[原子力産業新聞] 2000年10月12日 第2058号 <4面>

[原研] 計算科学で報告会開催

原子力科学技術、来世紀への期待示す

日本原子力研究所 (村上健一理事長) は10月6日、東京・千代田区の東京国際フォーラムレセプションホールで、「平成12年度成果報告会」を開いた。

「計算科学」をメインテーマに、最新の活動報告と質疑応答、研究内容を紹介するパネル展示と説明が行われた。

IT (情報技術) 革命と呼ばれる時代を迎え、社会生活や産業が大きく変化しつつあるなかで、研究開発手法の革新に重要な役割を果たしている「計算科学技術」。「理論」および「実験」と並ぶ第三の研究手法として、実験を先導し新たな知見の獲得やモデルの構築を助けるなど、21世紀の原子力科学技術を切り拓くものと期待されている。

今回の成果報告会では、特に「高度シミュレーションと複雑現象の解明」という副題で、計算科学が原研の研究活動において、どのように活用されているかが紹介された。

このなかで「21世紀における計算科学の役割と期待」をテーマに講演した。研究所の浅井清理事は、原子炉の炉心特性や核融合プラズマなどの解析に先進の計算科学技術が大きな役割を果たしている状況を概説し、今後も、革新的な量子コンピュータの開発により、さらに新たな境地が期待できることを述べた。また、研究機関を高速ネットで結び情報の共有などを促進する高度情報技術をベースにしたネットワークの中核となる構想を計画していることを明らかにした。

また中川正幸特別研究員は「コンピュータが描く原子炉の世界−原子炉炉心特性の高精度シュミレーション」と題して報告し、従来の決定論的な解析手法に代わる高速・高精度モンテカルロ計算の実現によって可能となった超詳細モデルによる炉心特性解析の現状などを説明した。モンテカルロコードは、実験や経験などに依存しない計算方法であるため、新型炉の挙動解析に威力を発揮するという。PWR 炉心の詳細な特性解析や高温工学試験研究炉 (HTTR) の炉心解析に用いた分析では、高精度の挙動解析が可能との見通しを得たことを明らかにした。

「コンピュータによる多彩なプラズマの世界」と題して計算科学が切り拓く核融会プラズマ物理の世界を解説した炉心プラズマ研究部の狐崎晶雄部長は、大型計算機の発達によって、2,000万個にのぼるプラズマ粒子の挙動シミュレーションの結果などを示した。プラズマ全体の揺らぎ構造の解明など基礎的な研究が進んだことで、核融合開発の核心ともなるプラズマ流の発生や閉じ込め性能の改善に役立つ知見が得られたという。現在こうした研究を国際的に進める協力体制を構築し、リアルタイムでのネットワークをベースにした国際協力の基盤が整備されるなど、計算科学技術の役割を強調した。


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