することになっている。

 米国内で燃料の濃縮や成形加工、転換を行っている原子力エネルギー協会(NEI)に加盟しているすべての会員が参加することになっており、NEIがそうした評価の調整を行うことになっている。

安全評価

 NEI理事長の特別補佐を務めるジャック・ブロンズは、「NEIと産業界からの参加者は、連邦政府や州政府の監督に関係なく、こうした活動が核燃料施設の安全操業に対する産業界のコミットメントを強めるものであるということを確信している」とした上で、同じくらい重要なのは、電気事業の競争が激しさを増している中で、企業がすすんで協力し安全に関する問題についての情報を共有しようとしているということである」と語っている。

 産業界と海軍を合わせると原子力分野で37年間の経験を持つブロンズは、原子力推進調査委員会の上級メンバーを以前に務めていたが、そりした経験を産 業界による安全評価の調整役を果たすにあたって活かすものとみられる。

 この評価に参加している燃料加工メーカーの中には、ABBコンパッション・エンジニアリング社やフラマトム・コジェマ・フュエル社、ゼネラル・エレクトリック社、シーメンス・パワー・コーポレーション、ウエスチングハウス社が含まれている。国内唯一の転換業者であるアライド・シグナル社と濃縮業者のUSEC社も参加している。米海軍向けの核燃料を製造しているニュークリア・フュエル・サービス社とBWXテクノロジーズ社も参加するとみられている。

 フラマトム・コジェマ・フュエル社のボブ・ホフマン社長は、「日本の事故から得られた教訓のすべてを原子力産業界全体として学ばなければならない」との考えを表明した。また、「我々は我々の施設が安全であるという絶対的な信頼を持っている。それでもなお、政府や公衆、利益集団は、安全のこととなると、産業界としても一席の努力をすべきとの考えを持っている。今回のような協力活動は、そうした産業界の努力の良い例である」とも述べた。

 東京から北に90マイル離れた東海村の燃料成形加工施設での事故は、同施設の転換試験棟で起こった。日本の高速実験炉向けのウラン燃料を製造していたこの施設では、作業者が時間を節約するため、明らかに経営上の認識から安全手続きを無視していた。32ポンド以上という本来入れてはいけない量のウラン溶液を作業者が沈殿槽に入れた時、核連鎖反応、あるいは臨界が起こり、臨界はその後ほぼ20時間にわたって続いたのである。

行いを正す

 3名の作業者が事故によって重傷を負った。米国の原子力産業界は、どのように臨界に至ったか、どうすれば臨界がすぐに終息したか、そしてどうすれば米国の施設でそうした事故を避けることができるかについて検証することにしている。

 ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)は、事故に関する予備報告の中で、事故は主としてヒューマンエラーと重大な安全原則違反によって引き起こされたと結論づけた。この報告はさらに、事故によって周辺環境や地元住民の健康にずっと影響が継続することはないと指摘している。


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