[原子力産業新聞] 2000年5月25日 第2039号 <2面>

[インタビュー] 村上原研理事長に聞く

ITER、日本立地に期待

「総合研究機関として、各自それぞれが着実に成果を出していけるよう頑張っていきたい」−。さる4月に日本原子力研究所の新理事長に就任した村上健一氏は本紙インタビューに答え、このように抱負を語る。

−まず抱負を伺いたい。

村上理事長
 皆さんからよく聞かれるが、「ない」とお答えしている(笑)。承知のように原研は特殊法人であり、決められた路線を走っている。私としてはこれまでの理事長が進めてこられたことを着実に進めていきたいと考えている。これがありふれたことだが抱負と言えば抱負だ。ただ現在原子力長期計画とか科学技術基本計画など色々な見直し作業が進んでおり、それに伴って必要があれば、舵の切替えと言えば大袈裟だが見直しが必要となればやっていかなければと思っている。

−21世紀に向けた原研の役割をどう考えるか。また「原子力」という名称は残るのか。

村上理事長
 名称については、今のところ原研内部でも外からも変えるという話はない。ただ大学などで名称を変えている所もあることは承知している。長計や科学技術基本計画等で名称を変えた方がよいということになれば「ない」ということは言えないが、今のところそういう話はでておらず、皆誇りをもってやっている。
 現在、原研は核融合、研究炉、中性子科学、光量子、放射線利用、先端基礎、安全性・保健物理、国際協力など先端的、総合科学、国際貢献など幅広い研究領域を探究しており、私はこれを「おにやんま」(複眼構造)と言っている。「広げ過ぎ」という意見もあるが、今申し上げた所を中心に着実に成果を挙げていくことが重要だと考える。生活の身近な所で役立つ放射線利用から中性子科学のような世界でも先端的な研究の他に、大強度陽子加速器建設、高温工学試験研究炉(HTTR)や国際熱核融合実験炉(ITER)などの大プロジェクトも抱えている。総台研究機関としての研究デパートがそれぞれの分野で着実に成果を出せるよう頑張りたい。なおJT-60については6月半ば頃までに改造に着手するかどうかを決めていきたい。

−科学技術庁と文部省との統合に原研として何を期待するか。

村上理事長
 統合するのは役所であって、その結果、原研の法律が変わったわけでもないので直接的には大きな変化はない。しかし文部省の研究所と一緒に仕事をしてみて感じたことだが、両者はカルチャーも違い、大いに触発されてお互いの向上に役立っている。我々としてもそういうことにも今後期待している。大学はどちらかというと基礎的な研究、知的な活動で物を見つけるとか捜し出すということだが、原研はどちらかというと実験するとか、物を製造するとか組み立てるとか工学的なことをやってきた。その両者が監督官庁が一緒になるのだから、そういった意味で思った以上の知的触発が図られ、研究者にとっていい環境になると思う。

−ITER計画がいよいよ建設・立地に向けて詰めに入っているが、日本の研究開発の中核である原研としての対応は。

村上理事長
非公式準備協議が3極で始まり、科技庁、外務省、文部省、原研などがメンバーになって来月に中間報告がでて、今年末に報告が出されることになっている。それで来年から本協議に進むことになる。来年7月にはコンパクトITER作業が終了し、EDAそのものが終了することになる。焦点は日本に誘致するかどうかだが、ITERは本体が約5,000億円、誘致するとインフラに約500億円、それに本体費用の6割程度の負担となる。懇談会の評価がどうなるか、最後は政府の判断となるが、超伝導コイルなど日本のメーカーの機材製造能力はすごいものがある。原研は当然ながらITER建設し、日本に立地されるよう期待している。

−現在、原子力長期計画策定作業が進められているが。

村上理事長
実は昭和35年の第1回長計の時、当時の担当課長で亡くなられた村田浩氏の下で策定作業に携わったことがあるが、今回は先月に理事長としてメンバーになったばかりで、今は勉強中でもある。メンバーであるのに希望というのは可笑しいが、あえて言うと明るいビジョンとして、可能な限り具体的な、できるだけ分かりやすい、明るくて希望のある長計になってもらいたいと思っている。


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