[原子力産業新聞] 2000年2月24日 第2026号 <4面>

[金属材料技術研究所] 超伝導磁石900メガヘルツ級開発

 金属材料技術研究所は、同所の強磁場ステーションにおいて科学技術庁の「超伝導材料研究マルチコアプロジェクト」の一環として、神戸製鋼所と共同で従来のレベルを超える超伝導核磁気共鳴(NMR)分析技術に関する開発を進めてきたが、このほど、900メガヘルツ(発生磁場21.1テスラ)超級の超伝導マグネット開発に成功したことを明らかにした。

 これまでの高分解能NMRスペクトロメータの上限は800メガヘルツ(18.8テスラ)で、今回の成果はこれを大きく凌駕する。

 NMRスペクト□メータは発生する磁場の増加とともに測定の感度と分解能が飛躍的に増加するところから、タンパク質の立体構造解明の研究等を中心に強磁場化が期待されている。このため世界各国で90メガヘルツのNMRマグネットの開発が行われ、その競争は「サイエンス」誌でも国際マラソンに例えられた。今回の成果は900メガヘルツを超えるレベルを世界に先駆けて達成したもの。

 昨今わが国での先端科学技術とこれに関連する製造技術・技能の落ち込みが懸念されているだけに、超伝導という最先端分野で世界最高のマグネット製造技術の開発に成功したことは、日本の先端技術のレベルの高さを世界に示す久々の明るいニュースだ。

 わが国のゲノムプロジェクトの一環として、理化学研究所が中心となって進めている「タンパク質基本構造解明計画」では、900メガヘルツ級のNMRマグネットを使用して、世界に先駆けてタンパク質基本構造の解明を行う予定だ。タンパク質構造の解明については、世界各国で熾烈な競争が行われている。プロトンのNMR周波数が1ギガ(10の9乗)ヘルツ(発生磁場23.5テスラ)に近づくにつれて測定可能なタンパク質の分子量が大幅に増加することが期待されており、このマグネットの開発により、タンパク質のプロジェクトに対して、わが国自身の技術によって世界最高レベルの感度と分解能を持つ測定装置を提供できることとなった。

 これまで、信頼性が高いNb(ニオブ)Ti(チタン)とNb3Snの超伝導線材だけで20テスラ以上の磁場を発生するNMRマグネットを実現することは困難と考えられてきた。今回、金材研が開発したTiを添加したNb3Sn線材を改良し、強磁場特性と機械的特性を向上するなどの努力によリ、NMRに要求される安定性のレベルで21.1テスラを上回る磁場を実現した。マグネットは外側コイルと内側コイルから構成されている。次の段階として、内側のコイルをBi(ビスマス)系酸化物のコイルに置き換えることで長い間NMRマグネットの到達目標とされてきた1ギガヘルツに相当する23.5テスラを発生するシステムの開発を目指すことになっている。

製作したマグネットは外径約1.3メートル、高さ1.6メートルの大きさで、外径約1.9メートル、高さ3.6メートルの断熱真空容器(クライオスタット)に入れられており、総重量は約13トン。加圧超流動ヘリウム(1.8ケルビン以下)によって超伝導コイルは冷却され、直径54ミリメートルの室温ボア中に21.1テスラを超える磁場を発生した。


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