[原子力産業新聞] 2000年11月23日 第2064号 <3面>

[フィンランド] 5基目の原子炉計画が始動

既存原発サイトに軽水炉

フィンランドの大手電力会社であるティオリスーデン・ボイマ社 (TVO) は5日、新規原子力発電所の建設に関する原則決定を政府に求める申請書を国家審議会に提出した。これは同国で5基目となる原子炉の建設に向けた許認可手続きの中でも約2年を要する初期手続きが開始されたことを意味している。閣僚達は今後、このプロジェクトがフィンランド社会に及ぼす影響やさまざまな関係団体の意向を考慮して判断を決定。それが肯定的なものであれば議会の裁可を仰ぐ段階に到達し、そこで承認を受けて初めて、TVO による建設認可の申請が可能になる。

TVO は新規原子力発電所プロジェクトを始動させることにより、株主達が必要とする追加の電力を確保するとともに、再生可能エネルギーと合わせて京都議定書に示された CO2 の削減目標を達成することが可能になると強調。廃止に向けて劣化していく原子炉のリプレースにもなるほか、長期的には国内の発電設備を充実させることにつながり、電力価格は安定し、これを予測することも容易になると訴えている。また、発電コストや燃料コストの安さという観点からも、原子力は自由化された北欧電力市場に非常に適していると指摘した。

TVO の申請によれば、新規原子炉は国内の既存炉4基と同じく軽水炉になる予定で、出力は100万〜160万キロワット程度。現在同国で稼働しているロビーサ、オルキルオトの両発電所サイトのどちらかに立地する可能性がある。同国が原子力に関して豊富に有している高水準の専門的知見は新規原子炉の建設・運転にも生かされる予定で、2つの既存サイトには十分なインフラも整備されているほか、放射性廃棄物を管理する設備や手続きについても実績がある。このような観点から新規炉への投資や発電コストを大幅に減らせるとの認識を示した。最終的には原子炉の規模にもよるが、TVO は実際の投資総額を100億〜150億マルカ (1,600億〜2,400億円) 程度と見積もっていることを明らかにした。

TVO はまた、新規電源として原子力を選んだ理由の1つに環境への付加価値があると説明。国家経済に照らし合わせて京都議定書に示された CO2 削減目標値を可能な限り経済的に達成するために、「新規の原子力発電設備を提案したい」というのが同社の考えであることを強調した。さらには、複数の研究調査が遅くとも2010年代には競争力のある新規電源が必要との結果を示していたことに言及。TVO 理事会のT.ラジャラ議長は、「将来にわたってエネ供給源の多様性を維持できるよう、追加電源の建設に今こそ着手すべきであり、それは原子力によって達成される。また、それと同時に長期的な電力供給と電力価格の安定をも確保することになる」と明言した。


エネ連合会は実行可能性を分析

TVO による新規原子炉計画の申請に合わせてフィンランドのエネルギー産業連合会 (FINHRGY) は同日、さまざまな側面からこのプロジェクトの実行可能性を検証し、「環境保全や経済的な観点からも同プロジェクトの推進は妥当」との見解を明らかにしている。

エネルギー戦略

FINERGY はまず、フィンランドのエネルギー戦略に係わる政治的な環境を次のように説明。すなわち、社会民主党主導の現政権は大気汚染の防止を最優先に、すべての電力供給オプションを維持する政策を取っており、技術的、経済的、もしくは環境保全的にも有効なオプションが除外されることはない。緑の党の党首でもあるS.ハッシ環境相は、もし政府がTVO の申請を受入れ、議会もそれを承認するような事態になれば緑の党は政権からの離脱も辞さないと宣言。社会民主党は慎重な対応を党員に呼びかけているが、保守系の議員は同プロジェクトを支持しており、概して政治家達の過半数は原子力オプションに賛成と思われる。

電力需要

気候条件や産業構造の影響によりフィンランド国民の1人当たりの電力消費量は高い。産業界は総電力量の55%を消費しているため、べースロード電源に対する需要が大きくなっている。FINERGY が実施した最近の調査では、産業界の電力消費量は次第に増加しており10〜15後以内に全体の60%に達するとの結果がでている。ここではエネルギー効率の強化対策を考慮して見積もっているが、産業界はすでに可能な限りの策を講じており、これ以上の効率化は難しい。こうした背景からフィンランドでは現在の年間電力消費量800億キロワット時が2015年までに970億キロワット時に増大すると予想され、この年までに新たに380万キロワット分の電源が必要になるはずだ。

電力の安定供袷

フィンランドは燃料輪入国であるだけでなく、電力も北欧およびロシアの市場から輸入している。自由化された北欧の電力市場は水力発電を基盤としているため、電力価格や供給量は水力発電所の実績に大きく依存。出水率の高かった年と低かった年で発電量の差は最大740億キロワット時に達することもあり、これはフィンランド一国の年間消費量にも匹敵している。

経済性

国内のラッピーンランタ工科大学が行ったエネルギーの経済性調査によると原子力発電所が年平均の設備利用率64%以上で運転した場合、施設工事費のほかに燃料費、運転コスト、放射性廃棄物の管理費も含めても石炭やピート、天然ガス火力と比べ、原子力が新規発電設備としては最も低コストだったという結果が出ている。過去10年間の実績を見ても国内の既存原子炉4基は年間の平均設備利用率91.2%という世界でも最高の記録で稼働している。

環境保全

フィンランドは京都議定書に示された CO2 排出削減目標の達成を目指しているが、通常の産業活動を維持するシナリオと比較すると必要な削減量は20%のオーダーに達しており、EU 緒国の中では最も苦しい努力を強いられることになるだろう。

使用済み燃料の管理

フィンランドでは現在、通産省が使用済み燃料の最終処分場をオルキルオト原子力発電所の近郊に建設する原則決定申請について審査を続けており、年内にも政府見解が明らかにされる見込み。ここで肯定的な判断が下された後は議会による承認が必要となるが、地元住民の大多数はすでに同計画に賛成の意向を示している。

結論

この10年間で国内の原子力発電所は総需要の20%を賄うまでになった。FINERGY としては政府および議会がともに、「原子力は社会全体に好影響を及ぼす」との判断を下すと確信している。新規の原子炉はまた、再生可能エネルギーなど新たな発電システムの開発を可能にすることからフィンランドには必要だ。京都議定書の目標を満たそうとするなら、将来さらに、6基目の原子炉が必要となる日も来るだろう。


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