[原子力産業新聞] 2000年6月22日 第2043号 <面>

[ドイツ] 政府と電力4社、既存原発の運転年数で合意

平均32年で発電枠設定、再処理輸送は今後5年以内に実施

 ドイツの大手原子力発電会社4社とシュレーダー首相の反原子力政権は15日、既存原子力発電所の個々の運転期間が平均32年間となるよう発電電力量に上限を設けるとともに、新規発電所の建設は行わないことなどを盛り込んだ段階的な脱原子力政策で合意に達したと発表した。この取決めによれぱ今後5年間は再処理のために使用済み燃料を外国に輸送することが許されるほか、実際に最後の原子炉が運転を終えるのは2020年代初頭になる計算。連立政権の一翼である線の党が主張した原子力からの即時撤退とはかなり異なる内容に落ちついた。この合意により、約20か月に及んだ両者協議の膠着状態に一応の決着がついた形で、合意項目は今後、原子力法で担保するため、政府が作成する改正法案に盛り込まれる予定だ。(1面に解説、4・5面に合意文書掲載)

 今回、電力会社を代表して取決めに署名したのはVEBA社、VIAG枇、RWE社、およびバーデン・ビュルテンベルク・エネルギー(EnBW)社の4社。電力側としては、合意期間内であれば「原子力発電所の妨害のない運転とバックエンドが保証された」と受け止めているほか、経済的に意味ある発電所の利用を進める上で欠かせない柔軟性を得ることになると述べ、支持可能な妥協と評価していることを明らかにした。

 既存発電所の運転制限についてはまず、個々の発電所の営業運転開始から数えて32暦年という通常通転期間をベースに2000年1月1日以降の残余運転期間を計算。次に個々の発電所について90年から99年の期間のうち年間発電力量の最も多かった5年分の平均値を算出し、これをベースに全原子力発電所の基準発電力量(長期停止中のミュルハイム・ケールリッヒ発電所を除く)を年間1,609億9,000万kWhとする。残余運転期間中の出力増強や技術改良などを考慮すると実際の年間発電力量は基準発電力量を5.5%上回ると考えられるため、5.5%上積みした基準発電力量に残余運転期間を乗じて発電所ごとの残余発電力量を求めたとしている。

 20基全部の2000年1月1日以降の残余発電電力量を合計すると2兆6,233億kWhとなるが、個々の発電所が残余発電力量を発電し終えた時、または、発電粋の譲渡により変更された発電量に達した時的で、その発電所に与えられた運転権が消滅することになる。

 ここでは、訴訟のため長期停止中だったミュルハイム・ケールリッヒ発電所の発電量粋1,072億5,000万kWhをほかの原子力発電所に譲れるよう配慮されている。同発電所を所有するRWE社はこれと引き替えに同発電所の運転再開を断念するほか、ラインラント・プファルツ州政府を相手取って起こしていた損害賠償請求訴訟を取り下げることになった。

 残余運転期間中は引き続き高い安全水準を維持していくことで双方の見解が一致しており、電力会社は指定された期限までに安全状態解析(SSA)と確率論的安全解析(PSA)を実施し、その結果を監督官庁に提出することになっている。税法など経済的な粋組み条件に関しても、連邦政府は一方的な措置で原子力利用を差別的に扱わないことを保証している。

 バックエンドについては、電力会社は可能な限り速やか(遅くとも5年以内)に原子力発電所サイト内か近郊に使用済み燃料の中間貯蔵施設を設置することとし、施設が完成するまではサイト内に暫定貯蔵することとする。使用済み燃料は2005年7月1日以降、直接最終処分に限定されるため、この時点までは再処理を目的とする外国への輸送を許す。輸送分については再処理を認める。

 ゴアレーベン岩塩鉱は安全上、概念上の諸問題が解明されるまで最短3年から最長10年の間調査を中断する。コンラット最終処分場については、即時執行命令を付けずに最終確認決定が発行されることになり、これら二つの最終処分場プロジェクトの維持が確認されている。

 これらの取決め内容は、新規原子力発電所の建設と運転を禁止する条項とともに改正原子力法に盛り込まれるが、このほかに共同取決めの実施を補助するための高級作業部会が設置される予定だ。内閣官房長官を座長とするこの部会は参加企業と連邦政府の代表者それぞれ3名で構成され、通常年1回、この取決めに盛り込まれた申合せの実施状況を共同で評価することになる。


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