[原子力産業新聞] 2000年8月31日 第2052号 <4・5面>

新原子力長期計画の概要 (2)

原子力の研究、開発及び利用の将来展望から


原子力の研究、開発及び利用に当たって

国と民間の役割の基本

原子力研究開発利用は、国民生活や経済基盤を支えるエネルギー供給や科学技術の振興という国の基本的政策に関連していること、極めてエネルギー密度の高いエネルギーや放射線を扱うことに起因して厳絡な安全確保がなされなければならないこと、核不拡散への対応等の外交面での対応の必要性を有していること、研究開発に当たって長期的な取組を必要とすることなどの特徴を有している。したがって、国は、原子力研究開発利用に係る基本的方針を明らかにするとともに、安全規制等の法的ルールの設定とその遵守の徹底や、平和利用を担保し事業の円滑な実施を図る国際的枠組みの整備を進めること、万が一の事故に備え地方自治体等と協力して防災等の危機管理体制を整備しておくこと、さらに、長期的観点からの基礎的・基盤的な研究開発の推進と必要な人材の育成を図ることなど所要の措置を講じていくことを基本的な役割としている。

現在既に原子力発電、核燃料サイクル事業及び放射線利用の多くは、これまで国及び民間事業者による技術開発の成果も踏まえ、民間事業者において行われているが、今後とも民間事業であることのメリットをいかしつつ、安全確保を大前提にこれらの事業の円滑な推進が図られるよう、意欲ある民間事業者による投資活動と技術開発への積極的な取組が期待される。

その際、エネルギー分野では、国は長期的観点からエネルギーの安定供給の確保や地球環境問題に係る国際的約束を果たすために必要な対応方針を明確に示して、国民の理解を求めるとともに、民間の自主的な活動に伴う原子力発電の規模が、原子力発電の果たすべき役割を踏まえた目標を達成するものとなるよう、状況に応じて誘導することが重要である。

(略)


国民・社会と原子力の調和

1.安全確保と防災

安全確保の取組

国は、国民の生命と財産を守る観点から、厳格な安全規制を行う責務を有している。国においてはウラン加工工場臨界事故を踏まえて強化された原子炉等規制法に基づき事業者の保安規定の遵守状況の検査等を行うこととされ、また、原子力安全委員会は、設置許可後の行政庁による規制の状況を調査により把握、確認するなど安全規制の強化を図ることとされているが、その際、規制する側と規制される側との間に健全な緊張関係が確固たるものとして構築、維持されるよう、最善の努力を行うことが必要である。

本来国民一般に禁止されている事業を許可を受けて行う事業書は、安全確保の第一義的責任を有しており、その責任は重大である。事業者は、自主保安活動によって、安全確保の実効性を上げるとともに、経営責任者が安全を最優先させる考えを組織内全体に徹底させるため、最善の努力を行うことを期待する。また、研究者、技術者の育成に当たっては、安全についての教育を充実させていくことが必要である。さらに、事故を機に、原子力関係者によってニュークリアセイフティーネットワーク等が設立されたが、これらを通じて産業界全体として安全意識の高揚や情報、経験の共有化を進めるとともに、原子力産業全体としての倫理の向上に努めることが期待される。

(略)

原子力防災の取組

安全確保のためにいかなる取組がなされたとしても、事故発生の可能性を100%排除することはできないとの前提に立って、事故が発生した場合の周辺住民等の生命、健康等への被害を最小限度に抑えるための災害対策が整備されていなければならない。今後、住民の理解を得つつ、国、地方自治体、事業者が連携協力して原子力災害対策特別措置法の実効性を確実なものにするよう努めることが必要である。

2.情報公開と情報提供

情報公開の在り方

情報は、国民が原子力行政や事業者の信頼牲について判断する基礎となるものであり、国や事業者は、組織内での情報の所在や責任の明確化等を行い、国民の必要とする情報について、明確な情報開示の基準の下、通常時、事故時を問わず、適時、的確かつ信頼性の高い情報公開を行うことが必要である。

情報提供の在り方

また、国民の原子力に対する理解促進を目指す情報提供に当たって、国、事業者は、タイムリーであり、専門家でなくとも分かりやすく、情報の受け手側の多様なニーズを踏まえることが必要であり、加えて、事故時においては、迅速な情報提供が重要である。情報提供の手法としては、草の根的な情報提供、双方向のコミュニケーション、インターネット等の新たな媒体を用いた情報提供等を体系的に組み合わせて実施することが重要である。その際、国や事業者は、原子刀活動の便益、意義はもとより、原子力活動に伴うリスクについて、自然放射線や身の回りの他のリスクを含めて広く国民に説明することが重要である。また、今後は、リスクについて関係者が相互に情報や意見を交換、評価し会い、その過程の中で、関係者間の理解レベルの向上が図られるようなコミュニケーション (リスクコミュニケーション) の考え方に基づいて国民と原子力に関するコミュニケーションを図っていくことが必要である。

(略) 3.原子力に関する教育

原子力に関する教育は、エネルギー、環境、科学技術、放射線等の観点から、体系的かつ総合的にとらえることが重要である。このため、各教科における学習の充実とともに新しい学習指導要領において新設された「総合的な学習の時間」等の活用、教育関係者の原子力に関する正確な資料や情報の提供、教員への研修の充実、さらに、教員が必要な時に適切な情報や教材等が提供されるよう、教員、科学館、博物館、原子力関係機関、学会等を繋ぐネットワークの整備を図ることが重要である。

(略) 4.立地地域との共生

原子力施設の円滑な立地のためには、まず、電力の消費者である国民が我が国のエネルギー問題の現状についての理解に立って、電源の立地に対する理解を深めることが重要である。このため、国、事業者は原子力発電によって電力供給を受けている電力消費地の住民と立地地域の住民との間の相互の交流活動等を充実させることが必要である。

また、原子力施設立地地域の佳民の理解と協力を得るためには、原子力施設の安全確保や災害対策が適切になされていることに加え、原子力施設の運転を通じて事業者と地域社会が共に発展し共存共栄するという「共生」の考えが重要である。

(略)


原子力発電と核燃料サイクル

1.基本的考え方 (略) 2.原子力発電の着実な展開

既設の原子力発電プラントの中には運転開始後既に相当の年限を経ているものもあるが、それらのいわゆる高経年プラントの安定運転の維持は、エネルギーを安定的に供給する上で重要である。10年ごとに行われる定期安全レビュー等の機会に、国内外の高経年プラントの経験を踏まえて、機器や素材の経年変化を早期に検出する点険活動を重点的に実施するとともに、その結果に基づいて適切な予防保全活動を行っていくことが重要である。安全規制に関しては、国はリスク評価技術の進歩を踏まえ、合理的な安全規制の在り方について絶えず検討して、実現を図っていく必要がある。例えば定期検査の柔軟化や長期サイクル運転、熱出力を基準にした運転制限への変更等が検討課題である。また、これらに必要な新しい技術情報や方法論を提供する研究を充実していく必要がある。なお、国は、規制を効果的かつ効率的に行うことができるよう、専門的な民間の第三者認証機関を、事業書の原子力施設の運転管理や品質保証の監査、評価業務に活用していくことや、さらに、国際化時代にあって、我が国の技術基準と国際基準を整合させていくことを検討することが必要である。

(略) 3.核燃料サイクル事業

3-1 天然ウランの確保

(略)

3-2 ウラン濃縮

世界におけるウラン濃縮役務市場の需給は、当面の間供給能力過剰で推移すると予想されている。しかし、中長期的に見れば不安定になることも想定しておくことが重要であり、我が国として、濃縮ウランの供給安定性や核燃料サイクルの自主性を向上させていくことは重要である。その観点等から、現在稼動中の六ヶ所ウラン濃縮工場については、これまでの経験を踏まえ、より経済性の高い遠心分離機を開発、導入し、同工場の生産能力を1,500トンSWU/年規模まで着実に増強しつつ、安定したプラント運転の維持及び経済性の向上に全力を傾注することが期待される。

(略)

3-3 軽水炉による混合酸化物(MOX)燃料利用(プルサーマル)

(略)

プルサーマルの経済性については向上の余地があるが、こうしたプルサーマルの技術的特性、内外の利用準備や利用実績、安全性の評価を踏まえれば、我が国としては、この計画を着実に推進していくことは適切である。したがって電気事業者には、プルサーマルを計画的かつ着実に進めることが期待される。

その際、1999年に発生した英国における MOX 燃料の品質管理データ改さんのような国民の信頼を失う問題が再び起こらないよう、事業社は品質保証体制を強化するとともに、国は適切な規制を行うことが重要である。

プルサーマル計画を進めるために必要な燃料は、海外で回収されたプルトニウムを原料とするものについては、海外の MOX 燃料加工エ場で製造されているが、国内において回収されたプルトニウムを原料とするものについては、国内で加工されるのが合理的である。そこで、民間事業者には、六ヶ所再処理工場の建設、運転と歩調を合わせて国内に MOX 燃料加工事業を準備することが期待される。この場会、核燃料サイクル開発機構からの技術移転や海外からの技術も参考とすることで、我が国において MOX 燃料加工事業が早期に産業として定着するよう、最善の努力を行うことが期待される。

3-4 軽水炉使用済燃料再処理

(略)

我が国は、核燃料サイクルの自主性を確実なものにするなどの観点から、今後、使用済燃料の再処理は国内で行うことを原則としており、民間事業者は、我が国に実用再処理技術を定着させていくことができるよう、この我が国初の商業規模の再処理向上を着実に建設、運転していくことが期待される。なお、この再処理工場や中間貯蔵の事業が計画に従って順調に進捗していく限り、海外再処理の選択の必要性は低いと考えられる。また、この問題については、国際輸送に伴う沿岸諸国の動向を考慮することが重要である。核燃料サイクル関発機構は、現在、東海再処理施設において、従来の再処理に加え、高燃焼度燃料や軽水炉使用済 MOX 燃料等の再処理技術の実証試験等を行うこととしており、これらの成果は将来に重要な貢献をもたらすと考えられるので、成果について段階的に評価を受けながら実施することが必要である。

六ヶ所再処理工場に続く再処理工場は、これらの研究開発の成果も踏まえて優れた経済性を有し、ウラン使用済燃料の再処理を行うだけでなく、高燃焼度燃料や軽水炉使用済 MOX 燃料の再処理も行える施設とすることが適当と考えられるが、さらに、今後の技術開発の進捗を踏まえて、高速増殖炉の使用済燃料の再処理も可能にすることも考えられる。したがって、この工場の再処理能力や利用技術を含む建設計画については、六ヶ所再処理工場の建設、運転実績、今後の研究開発及び中間貯蔵の進展状況、高遠増殖炉の実用化の見通しなどを総合的に勘案して決定されることが重要であり、現在、これらの進展状況を展望すれば、2010年頃から検討が開始されることが適当である。

3-5 使用済燃料中間貯蔵

使用済燃料の中間貯蔵は、使用済燃料が再処理されるまでの間の時間的な調整を行うことを可能にするので、核燃料サイクル全体の運営に柔軟性を付与する手段として重要である。我が国においては1999年に中間貯蔵に係わる法整備が行われ、民間事業者は2010年までに操業を開始するべく準備を進めているところである。今後は、中間貯蔵を適切に運営、管理することができる実施主体が、安全の確保を大前躍に、事業を着実に実現していくことが期待される。

(略) 4.放射性廃棄物の処理及び処分

放射性廃棄物は、原子力発電所や核燃料サイクル施設から発生するもの (これには海外委託再処理に伴い返還されるものを含む) が大部分を占めるが、大学、研究所、医療施設等からも発生する。その安全な処理及び処分は、これを発生させた者の責任においてなされることが基本であり、また、国はこれらの処理及び処分が安全かつ適切に行われるよう所要の措置をとることが必要である。

4-1 処分に向けた取組

(略)放射性廃棄物は、放射能レベルの高低、含まれる放射性物質の種類等が多種多様であることから、発生源にとらわれず処分方法に応じて区分し、具体的な対応を図ることとする。

地層処分を行う廃棄物

(略)

高レベル放射性廃棄物

我が国では、再処理で使用済燃料からプルトニウム、ウラン等の有用物質を分離した後に残存する高レベル放射性廃案物は、安定な形態に固化した後、30年から50年間程度冷却のための貯蔵を行い、その後地層処分をすることとしている。現在、既にガラス固化された高レベル放射性廃棄物の貯蔵が青森県六ヶ所村で開始されており、その発生時期とその後の冷却期間を考慮して、2030年代から遅くとも2040年代半ばまでには処分を開始することを目途とする。

処分地選定に当たっては、選定の主体である実施主体だけではなく、国及び電気事業者が協力して進めることが住民の理解と信頼を得る上で重要である。このため、国は政策の説明、地域共生方策に関する制度や体制の整備などを行うことが必要であり、電気事業者は廃棄物の発生者として国民の理解を得るための活動を進め、また、立地について多くの経験を有する立場から処分地の選定を実施主体と一体となって行うべきである。

また、高レベル放射性廃棄物の地層処分技術のうち、最終処分事業の安全な実施、経済性及び効率性の向上等を目的とする技術開発は、実施主体が担当するものとし、国及び関係機関は、最終処分の安全規制、安全評価のために必要な研究開発や深地層の科学的研究等の基盤的な研究開発を積極的に進めていくことが必要である。特に、核燃料サイクル開発機構等は、これまでの研究開発成果を踏まえ、今後とも深地層の研究施設、地層処分放射化学研究施設等を活用し、地層処分技術の信頼性の確認や安全評価手法の確立に向けて研究開発を着実に推進することが必要である。

また、深地層の研究施設は、学術的研究の場であるとともに、国民の地層処分に関する研究開発の理解を深める場としての意義を有し、その計画は、処分施設の計画と明確に区分して進めることが必要である。

さらに、処分に対する人々の信頼を得ていくためには、事業のすべての段階を通じて情報公開を徹底し事業の透明性の確保に努めることが重要である。

高レベル放射性廃棄物以外の放射性廃棄物

高レベル放射性廃棄物以外にも、地層処分が必要な放射性廃棄物が存在する。これらの放射性廃棄物は、その性状が多様であるため、高レベル放射性廃棄物処分研究開発の成果も活用しつつ、合理的な処分に向けて、その多様性を踏まえた処理及び処分に関する技術の研究開発を、発生者等が密接に協力しながら維進することが重要である。

分離変換技術

(略)

管理処分を行う廃棄物

(略)

4-2 原子力施設の廃止措置

商業用発電炉、試験研究炉、核燃料サイクル施設等の原子力施設の廃止措置は、その設置者の責任において、安全確保を大前提に、地域社会の理解と支援を得つつ進めることが重要である。

また、商業用発電炉の跡地は原子力発電所用地として、地域社会の理解を得つつ引き続き有効に利用されることが期待される。

4-3 廃棄物の発生量低減と有効利用の推進

廃棄物については発生量低減や有効利用が必要であり、そのための研究開発を積極的に推進していく必要がある。放射性廃棄物の有効利用については、関係者及び関係行政当局が連携して、十分な安全確認の在り方を確立することを前提に、再利用の用途やシステムの構築等を幅広く検討していくことが重要である。また、放射能の濃度がいわゆるクリアランスレベル以下の廃薬物については、放射性物質として扱う必要のないものであり、一般の物品と安全上は同じ扱いができるものである。

これらは合理的に達成できる限りにおいて、基本的にリサイクルしていくことが重要である。

5.高速増殖炉サイクル技術の研究開発の在り方と将来展開

5-1 高速増殖炉サイクル技術の位置づけ

先進国の中でも特に際だったエネルギー資源小国である我が国は、エネルギーの長期的安定供給に向けて資源節約型のエネルギー技術を開発し、日本及び世界における将来のエネルギー問題の解決を目指し、その技術的選択肢の確保に取り組んでいくことが重要である。高速増殖炉サイクル技術はそのような技術的選択肢の中でも潜在的可能性が最も大きいものの1つとして位置付けられる。

(略)

5-2 高遠増殖炉サイクル技術の研究開発の方向性

(略)

高速増殖炉サイクル技術のうち、最も開発が進んでいるものは、MOX 燃料とナトリウム冷却を基本とする技術である。他の選択肢との比較評価のベースともなるもので、同技術の評価をまず優先して行うことが必要である。

5-3 高速増殖炉サイクル技術の研究開発の将来展開

もんじゅ

原型炉「もんじゅ」については、高速増殖炉サイクル技術の研究開発の場の中核として位置付け、安全の確保を大前提に、立地地域を始めとする社会の理解を広く得つつ、早期に運転を再開し、発電プラントとしての信頼性の実証とその運転経験を通じたナトリウム取扱技術の確立という初期の目的を達成する。

「もんじゅ」は、最も開発が進んでいる MOX 燃料を用いたナトりウム冷却型の炉であるとともに、発電設備を有する高速増殖炉プラントとして世界的にも数少ない施設であり、高遠増殖炉の将来の研究開発にとって国際的に見ても貴重な施設である。このため、「もんじゅ」及びその周辺施設を国際協力の拠点として整備し、内外の研究者に開かれた体制で研究開発を進め、その成果を広く国の内外に発信する。

長期的には、実用化に向けた研究開発によって得られた要素技術等の成果を「もんじゅ」において実証するなど、燃料製造及び再処理と連携して、「もんじゅ」を実際の便用条件と同等の高速中性子を提供する場として有効に活用していくことが重要と考えられる。

(略)

実用化に向けた展開と研究開発評価

高速増殖炉サイクル技術の研究開発に当たっては、社会的な情勢や内外の研究開発動向等を見極めつつ、長期的展望を踏まえ進める必要がある。そのため、高速増殖炉サイクル技術が技術的な多様性を備えていることに着目し、選択の幅を持たせ研究開発に柔軟性をもたせることが重要である。

具体的には、高速増殖炉サイクル技術として適切な実用化像とそこに至るための研究開発計画を提示することを目的に、炉型選択、再処理法、燃料製造法等、高速増殖炉サイクル技術に関する多様な選択肢について、現在、核燃料サイクル開発機構において電気事業者等、関連する機関の協力を得つつ実施している「実用化戦略調査研究」等を引き続き推進する。

高速増殖炉の実証炉の具体的計画については、実用化に向けた研究開発の過程で得られる種々の成果等を十分に評価した上で、その決定が行われることが適切であり、実用化への開発計画について実用化時期を含め柔軟に対応していく。

(略)
Copyright (C) 2000 JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM, INC. All rights Reserved.
Copyright (C) 記事の無断転用を禁じます。