[原子力産業新聞] 2000年5月25日 第2039号 <2面>

[低レベル放射線影響] 直線仮説に疑問

ラッキー教授ら講演

放射線と健康を考える会は19日、東京電力の協賛のもとに東京・千代田区のホテルで、セミナー「低レベル放射線の健康影響−直線仮説に対する疑問」を開催した。

放射線に関しては防護の観点から、「どんなに微量であっても有害」とする仮説(直線仮説)を前提として、極めて厳しい規制と管理が行われているのが現状だが、このセ ミナーは「健康影響」をテーマに、「ホルミシス効果」ほか最新の科学的知見に基づく内外の専門家の講演や、参加者との質疑応答を通してこの「常識」に疑問を投げかけることがねらい。当日の会場には立ち見が出るほどの参加者が集まり、同問題に対する関心の高さを示していた。

会では3名の研究者から放射線と人体についての最新の研究結果などが発表されたが、その中で講演「生命にとって必要な放射線」を行ったT.D.ラッキー米国ミズーリ大学名誉教授は、冒頭に「多すぎると害になるが、少なすぎても害になるものは非常に多く存在するが、放射線も同様」と、直線仮説に疑問を提示。また原子力関係労働者のガンによる死亡率や日本の被爆者の白血病の発症率が平均に比べて著しく低いというデータを挙げるとともに、突然変異率や不妊症、免疫強化などにも低線量放射線を浴びた方が良好な結果が出ているとの実験結果を紹介し、「今までは放射線の有害性については多くが語られて来たが、有効性についての研究はほとんどされて来なかった。低線量放射線は利益があるばかりでなく、むしろ必須であり、我々の多くが放射線欠乏状態にある」と、その有益性を強調した。

また同氏は、これからは「放射線でガンを予防する研究」や、「どうやったら安全に放射線照射を受け、健康増進を図るか」というような研究を進めるべきと今後の方針を示し、最後に「どのデータを見ても、低線量放射線を浴びると良い影響が出るというものばかリだ。直線仮説を支持する人は、悪い影響が出るというデータを示して、私を説得してくれ」と述べ、「しきい値」の存在を強く訴えた。


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