[原子力産業新聞] 2000年10月5日 第2057号 <3面>

[スイス] 住民投票で原発閉鎖を否決

64%が運転継続支持

スイスで9月24日に行われた住民投票で、原子力発電への課税を盛り込んだ3種類の国レベルの提案と、ミューレベルク原子力発電所を早期に閉鎖する州レベルの提案すべてが圧倒的多数で否決されていたことが明らかになった。

ベルン州の州民投票では、首都ベルンから14kmの地点に立地するミューレベルク原子力発電所 (37万2,000kW,、BWR) を2002年までに早期閉鎖する提案について是非が問われた。この提案は98年10月に連邦政府が同発電所の運転認可を2012年まで更新することを認めたため、これに異議を唱える反原子力活動家達が発議していたもの。結果的に64%の州民が同発電所の運転継統を支持。早期閉鎖を望む州民の比率は36%に留まった。

ミューレベルク発電所は運転会社である BKW 社の総発電電力量の4割を供給している。州政府および州議会は、同発電所の早期閉鎖により年間で5,000万スイスフランに相当する収益創出メカニズムが打撃を受けるだけでなく、BKW 社にとっても2億5,000万フランの財政損失につながり、環境保全上好ましくない電源からの電力輸入を相当量強いられるとして、この提案には反対の意向を示していた。原子炉の早期閉鎖はまた、州民の権利や電力会社株主達の事業にも影響を及ぼすことから憲法上、法制上、深刻な問題が浮上することも懸念されていた。

一方、国レベルで是非が間われたのは新しいエネルギー税の導入に関する3つの提案で、このうち2つについては連邦政府も支持を表明していた。すなわち、1つは原子力も含めた非再生可能エネルギーに kW 時あたり0.02フランの課税を目指した憲法改正に関する提案で、これは55%の国民に反対された。もう1つは非再生可能エネルギー源に対して10年間にわたって kW 時あたり0.003フランの課税を見込んだ「ソーラー動議」で、これも53%の反対票に阻まれている。また、非再生可能エネルギー源に kW 時あたり0.005フランの税を20年間かけようとする提案は68%という大多数から却下される結果になった。

スイスの主要な新聞である Neue Zurcher Zetiung 紙では「ソーラー動議」導入の最大の狙いの1つが「スイスの電力需要の4割を賄う原子力を間接的に潰すこと」だったと分析。投票結果は思いもよらず、スイス国民の中に原子力支持の意見が育っていることを明確に示した形になったと指摘している。


スイス産業界、投票結果を歓迎

スイス原子力発電協会 (SVA) は9月25日、今回の住民投票の結果を歓迎する声明を発表した。

SVA はまず、2対1と言う大差でベルン州民がミューレベルク発電所の運転継続を支椅した事実に言及。「州民は原子力が環境保全の切り札であることをよく認識しており、経済的に競争力のある電源の運転停止を望んでいない」と強調した。また、ベルン州での明快な投票結果は国民レベルの見地から見ても、スイスが京都議定蟹の CO2排出抑制目標を深刻に受け止めており、CO2を排出しない原子力発電の継続利用という現実的な方法によってこれを実現しようと言う明確なシグナルだと指摘した。


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