[原子力産業新聞] 2000年6月1日 第2040号 <2面>

[長期計画] 第5分科会、報告書まとめ

幅広い利用推進を提言

 原子力委員会・長期計画策定会議の第5分科会(座長・久保寺昭子氏、佐々木康人氏)は5月26日、報告書案「国民生活に貢献する放射線利用」について議論し、概ね了承した。放射線に対する国民の理解が進み「むやみに怖がらず正しく扱う」ことで、豊かな生活が実現するよう原子力利用の一環として、その利用を推進していくことを求めている。

 報告書ではまず、今世紀初めの原子と核エネルギーの発見、その軍事利用による犠牲を日本が世界で唯一被ったことを挙げて、原子力利用に「光と影」があると指摘。一方で工業・農業・医療等、身近なところで広く放射線が活躍しており、その危険性を正しく理解した上で上手にコントロールすれば、安全に取り扱うことができる「非常に応用範囲の広い便利な道具」と位置づけ、また環境への負荷を極力抑えた省エネ・リサイクル社会への移行が求められる21世紀においては、放射線は有害な化学物質や加熱・冷却処理に替わることなど、社会の二ーズに適していると評価している。

 続いて、放射線についての基礎知識を啓発し内容の理解を助けるべく、原子の仕組み、放射線の種類、物質への影響、利用の歴史、幅広い応用、危険性などを説明している。幅広い利用の実態については、@透視するA壊さずに厚さなどを測るBふるまいを探る(トレーサー)C性質を向上させる(高分子材料の耐熱性・強度)D微細に加工するE衛生を確保するF害虫を駆除する−といった特長を生かし、医学利用、食品照射、農業利用、工業・環境保全利用の各分野で活躍し、GDPの約1.7%(97年度)を占める経済規模を生んでいることにも言及。

 「安心につながる安全を確保するために」は、まず広島・長崎の被爆体験を通じて得られた、主に低線量被曝の生体影響について述べ、今後とも原子力安全確保の基本とすべく総合的に研究を推進することをうたっている。また、放射線防護では化学物質の影響等、他のリスク源と比較するなど「リスクバランス」を考えることが安全確保上重要だと述べている。特に、緊急被曝医療体制の構築・国際協力は被爆国日本の責務との認識。

 放射線利用の促進に向けて、@情報公開と共有A人材育成B研究環境の整備C法的規制の合理化−のそれぞれ角度から必要な方策をこれまでの検討結果から論じ、報告書末では提言を掲げ、今後省庁横断的な協調が円滑に図られるよう、原子力委が強力なリーダーシップをとっていくことを訴え結んでいる。


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