[原子力産業新聞] 2000年8月24日 第2051号 <4面>

[NEI-insight] カルバートクリフス原発、米で初の運転認可更新

40年にさらに20年

3月23日、午後2時15分、リチャード・メザーブ米原子力規制委員会 (NRC) 委員長は歴史を作った。メリーランド州でカルバートクリフス原子力発電所 (各88万kW、PWR 2基) を運転するコンステレーション・エナジー・グループに対し、同発電所をさらに20年間運転することが可能になったと伝えたのが、まさにその瞬間である。メザープ委員長は電話で同グループの会長兼社長であるとともに最高経営責任者でもあるクリスチャン・ポインデクスターに、同発電所の当初の運転認可である40年を更新する申請を NRC が認めたことを告げたのだ。

ちょうど23と半か月前、コンステレーション・エナジー社は NRC に対し、米国で初めて運転認可の更新申請を提出した。NRC による申請の検討はほぼ2年近くかかったが、ポインデクスター会長は、同社が提出した2,500ページに及ぶ書類の作成には10年がかかったと話している。同氏は、そうした長い年月にわたって安全や健全性、品質に対して責任を果たしてきた何千人にも及ぶ同社の職員の努力を賞賛した。

NRC が検討にあたって主眼を置いたのは、運転認可の更新が環境に及ぼす影響だけでなく、運転認可の更新に代わる方法、たとえば石炭火力や天然ガス火力発電所の検証であった。NRC 事務局は、「カルバートクリフス原子力発電所の運転認可の更新は、生態や人の健康、大気の浄化という点からみてもほんのわずかの影響しか及ぼさないとみられる」と指摘している。しかしながら、原発の代わりに石炭火力やガス火力発電所を建設することになれば、中程度の規模から重大な規模の環境影響がもたらされることになるものとみられる。

大気の浄化という点からみると、(1)石炭火力発電所は二酸化硫黄や窒素酸化物、微粒子状物質、一酸化炭素、フライアッシュ、スクラバー・スラッジなどを発生する。(2)天然ガス火力発電所は窒素酸化物を発生する。(3)カルパートクリフス原子力発電所は何も排出しない。

環境面からみると、同発電所の運転認可を更新することは的を射ている。経済的にも道理に適っている。ポインデクスター氏は3月24日の記者会見で、「 kW あたり11ドルの設備を170万kW 得たことになる」と語った。エネルギー省のエネルギー情報局によると、改良型の新しい出力40万kW のガスコンバインド発電所を建設するにはkWあたり約580ドルがかかるとみられる。新しい出力40万kW の石炭火力発電所は、kWあたり約1,100ドルがかかるとみられる。さらに言えば、実績の優れた原発の発電コストはkW時あたリ約2〜2.5セントである。新しいコンバインドサイクルガス火力発電所の発電コストは約3〜3.5セント/kW時、また新しい石炭火力発電所の発電コストは約4〜4.5セント/kW時である。

コンステレーション・エナジー社・原子力担当副社長のチャールズ・クルーズは記者会見で、発電所の運転を延長するにあたって鍵を握っているのは、発電所の老朽化を理解することと、これをうまく管理することであると語った。同氏は、「カルバートクリフス発電所では、必要とされた老朽化管理プログラムの96%がすでにあることが分かった」と説明。そうした96%のうち、4分の3が改修の必要がなく、残りの4分の1が強化の必要があったとしている。

クルーズ副社長は、カルバートクリフス発電所の運転認可更新は、3者に利益をもたらすものであると位置づけた。つまり、消費者にとっても、環境にとっても、そして同社の利益と国益にとっても役立つということである。クルーズ氏は、運転認可の更新は原子力に対する信頼を示すものであると語った。

得られた教訓

コンステレーション・エナジー社は運転認可の更新の開拓者として、かなりの知見と経験を得た。クルーズ氏は、得られた教訓を以下のようにまとめている。

  • 運転認可の更新に特徴的な老朽化による影響はない。
  • 発電所サイトでの現在の検査活動などによって、老朽化は費用効果が高い方法で管理されるということが保証される。
  • 地元の強力な支持はもちろん、あらゆる利害関係者との効果的なコミュニケーションが欠かせない。
  • 運転認可更新にかかるコストと、その手続きに要する期間を大きく減らせることができるとみられる。

コンステレーション・エナジー社のポインデクスター氏は3月24日の記者会見で質問に答え、運転認可の更新にかかるコストはおそらく半分に減らすことができ、将来の申請では現在の2,000万ドルから1,000万ドルになるだろうと答えた。カルバートクリフス発電所では、申請の作成から承認まで10年かかったが、将来的には、これを5年にすることができるとみられる。

さらに多くの原子力発電所が申請へ

カルバートクリフス発電所は、運転認可を更新する米国初の原子力発電所である。しかし、最後ではない。米原子力エネルギー協会 (NEI) のジョー・コルビン理事長は3月24日の記者会見の揚で、さらに多くの原子力発電所で運転認可の更新が検討されていると語った。

NRC は現在、デューク・エナジー社、エンタジー社、サザン・ニュークリア社の3社が所有する6基の原子力発電所の運転認可更新申請を検討している。これ以外にも、多くの電力会社が運転認可の更新を申請する意向を NRC に示しており、原子力発電所の基数は全部で22基に達する。最終的には、現在稼働中の4分の3を超える原子力発電所で運転認可の更新が行われるとみられている。


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