[原子力産業新聞] 2000年6月29日 第2044号 <3面>

[国連科学委員会] チェルノブイリ事故の影響で報告書

長期健康影響見出せず、甲状腺がんの増加は認める

 国連放射線影響科学委員会(UNSCEAR)は7日、「甲状腺がん患者の増加を別にすれば、チェルノブイリ事故による放射線の長期的な健康影響を裏付ける科学的な証拠はない」と断言する報告書を公表した。

 この見解は同委員会が国連総会に毎年提出している世界の放射線源と健康影響に関する報告書の今年の特別付属書の一つとして述べられている。同事故の国連機関による科学評価としては、約5年前にWHOがまとめた報告書に次ぐもの。

UNSCEARの結論は、チェルノブイリ事故の放射線影響について一般の人々の多くが抱いている認識、例えば「今後数十年間の間に数万人ががんで死ぬ」などとは際立ったコントラストを示している。すなわち、事故後14年が経過したが、ウクライナその他の地域で被曝した大多数の人々が長期的に深刻な健康影響を被るという明確な証拠はないとするものだ。

 同委員会は科学的な評価を実施した結果、同事故で被曝した子供たちのうち約1,800人が甲状腺がんに罹っており、今後も増加する恐れがあることを認める一方、「それ以外の全般的ながんや死亡率の増加が事故による被曝と直接結びつくような科学的な根拠は何もなかった」と明言。潜伏期間の短い白血病のリスクに関しては、「現場の復旧作業者の中でさえ増加は見られなかった」と明言している。また、被曝線量が最も高いレベルの人々についてはこのリスクの増大が懸念されるとしたものの、大人数の人々がチェルノブイリ事故による放射線で深刻な健康影響を受けるとは考えにくいとの判断を示した。

 同委員会はさらに、その他の疫学調査や基礎的な放射線研究の結果から放射線被曝によるがんの発生リスクを評価しているが、主な情報源は広島と長崎で被爆した人達の寿命調査。同委はこのグループで、がんもしくは白血病で亡くなった7,500人のうち約5%は放射線の影響によるものだとしている。

 また、すべての年齢層および性別で見た場合、1,000ミリシーベルト(mSv)を急激に浴びた後がんに罹って死亡する生涯リスクは男性で約9%、女性で約13%となっている。なお同委は、自然放射能による世界の一人当たりの年間平均被曝線量は2.4mSvである事実に言及した。

 このように比較していけば、UNSCEARの報告書は、世界中の人々が年間に受ける放射線の中で最も顕著なものは自然界からの放射線(2.4mSv)であることを重ねて強調。二番目が医療行為による被曝(0.4mSv)であり、大気圏内の核実験(0.005mSv)やチェルノブイリ事故の余波(0.002mSv)、通常の原子力発電所による被曝(0.002mSv)が全体に占める割合など微々たるものだと訴えている。


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