[原子力産業新聞] 2000年4月20日 第2034号 <4面>

[レポート] 国際ワークショップを終えて

運輸省船舶技術研究所原子力技術部長 山路 昭雄

【1、概要】

海洋における原子力の平和利用について、砕氷船、深海調査船、高速船、フローティング炉、海水淡水化、放射性物質運搬船等における原子力技術、運航技術、経済性、地球環境保全を含む全体システムの発展及ぴさらなるシーズの開拓を目的として、運輸省船舶技術研究所は、科学技術庁科学技術振興調整費国際共同研究総合推進制度により「海洋における原子力利用に関する国際ワークショップ」(企画運営蚕員長・成合英樹筑波大教授)を計画し、さる2月21日から24日にかけて東京・虎ノ門パストラルにて開催した。

主催は運輸省船舶技術研究所、運輸省海上技術安全局及ぴ科学技術庁((社)科学技術国際交流センター受託)、協賛は日本原子力学会、日本造船学会及び日本舶用機関学会である。

参加人員は134名で、内訳は日本(111名)、ロシア(9名)、韓国(6名)、中国(2名)、米国(2名)、フランス(2名)、英国(1名)、イスラエル(1名)である。発表件数はオーラル31件、ポスター6件である。発表分野は海洋における原子力利用(3件)、舶用炉、原子力砕氷船、原子力深海調査船等(22件)、中小型炉、フローティング炉、海水淡水化炉等(9件)、放射性物毎運搬船(6件)である。(注:2つの分野に属しているものもある)この他、中小型炉技術の舶用炉への展開等についてのパネルディスカッションを行った。テクニカルツァーとして、海洋科学センターとメガフロート技術研究組合を訪問し、しんかい6500、メガフロート施設等を見学した。会議の概要、印象等を述べる。

【2、北極圏における原子力利用】

原子動力は燃料交換なしに高出力長期連続航行が可能であるという在来動力にはない際だった特長を有しており、海上輸送や海洋開発の高度化、多様化、地球規模の調査観測活動の発展に大いに貢献できる。

ロシアは世界初の原子力砕氷船レーニンを運航(1959−89年)して以来、第2世代の原子力砕氷船としてアルクチカ(75年)、シビーリ(77年)、ロシア(85年)、ソビエツスキー・ソユーズ(89年)、ヤマル(92年)を、第3世代の原子力砕氷船としてタイミール(89年)およびバイカチ(90年)をそれぞれ建造運航し、この他1隻のラッシュコンテナ船セブモルプーチ(88年)を保有している。これらの原子力砕氷船は北極海航路における船舶や北極海の石油資源を輸送するタンカーのエスコート等に利用され、原子力砕氷船は北極圏におけるこれらの運航に必要なツールとなっている。現在、ロシアでは2基の新世代原子力砕氷船の設計が行われている。また、北極海は世界最大規模の天然ガス油田地帯であり、ロシアでは原子力を利用した潜水タンカー、ガスポンピング海中ステーション等の設計をクルチャトフ研究所等で行っている。

北極海に面したシベリアChuckChee地域のペベックでは熱電併給のフローティング原子カプラントを建設中である。このフローティングプラントには2基のKLT−40S原子炉が搭載される。KLT−40Sは、30年以上の安全運転の経験を有するロシア原子力砕氷船用舶用炉KLT−40Sに基づいている。KLT−40Sは熱出力150メガワットであり、これを2基搭載したペベックフローティングプラントの仕様は電気出力2×30メガワット、熱供給2x25GCal/時、供用期間35−40年である。ロシアではペベックをパイロットプラントとし、北極海に面した他の地域にも同様の建設計画を有している。さらに、冬期における北極海沿岸地域および北アフリカ、中近東等での利用を視野に、海水淡水化装置を備えたフローティングブラントのフィージビリティスタディを行っている。

米国では、原子力潜水艦を使用した北極圏での科学調査がSCICEX(Scienctific Ice Expedition)計画の中で行われ(95−99年)、北極圏での汚染・気候変動の調査、地理学上の知見等で数々の成果をもたらし、原子力潜水佳は同調査の有力なツールとなることが示された。

【3、原子力商船】

地球環境問題に関しては、船舶から排出されるSOx、NOx、CO2による汚染が指摘されている。原子力船はその運航においてSOx、NOx、CO2を排出せす、クリーンな船舶となり得る。原研で概念設計された改良舶用炉MRXは受動安全性を備えた軽量・小型の一体型PWRである。MRXの炉心損傷頻度は約9×10のマイナス8乗/原子炉・年と評価された。

日本造船研究協会と日本原子力産業会議は、原研の委託により、将来の原子力船の形態、経済性、運航支援を含めた全体システム等のサーベイを行った。その結果、将来実用化の可能性の高い原子力商船として排水量型大型高速コンテナ船が想定された。ディーゼル船と原子力船について、6000TEU(Twenty foot Equivalent Unit:海上コンテナの個数を表す単位で20フィート長さのコンテナに換算した個数を表す)、アジア−北米ルート、2015年年から20年間運航するとし、環境コストを考慮してRFR(Required Freight Rate:船舶の一生涯にかかるコストを一生涯に運ぶ総コンテナ数で割った値。コンテナ1個あたりの輸送コスト)の比較を行った結果は、28ノット以上の速度では原子力船はディーゼル船に比べて経済性で優位となることを示している。

このような原子力商船を実現するためには、次の項目が重要と考えられる。(a)原子力船の標準化(b)経済的な舶用炉のさらなる開発(c)母港システムの蜷備(岸壁、ドック、核燃料交換施設、核燃料保管施設、放射性廃棄物処理・保管施設等)(d)原子力船の安全運航を監視・管理する運航監視センター(e)原子力船支援船(f)原子力船要員養成体制の整備(g)国際的な基準・規則の整備(h)自由航行制度の確立(i)国内外におけるPAの確立(j)外国港への入港の自由。

舶用炉の改良のため(a)受動安全システム(b)エンジニアリングシミュレーターシステム(c)高度自動化(d)船体運動を伴う熱水力特性(e)放射線遮蔽(f)原子炉容器内装型制御棒駆動機構−等の要素研究が各国で行われている。原研では、定期点検期間の短縮、船の寿命後の原子炉の再利用、解役が容易等の利点から、MRX原子炉の一括搬出方式を提案している。

【4、深海調査船、海中航行原子力船】

深海や北極圏海中における探査・科学観測は地球物理、地球規模の環境汚染等の観点からその重要度が高まっている。これらの探査・観測には信頼性がありコンパクトで且つ大容量の動力が望ましい。バッテリーを使った既存の深海調査船は深海での活動を数時間に制限されており、もし原子力を動力として使用するならば、その活動は著しく改善される。日本造船研究協会は将来実用化の可能性の高い特殊用途原子力船として6500メートル深海調査船と600メートル海中航行調査船を想定している。これらの調査船への搭載を想定した原子炉の発表が日米からあった。

【5、フローティング原子カプラント、海水淡水化、熱電併給炉】

中小型炉は熱供給、海水淡水化、舶用炉、熱電併給等を目的として、世界中で研究が行われている。1部の開発途上国や離島や沿岸地域では、海水淡水化による飲料水の生産に高い関心がある。海水淡水化装置や熱電併給炉は都市に近接して設置されることが予想され、受動安全システム等により安全性の向上が図られている。

韓国では日産4万トンの真水と90メガワットの電力供給を行うコジェネレーション用1体型PWR(熱出力330メガワット):SMART(System integrated Modular Advanced)の研究開発を行ってり、1999年に概念設計を完了し、現在、基本設計が行われている。SMART計画はKAERI(韓国原研)が中心となり、民間会社等と共同で研究が進められている。KINS(韓国原子力安全技術院)はSMART特有の安全設計に係る安全規制の研究等を行っており、成果を設計に反映させている。

中国からは、熱供給用小型原子炉NHRの経験を甚に、フローティング海水淡水化プラントの発表があった。モロッコは、IAEAの技術支援のもとで、中国と共同で日産8000トンの飲料水製造プラントプロジェクトの準備検討を1996年から実施している。

日本では工場内にて造船技術を活用して原子炉を製作し、サイトに運ぶことにより建設期間の短縮を目指した電気出力1200メガワットのフローティングプラントJSPWRの研究が電力会社・メーカーにて行われている。また、原研では改良舶用炉MRXをバージに搭載し熱電併給炉とした研究と改良舶用炉に基づいた都市熱源用小型プラントの研究が行われている。

ロシアからは、鉛・ビスマス冷却小型高速炉について、工場にて製作・組立を行い、フローティングユニットでこれを運搬し、サイトでの燃料交換を行わない方式の発表があった。

小型炉は受動安全技術を取り入れることが容易であり、設備の簡素化、短工期、少ない資金等の利点がある。米国ではDOEのNERI計画の中で、輸出を主目的とした革新的小型炉の研究開発を行っている。海水淡水化用の小型フローティング原子カプラントは原子力の新しい利用形態を開くと考えられる。将来は工場で製作されたプラントがフローティングドックにより海を越えてサイトに運ばれることになろう。

【6、放射性物貰の溶上物送】

日本から欧州への使用済燃料海上輸送は1969年に開始されて以来160回以上行われている。東海再処理工場への輸送は78年から行われ、同工場での累積再処理量は940である。六ヶ所村再処理工場への海上輸送は98年秋に新しい専用船「六栄丸」で行われたがその直後に「使用済燃料輸送容器中性子遮蔽材のデータ改ざん問題」が明らかとなり、輸送は99年9月まで中断された。各原子力発電所からむつ小川原港への低レベル放射性廃棄物の海上輸送は92年から開始され、昨12月末までに輸送されたドラム価数の累積は13万本である。

また、昨12月末までに168本の高レベル放射性廃棄物キャニスターが欧州から日本へ海上輸送された。欧州から日本へのMOX新燃料海上輸送は昨年開始された。

この他、海上輸送の安全性評価として、使用済燃料運搬船の衝突シミュレーション、MOX新燃料輸送物の仮想海没時の被ばく線量評価、放射性物質輸送船火災時のPSA等が発表された。

【7、おわりに】

原子力船、フローティング原子カプラント等の海洋における原子力利用では、その経済、環境、科学的効果等を評価すること、特に原子力船では陸上支援システム等を含んだ全体システムとしてこれらを捉えること、そして国際協力・多国間による共同作業が重要になると思われる。


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