[原子力産業新聞] 2000年4月27日 第2035号 <1面>

[原産] 第33回年原産年次大会開幕

技術と社会の調整を
向坊会長所信表明、28日には東海村で議論

日本原子力産業会議が毎年開いている原産年次大会の第33回大会が26日から東京都千代田区の東京国際フォーラムで開幕した。3日目の最終日(28日)には会場を茨城県東海村に移して、JCO 臨界事故を踏まえ、これからの原子力のあり方等について議論する。今世紀最後となる同大会の基調テーマは「信頼される原子力を、今ここから」。開会の冒頭、向坊隆原産会長は所信表明の中で、今世紀を振り返り、人類の経済社会を大きく発展させた科学は一面では負の遺産をもたらし、その解決は来世紀に持ち越されことになったと指摘するとともに、科学技術と社会とのギャップが広がっているとし、それを埋める努力をしていくことが重要だと強調した。また同会長はこうした反省に立って、社会ニーズに対応した原子力利用のあり万について今大会で活発な議論が行われるよう期待した。

今回の原産年次大会には、日本を含め世界16か国・地域と3国際機関から1,300名を超える関係者・一般市民が参加した。

大会は近藤次郎原産副会長を議長に、開会セッションから開幕。所信表朋した向坊原産会長は、今世紀の科学の代表例として大量破壊兵器でる核、それに対する平和利用としての原子力発電・放射線利用を挙げ、科学が未曾有の経済社会の発展を可能とした反面、様々な新しい問題も生じさせたと指摘した。また地球温暖化など負の遺産も残し、今世紀において人間は真に人類の幸福をもたらすという目的を達成することができなかったとし、「来世紀への大きな宿題だ」と述べた。さらに原子力界の昨今の事故等を考察すると、科学技術と社会の要請とが調整し切れていないと論じ、こうした反省に立って、社会のニーズに対応した原子力利用のあり方について今大会で議論されるよう期待した。

続いて、中曽根弘文原子力委員長 (科学技術庁長官) が所感を述べ、昨年の JCO 事故の教訓を踏まえ、原子力防災対策や安全規制の抜本的強化を図っていくこと等により国民の信頼回復に努めていく決意を表明するとともに、将来とも原子力発電は重要な役割を担っていくことから核燃料サイクルの確立に向け継続して取組んでいきたいと強調した。さらに現在審議中の新原子力長期計画について、原子力平和利用の原点に立ち返って議論し、年内にも取りまとめていきたいとの考えを示した。

森島準備委員長、情報公開のあり方に言及

続いて森島昭夫大会準備委員長が講演し、原子力の信頼をかち得ていくためには技術だけでなく安全性やリクスなども含めた情報公開を進めていくことが重要だと強調した。

同氏は今大会について、JCO 事故以来、原子力をどう考えるか大きな議論となっているが、ここできちんと反省し、どうすれば原子力を将来にわたって発展させることができるか、もう一度原点に立ち返って議論し、再出発の場としていきたいと語った。

また国民の一人として見た原子力についての見解を披露。現在電力の3分の1を超える原子力発電に代わる電源をみつけるには少なくとも数十年は難しいとし、有限な化石燃料等を考慮すれば、日本はエネルギー政策について (1) エネルギーセキュリティという観点から評価する (2) COP3 で採択された CO2 等の削減をどのように達成していくかについての観点から原子力の位置づけも考える−ことが必要だとし、エネルギーとしての原子力を率直に見つめ直すことが重要だと述べた。

一方、エネルギーとして原子力は重要ではあるものの、最近の原子力の事故や不祥事によって国民に大きな不安・不信が高まっており、こうしたジレンマをどこでバランスさせていくかが課題とし、「強調したいことは、原子力にとっては安全性(の確保)が最大の前提だ」と語った。とりわけ放射線等の人体への影響は広範囲に及ぶこともあり、技術的に安全性をさらに高めていく必要性を訴えた。しかし技術以外にもマニュアルを守らず人為的事故が起きることもあり得ることや、阪神大震災の時のように安全性は一定の条件において確保できるものであり、そういうことを国民に説明することも重要だと強調した。

さらに高度な安全性が確保されたとしても、国民の信頼性が高まるかは定かではないとの見方を示し、不信・不安というものは社会的現象であり、安全やリスクなども含めた情報の公開がとりわけ重要だと述べた。そして情報は歪めることなく、分かりやすく出すことが重要だと、米国ユッカマウンテン視察時の体験を交えながら指摘。こうした情報等を提示し、国民が原子力についてどう考え、選択していくのかという姿になっていくのが望ましいと語った。

招待講演「新ルネッサンスに」

原産年次大会のセッション1「招待講演」の午前の部では飯島宗一原産副会長を議長に3名が講演した。

「将来における地球規模でのエネルギー確保」 J.コルビン

「将来における地球規模でのエネルギー確保」と題して講演したJ.コルビン米原子力エネルギー協会(NEI)理事長は、電力市場の自由化が進んでいる米国内で原子力の戦略的重要性が増しつつあると語った。また国連予測では21世紀半ばには世界の人口は100億人に達し、電力消費も3桁になるとしており、環境保全等も考慮しこれらに対処していくには原子力が不可欠だとの認識を示した。さらに現在103基の原子力発電所が稼働している米国は電力の20%近くを供給しており、この稼働により、毎年1億5,500万トンの CO2 の排出が抑制されている現状を紹介。米国民も原子力の役割を認識するようになってきていると述べた。また米国内の電力市場の自由化が原子力の多くの利点を強調するのに役立っていると指摘。1999年の原子力発電の設備利用率は86.8%を記録。原子力産業界は他電源と較べても競争力を持ったコストを目指し企業統合を進めるなどして経営努力した結果、原子力産業は生まれ変わり、新しい米国のルネッサンスと言われるまでになったと語った。

同氏は原子力の価値をさらに高めていくため、@原子力発電の価格競争力を強め、利用率を高めていくA価格の安定性を高めるBクリーンなエネルギーC他の産業に応用できるような良好な原子力発電所の経営管理−など7項目の取組みを目指して努力していると述べた。

「フランスの原子力発電開発−現状と展望」 P・コロンバニ

「フランスの原子力発電開発−現状と展望」について講演したP・コロンバニ仏原子力庁長官は、同国の原子力発電は国内電力量の約75%を供給し、電力価格も欧州で一番安い方であると説明。さらに原子力発電の推進によって、国内のエネルギー自給率は70年代初めの20%から50%近くにまで高まるとともに、原子力産業では約13万人を雇用し、電力輸出にも大きく貢献している現状を紹介した。

さらに同氏は、原子力は温室効果ガスを排出せず地球保全に寄与しており、今後とも原子力路線を権進していくことにしており、安全性や競争力の向上に努めること、長寿命・高レベル廃棄物の長期貯蔵に関して国会と政府が2006年に決定を下しやすい環境を整えること、長期的には多様な燃料を使用でき少ない消費量で済むような原子炉の開発等に取り組む考えを示した。また国際協力の重要性にも言及し、とくに日本との協力関係強化の重要性を強調した。

「東京の将来像とエネルギー政策」 石原都知事

石原慎太郎東京都知事は「東京の将来像とエネルギー政策」と題して講演した。その中で「高速増殖炉(FBR)の開発は大切な試みであり、できるだけ早く灯火を灯してもらいたい」とFBRに期待感を示した。

石原氏は、技術と人間の関わりについて論じ、技術は人間の歴史を変え、その中でエネルギーは文明や技術を促進してきたと指摘するとともに、これからの時代を切り拓く技術の一つに原子力があると語った。一方では、戦争が技術を加速してきた側面もあり、原子力も含め戦争の道具としてこれから使うかどうかは私たちの責任だと強調した。また日本の原子力の管理は素晴らしく進んでいると述べたが、JCO事故については本質的に物事を理解していない人が引き起こしたもので、もはや技術の問題ではなく基本的なインテリジェンスの問題だと指摘。さらに原子力はある危険性は持っているが、管理を徹底すれば防げると述べた。またエネルギーの安定確保の重要性について、天候に左右されるエネルギーや有限で海外動向に左右されるようなエネルギーだけでは好ましくないとし、原子力開発の必要性を強調した。

最後に「十分な管理が行われるならば、東京湾に立派な原子力発電所があっても良いのでは」と発言。これから東京における原子力の活用について考え、新しいメッセージを発信していきたいと抱負を語った。


Copyright (C) 記事の無断転用を禁じます。
Copyright (C) 2000 JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM,INC. All rights Reserved.