[原子力産業新聞] 2000年4月13日 第2033号 <4面>

[NEInsight] 原子力の将来を決めるべき時

間違った選択のツケは誰が?

原子力の商業利用を進める32か国の政策立案者は、21世紀を目前にひかえ、重大な決断の岐路にたたされており、もし間違った決定をしてしまえば、環境だけでなく電力の消費者が高いツケを払わされることになろう。これらの政策立案者が下す決定がどのような結果をもたらすかを理解してもらうため、パリに本部を置く経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)は、今後2050年までを見通して、三つの原子力シナリオの努力目標とそれがもたらす結果をとりまとめた。

政策立案者による一つの選択肢として考えられるのは、原子力発電設備を拡大させる方向で活動することである。この中には、原子力発電所の競争力を確保するとともに、一般の人たちが満足するよう、原子力安全や放射性廃棄物の処分問題に取り組み、総発電量に占める原子力発電の割合を高めるような条件作りも含まれる。あるいは、こうした努力目標に取り組まないという決断を下すこともあり、この場合には、2020年までに原子力発電の設備容量が1990年代の水準から大きく低下してしまうことになる。原子力発電のための基盤が一旦失われてしまえば、たとえその後に再生されたとしても、そのためのコストは途方もないものになってしまうだろう。

NEAは、「現在、433基の原子力発電所によって、電気事業部門では毎年約18億トンの二酸化炭素の排出が避けられている」と指摘。三つの原子力開発シナリオがどのように温室効果ガスの排出に影響を及ぼすかについても試算している。

オプション1 原子力なし、多量の二酸化炭素

最初のシナリオは「段階的閉鎖」(フェーズアウト)だが、これには何の説明も必要としない。NEAは、すべての原子力発電所が40年間(あるいはそれ以下)運転されたあとでデコミッショニングされ、新規の原子力発電所はまったく発注されないと仮定している。それによると、2045年までに原子力発電所は1基もなくなってしまう。西欧では現在、少数だがスウェーデンとドイツの2か国がすでに原子力発電所の段階的閉鎖という方針を示しており、これ以外にも、ベルギーがそうした政策の検討を行っている。

こうしたシナリオがもたらす結果はどうか。NEAは、「エネルギーの供給確保や燃料の多様化、環境保護に関する政策目標を達成することは困難となる」との見解を示している。二酸化炭素の排出量は、2010年から2025年の間に年間10億トンほど増加し、2045年までに18億トンに達するとみられる。

オプション2 急減、再生

次のシナリオは「連続的な減少のあとの再生」で、NEAは、現在、原子力発電開発に影響を及ぼしている各種の問題が数年のうちに解決されることはないとの前提にたっている。現在のエネルギーの価格構造と(原子力が)一般の人たちに信頼されていないことから、原子力発電開発計画の続行が難しくなっている。しかし、電気に対する欲求が世界的に高まっていることから、結果的にに新規原子力発電所の建設が加速することになり、原子力発電への回帰を促すことになると思われる。

しかし、どの程度のコストで?。こうしたシナリオの抱える最大の問題点は、原子力発電開発を支える基盤が、そのような再生がスタートするその時まで存続しているかどうかということである。技術的なノウハウや産業基盤、規制面および法的な体制といったものは、世界的に原子力発電所の開発が直ちに行えるようにする上で必要となる要素であると、NEAは指摘している。

そしてNEAは、2015年から2030年にかけて二酸化炭素の排出削減に対する原子力発電の貢献は下限に近づくことになろうと予測している。2050年までに原子力発電所の運転によって排出が避けられる二酸化炭素の累積量は、原子力発電所が急速に減少しなければ達成できたと思われる量のわずか半分に過ぎなくなるとみられる。

オプション3 原子力が拡大、二酸化炭素の排出が削減

NEAの3番目のシナリオは「原子力発電の着実な増加」であり、ここでは原子力の設備容量が今後50年間にわたって確実に増加すると仮定している。

そうしたシナリオでは、「原子力発電開発計画を進める各国の政府や産業界としても、原子力発電が電力市場で引き続き受け入れられていくような条件を維持あるいは作り上げることができるよう、直ちに行動を起こさなければならない」とNEAは指摘している。こうしたシナリオでは、原子力発電によって、2050年までに年間63億トンの二酸化炭素の排出が避けられることになり、これは原子力発電が段階的に閉鎖されるというシナリオの削減量と比べると4倍に相当する。

この三つのシナリオとも現実のものになる可能性をもっている。しかしNEAは、環境や経済性の点からみて道理にかなっているのは原子カ発電の着実な増加であると強調している。原子力発電所の段階的な閉鎖、あるいは原子力発電の低落を許すようなオプションは、温室効果ガスの排出を削減したいと希望するのであれば、世界にとって容認できないものである。

2050年までの原子力
開発オプション
設備容量排出が避けられる
年間のCO2排出量
オプション1
(段階的な閉鎖)
2010年:3億5,400万kW2010年:18億トン
2030年:5,400万kW2025年:8億トン
2050年:02045年:0
オプション2
(減少の後の再生)
2010年:2億5,900万kW2010年:14億トン
2020年:5,400万kW2025年:5億3,000万トン
2030年:1億6,300万kW2050年:63億トン
2050年:11億2,000万kW
オプション3
(成長の継続)
2010年:4億5,300万kW2010年:24億トン
2030年:7億2,000万kW2025年:36億トン
2050年:11億2,000万kW2050年:63億トン

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