[原子力産業新聞] 2000年5月25日 第2039号 <5面>

[理研] 世界最高の磁場達成

超伝導ウィグラー、10.3テスラ達成

 理化学研究所はこのほど、高輝度光カ科学研究センターと協力し、国際科学技術センター(ISTC)を通じて、ロシアのブドカー原子核物理研(BINP)と共同で超伝導ウィグラーを開発し、今年の1月から「SPring-8」の試験施設で組み立て試験運転を行っていたところ、超伝導ウィグラーとしては世界最高10.3テスラを達成した。

 一般に超伝導ウィグラーは、電子(または陽電子)蓄積リングの直線部に挿入する強力磁石で、強い磁場で電子ビームの軌道を曲げることによって高エネルギーX線を発生させる装置だ。

 これまでの超伝導磁石の線材は主にニオブチタンが用いられており、この場合は、8.0テスラを超える磁場を実現することは困難で、最も強力とされるものでも、兵庫県立姫路工業大学の「New Subaru」が持つ8.2テスラが限度だった。

 理研は、米・欧州連合・日本が中心となって運営するISTCを通じて、96年以来ロシアにあるBINPと共同で、三ポールからなる高性能超伝導ウィグラーの開発研究を行ってきた。本年1月から「SPring-8」の組み立て調整実験棟で、同ウィグラー単体での組み立て試験運転を行っていたところ、2月に超伝導ウィグラーでは世界最高10.3テスラを達成。

 今回組み立て試験を行っている超伝導ウィグラーは、液体ヘリウム漬けとなっており、4.2Kに保たれている。その外側は、断熱のため真空に保たれており、2枚の銅の熱遮蔽板(それぞれ20K、80K)で囲まれている。超伝導電磁石は三つのポールで構成されており、中央のポール部は三つのコイルが巻かれており、最内部のコイルがニオブ3スズ、残りはニオブチタンでできている。中央部が10テスラ、外側が1.9テスラとなるよう設計している。

 今回の成果で、超伝導電磁石が10テスラという高い磁場を達成したのは、中心コイルの線材にニオブチタンとニオブ3スズを用いて臨界磁場を大きくしたことによる。ニオブ3スズはニオブチタンと比べ非常にもろく扱いが難しいとされてきたが、線材を安定に製作する技術を確立した。

 このような強磁場の超伝導ウィグラーを電子蓄積リングに設置すると、高エネルギーのX線が得られ、特に「SPring-8」のような電子蓄積リングに設置した場合、これまでにないメガ電子ボルト領域のX線が得られ光源としての能力がさらに高まる。


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