[原子力産業新聞] 2000年8月3日 第2049号 <2面>

[原研] 来年度予算要求まとめ

安全・危機管理など「社会技術」研究に着手

日本原子力研究所は、新たに社会技術研究に着手するほか、大強度陽子加速器施設の建設などを柱とする2001年度の予算概算要求をまとめ、7月18日の原子力委員会会合で説明を行った。予算要求額は約1,355億円で、今年度認可予算額より12%の増額要求となっている。

同研究所では、来年度事業計画の基本的考えとして、新たに策定される科学技術基本計画や原子力長計等を踏まえ、科学技術の総合的な発展に貢献する先端的研究と先導的原子力研究開発を中心とした研究活動を進めるとしている。先端的研究分野としては、中性子、放射光、レーザー、荷電粒子を利用した物質材料・生命科学等に重点を置いた研究を推進。さらに、新たに持続的発展可能な社会の実現に寄与する社会技術研究を開始する。一方、先導的研究開発においては、ITER 計画や将来型炉、高温ガス炉の研究開発を進める方針。

研究項目別に要求額を見ると、総合原子力科学研究と位置づけられる研究のうち、中性子科学研究に91億8,000万円、光量子・放射光科学研究に74億2,000万円、高度計算科学研究に56億4,000万円、さらに新規項目の社会技術研究に50億円などとなっている。原子力エネルギー研究開発分野として、核融合研究開発に146億円、高温工学試験研究に42億8,000万円。安全性研究については35億7,000万円が計上されている。

文部省の高エネルギー加速器研究機構との共同プロジェクトとして来年度より開始される大強度陽子加速器施設計画に基づき、加速器や基幹施設等の整備を含め中性子科学研究に関連し、前年度認可額より約60億円増の約92億円を計上している。同計画は核破砕中性子源による中性子を用いて、生命・物質科学研究の発展に寄与するものと期待されている。

新規に盛り込まれた社会技術研究は、人文社会科学と自然科学との融合を図り、環境・福祉・安全等、社会や国民生活に密接に関わる分野の技術に適用しようというもの。「安全社会システムの総合設計」「危機管理・セキュリティ技術に関する研究」「安全性拡充のための社会心理学的装置・技術の開発」「供給安定、経済性、環境保全に配慮した最適エネルギー戦略の導出」等の研究に50億円を要求している。

先導的な原子力研究開発として、将来型エネルギーシステム研究では、高度燃焼・長期サイクル運転、プルトニウムの多重リサイクル、低減速スペクトル炉の研究を行うほか、核融合研究では、コスト解析や安全解析を反映した ITER 工学設計を完了させる。高温工学試験研究炉 (HTTR) を中核とする高温工学試験研究では、HTTR の出力上昇運転を経て定常運転に移行し、安全性確認と高温試験運転時の原子炉システムの諸特性を評価する予定。

保健物理研究としては、低線量放射線の生体影響を解明のための放射線リスクに関する研究や、放射能被曝線量の測定評価の研究等も進めることにしている。


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