[原子力産業新聞] 2000年5月25日 第2039号 <1面>

[ICRP委員長見解] 放射線防護体系見直しへ

同一の指針適用を検討

国際放射線防護委員会(ICRP)のロジャー・クラーク委員長は18日、広島市で開かれた第10回国際放射線防護学会・国際会議で、各国が放射線防護規制の拠り所としている現行の放射線防護体系を根本から見直す考えであることを明らかにした。ICRPは、1990年にそれまでの勧告を大幅に改訂した基本勧告を公表、翌年に「パブリケーション60」として刊行。現在、我が国ではこの90年勧告を取入れようとしている。今度の改訂では、個人の防護に主眼を置いた上で、職業被曝、医療被爆、公衆被曝を区別せず同一の指針を適用するなど、現実に沿って簡素化することをめざしている。4〜5年をかけて検討する。防護体系の根本的見直しだけに議論を呼びそうだ。

クラーク委員長は、低線量の放射線にICRPのリスク係数を適用することに疑問が生じてきているとするとともに、線量と影響の間に閾(しきい)値はないとする仮説についても異議が出されていると指摘。また、微小の線量をきわめて長い時間にわたって膨大な人数に掛け合わせることによって得られる集団線量という考え方にも問題点があると述べ、基本勧告の改訂に着手した習景を説明した。

同委員長は、線量制限体系の一つの柱となっている「線量限度」について、これが安全であるかそうでないかの境界のようにとられていることも誤解を招く一つの原因になっていると強調した。現在提案されている基本的考え方は個人の防護を基準にしたもので、「個人が単一の放射線源から十分に防護されていることが、線源を管理する上での十分な基準であり、最も大量に被曝した個人の健康に対するリスクが受け入れられるものであれば、どのくらいの人数が被曝したかどうかに関係なく、全体のリスクは容認できるものであるという原則に基づいている」(クラーク委員長)。

こうしたことから、新勧告では単一の尺度の「個人線量」が用いられることが検討されている。具体的には、被曝の重要度に応じて、「重篤・30〜300ミリシーベルト/年」「高・3〜30ミリシーベルト/年」「中・0.3〜3ミリシーベルト/年」「低・0.03〜0.3ミリシーベルト/年」「極低・0.03未満ミリシーベルト/年」に分けた上で、これまでの線量限度に代えて、医療措置や緊急の行動が必要になる基準として新たに「アクション・レベル」(30ミリシーベルト/年)を設定するとしている。また、線源の特定や被曝低減の方法を調査する基準として「調査レベル」(3ミリシーベルト/年)を設けるほか、0.03ミリシーベルト未満の線量については、規制対象から外すことを視野に入れている。

クラーク委員長はこのほか、「線量限度」に加えてICRPが放射線防護の基本的原則としてきた「行為の正当化」と「防護の最適化」についても再検討の必要性を示唆している。同委員長は、これまでの「ALARA」(すべての被曝は合理的に達成できる限り低く)に代えて「ALARP」(合理的に実行できる限り低く)を採用するとともに、「最も多量に被曝するグループの代表的な構成員の線量管理」を放射線防護の2本の柱に据える考えを表明した。なお、公衆に対する現行の年間1ミリシーベルトという被曝限度は不要になるとの考えも明らかにした。


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