[原子力産業新聞] 2000年6月22日 第2043号 <6面>

[NEI-insight] 米原発、99年は記録的な実績

発電量が大幅に増加

 米国の原子力発電所は1999年、いまだかつてないほど効率的に大量の発電を行った。発電能力と比べて実際にどれだけ発電したかをみる際の指標となる設備利用率は11月までで86%を記録し、98年同期の79.6%と比べて大幅に上昇した。

 また昨年10月までの合計発電量は8%増え、98年の総発電量である6,737億kWhをすでに超えてしまった。

 こうした中で、いくつかの原子力発電所では記録的な実績が報告されている。

 アリゾナ・パブリック・サービス社=パロベルデ原子力発電所は、304億kWhを発電し、同発電所としてだけでなく、国内の原子力発電所としての新記録を打ち立てた。また、設備利用率も93%で、同発電所としての新記録を樹立した。

 カロライナ・パワー&ライト社=ロビンソン、ハリス、ブランズウィックの各原子力発電所による総発電量は前年の255億kWhから260億kwhに増加、6年連続で記録を更新した。

 コモンウェルス・エジソン社=同社が所有している10基の原子力発電所の平均設備利用率は89.4%を記録、また発電量も前年の12基による総発電量より45億kwhほど増え過去最高を記録するなど、同社としては記録ずくめの年となった。ブレードウッド、クアドシティーズ、バイロン、ドレスデンの各原子力発電所は、過去最高の設備利用率を記録した。

 デトロイト・エジソン社=フェルミ2号機は100.3%の設備利用率を記録した。また発電量も、過去最高の94億8,000万kWhとなった。同機の設備利用率は、米国内の沸騰水型炉(BWR)の中で最も高かった。

 ドミニオン・ジェネレーション社=ノースアナとサリーの両原子力発電所は283億kWhを発電し、これまでの記録だった272億kWhより4%増加し同社としての最高記録を打ち立てた。これら4基の平均設備利用率は95.2%で、98年に達成した91.7%の記録を更新した。

 デューク・パワー社=オコニーとカトーバの両原子力発電所は、それぞれ198億kWh、179億kWhを発電し、ともに過去最高を記録した。

 ネブラスカ・パブリック・パワー・ディストリクト社=クーパー原子力発電所は、発電量が65億kWh、設備利用率が96.8%で、ともに過去最高を記録した。

 ニューヨーク発電公社=インディアン・ポイント3号機とフィッツパトリック原子力発電所は合計で138億kWhを発電し、これまでの両機の合計発電量記録を10億kWh以上超えた。

 ノザン・ステイツ・パワー社=プレーリーアイランドとモンティセロの両原子力発電所は合計で133億2,000万kWhを発電し、95年の132億4,000万kWhという過去最高記録を更新した。

 ペコ・ニュークリア社=同社の原子力発電電力量は363億kWhとなり、97年に打ち立てたこれまでの記録である347億kwhを更新した。リメリック原子力発電所は183億kWh、ピーチボトム原子力発電所は180億kWhを発電した。

 サザンニュークリア・オペレーティング社=ジョージア州のハッチ原子力発電所は、98年に記録した128億kwhを更新し、130億kWhを発電した。アラバマ州のファーリー1号機も96年の発電量記録を更新し、72億kWhを発電した。

世界的にも優れた米国の原子力発電所

 米国の原発の運転実績を世界のレベルで見てみると、マグローヒル社が発行しているニュークレオニクス・ウィーク誌の調べによれば、1999年に世界全体で増加した発電量の増加分の85%を米原発が占めたことになる。発電量でみると、世界の上位50にランクされている原子力発電所のうちほぼ半数が米国の原子力発電所であった。

また設備利用率では、上位10基のうち6基が米国の原子力発電所であった。

▽バージニア・パワー社のノースアナ1号機(第1位)

▽アリゾナ・パブリック・サービス社のパロベルデ3号機(第2位)

▽コモンウェルス・エジソン社のブレードウッド1号機(第4位)

▽サザン・ニュークリア・オペレーティング社のファーリー1号機(第6位)

▽バージニア・パワー社のサリー1号機(第7位)

▽TVA社のセコヤー1号機(第8位)

 米国の原子力発電所は世界全体の25%を占めているが、設備利用率でみると、上位50基のうち40%を占めている。

運転指標に示される関係

 どの指標をみても、1999年の米国の原子力発電所は際だって優れている。これは単にこれまでになく効率的に運転されたというだけでなく、これまでになく安全に運転されたということである。原子力発電所の運転実績に関するどの指標をみても、米国の原子力発電所は2000年の目標を−いくつかのケースでは大きく上回っている。

 原子力発電所の安全を確保する−89年以降、米国の原子力産業界は、万一、発電所が一時停止した場合、発電所を安定した状態に保つための三つの重要な非常用安全システムのパフォーマンスをモニタリングしてきた。世界原子力発電事業者協会(WANO)の米国の原子力発電所に関する最新のデータによれば、昨年、これらのシステムについて、89年時の95%を上回る96%の有効性が確認されており、これは2000年の目標値を10ポイントも上回っている。

 もう一つの安全指標は、計画外自動停止件数の中央備(スクラム率)のおよそ1年ごとの推移である。この数値は、3年連続でゼロとなっている。

 安全性は産業安全事故率でもはかられる。産業安全事故率は、80年の20万人・時間あたり2.1件から、99年には0.34件まで低下した。ちなみに、98年における米国の民間企業の産業安全事故率は、20万人・時間あたり平均2.9件だった。なお、昨年の数値については、労働統計局から入手できる。

 発電量からみると、熱エネルギーから電力へのエネルギー転換は、発熱率が低下していることからみてとれるように、効率化してきている。発熱率が低くなればなるほど、発電所の熱効率はアップする。また、計画外のエネルギー・ロスの最小化と定期検査および燃料交換の合理化により、発電量も増大している。平均設備利用率は、1980年の62.7%から昨年には88.7%まで上昇した。

 「多くの電力会社は、これまで20年間、原発の安全性および信頼性が連続して向上し続けてきたことから、原子力発電の将来について楽観的である」と、米国の原発の運転実績を追い続けてきた原子力発電運転協会(INPO)のグレイ・レイディッチ副会長は語った。「1999年のWANOの運転実績指標で終わりになるわけではない。原子力産業の新たな歴史の次の章の始まりなのだ」

 NEIのラルフ・ビートル副理事長も「電気事業の規制緩和と競争激化により電力業界がどのように変わろうと、安全確保は原子力産業の最優先事項なのだ」と語った。

ノウハウ・経験を分かち合う

 原子力発電所の運転実績が著しくアップしたのには秘密がある。分からない?答えは情報や経験そしてアイデアの交換にあるのだ。

 こうした情報交換を行うという考えは、別に目新しいものではない。原子力発電所は、これまで20年あまりにわたり情報交換を行ってきている。重要なのは、開発競争の最中でさえ、こうした情報交換が行われ続けてきたということだ。原子力発電所の職員は、業界全体を対象としたベンチマーク(水準向上)・プログラムを通じて、お互いに話し合いを続けている。この結果、原子力発電所の効率はより改善され、発電コストは下がり続けてきた。

 これらの成果は定量的にみることができ、ベンチマーク・プログラムの価値を高めている。専門家チームは、各作業プロセスに関する経済モデルを用いて、たとえば燃料交換時の放射線作業や費用対効果が高い作業など、最も効率的かつ効果的な作業プロセスを洗い出すため、全ての原子 力発電所を対象としたスクリーニングを行う。その後で、専門家チームは全ての原子力発電所を調査し、訪問の対象となる複数の発電所を選択。訪問時には、優れた実績の裏にあるものを学びとるためのインタビューを行う。

 このベンチマーク・プログラムこそ、米国の原発の劇的な発電量増加と設備利用率向上の根幹である。これまでの数年間で、米国の原子力発電量は、基数が6基も減少したにも関わらず、1994年の6,400億kWhから昨年(概算値)の7,200億kWhまで増加した。また、設備利用率も1994年の75.1%から昨年の86.8%まで上昇した。ベンチマーク・プログラムは、原子力産業界が競争時代を迎えるための準備にも役だった。原発を運転する電力会社の中は、事業戦略の一環として、他社の原発を買収する企業がある。

しかし、買収した原子力発電所はそれぞれ異なっている。これらの発電所の水準を自社のプラントとどのように一致させていくか?その際、このベンチマーク・プログラムのモデルが役立つのだ。これを用いることで、原子力発電所を買収した電力会社は、全ての主要な作業プロセスについて自社の基準を作り上げることができる。たとえ競争時代になっても、電力会社がこの協力を継続することはほとんど疑いない。

 サザン・カンパニー社のアレン・フランクリン社長/C00もまた、競争時代になっても、電力会社は相互利益の観点を失うべきではないと考えている。「間違いを犯しても、その見地を分かち合うべきだ」とフランクリン社長は語った。


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