[原子力産業新聞] 2000年11月23日 第2064号 <4面>

[レポート] 高温ガス炉−展望と実用化に向けて (1)

東京工業大学教授 関本 博

高温ガス炉は1960〜80年代に建設、運転された後、その実用化計画は一時停滞した。しかし最近、小型モジュール高温ガス炉は固有の安全性が優れかつ経済性でも軽水炉、火力等と競合し得るとの評価から、発電や解体プルトニウム燃焼処理等を目的に、それぞれ南アや米国−ロシアで実用化計画が推進されており、再び世界の注目を浴びるようになりつつある。一方、我が国でも98年に、原研の高温工学試験研究炉 HTTR が初臨界を達成。核熱利用へ向けての技術開発計画が進められている。

原産「原子炉熱利用に関する将来展開検討会」 (主査・筆者) では、このような状況を踏まえて、高温ガス炉の開発と利用に関する検討を約1年間に亘り行い、今年3月首題の報告書をまとめた。以下に検討結果の概要を紹介する。

検討会では、まず (1) 同炉の開発が、当初の大型化開発路線から固有の安全性を活用した小型モジュール炉へ移行した経緯、および優れた安全性などの特長を整理し、続いて (2) 世界的なエネルギー需給想定による原子力の伸びの予想、環境およびエネルギー問題に対する同炉の導入効果を評価した。併せて (3) 技術開発、経済性、規制体系、国際協力と日本の役割から見た実用化への課題と方策を、更に (4) 早期に実用化が可能な発電炉と長期に亘る開発が必要な熱利用炉について導入シナリオを作成し、これに基づき国内立地と海外立地の場合の実用化に向けた施策について検討した。最後に、これらの検討結果を踏まえ、国に対して以下の提案を行った。

[提案]

優れた固有の安全性を備え、経済性向上、高温核熱利用の可能性を持つ高温ガス炉は、地球環境やエネルギー安定供給等を解決する選択肢となり得る。従って、我が国のエネルギー政策の中に高温ガス炉の位置付けを明確にし、国主導の下に次の検討を進めることを提案する。

(1) 発電用として、実用化 (2010年代1号機建設を想定) に向けたフィージビリティ・スタディを実施し、次の観点から総合評価を行う。

(安全性、経済性、燃料サイクル、需要地近接立地、エネルギー安定供給と多様化、地球環境、核不拡散、産業や経済の活性化、近隣諸国の需要)

その結果、合意が得られれば体制を整えて、実用化に向けた開発準備を進める。

(2) 原研の HTTR 計画を着実に進め、更に実用化に必要な各種試験を行う。また、長期的視点で水素製造等高温熱利用の研究開発計画に取組む。なお、アジア向けの開発協力については、地球環境やエネルギー安定供給等の解決に重要な役割を果たし得るため、その方策を検討する。

1.高温ガス炉開発の経緯並びにその特徴と経済性向上

(1) 開発の歴史

高温ガス炉は当初、軽水炉等と同様に大型化路線が取られ、60〜80年代に米国、ドイツおいて10万kWt 級出力の実験炉、30万kW 級出力の原型炉が建設・運転された。しかし、79年の TMI 事故以降、一般公衆の原子力への不安を背景にその固有の安全性を積極的かつ最大限に活用し、「設計基準外事故を想定しても燃料破損 (核分裂生成物の放出) 、が起こらないこと」を基本思想とした「小型モジュール炉」が開発の主流となった。同炉の設計概念は独国において規制当局から認められたが、経済性の問題と原子力反対連動の高まりにより、実現に至らなかった。その後、中国では、HTR-10 試験炉の建設を、南アでは、小型モジュール高温ガス炉 PBMR 建設計画を進めている。同様に、米国、ロシア、フランス、日本の国際共同により GT-MHR の開発が進められている。我が国では、69年原研にて、高温ガス炉開発研究が開始され、その後試験研究炉 HTTR が建設されることとなり、98年初臨界を達成し、現在出力上昇試験中である。

(2) 最近の海外動向

1. 南アの PBMR 計画
南ア国営電力 ESKOM 社が、直接サイクルヘリウムガスタービン発電炉 PBMR (114MW) 10基からなる百万kW 級のプラントを建設する計画で、実証用1号機の詳細設計を政府の承認の下に行っており、運開は2005年頃になる見込みである。本計画には、欧州、米国、中国他が資本参加や技術協力を行っている。特に、英国 BNFL社、米国 PECO 社の資本参加や米国 NRC の許認可への協力表明は、計画の実現性を示唆し注目に値する。日本は、本計画と情報交換をしている。

2. 米国−ロシア等の GT-MHR 計画
直接サイクルヘリウムガスタービン発電炉 GT-MHR (285MW) の開発計画は、94年米国 GA 社とロシア原子力省の間で共同開発の同意が取り交わされ、現在、米・露・仏・日 (富士電機) の国際共同開発プロジェクトとして進められている。その目的は、核兵器解体プルトニウムを燃料とし、その燃焼消滅を達成しながら電力と熱を供給するものであるが、将来的には定濃縮ウランを用い商用発電プラントとして世界市場へ展開することを目指している。現在、米・露両国政府等の資金により詳細設計が開始されている。実証用1号機の運開は2010年頃を目指している。

3. 中国の HTR-10 計画
高温ガス炉を将来エネルギー供給の柱の1つとして、その開発を目指した10MWt の試験炉 HTR-10 計画が、92年に国家科学技術委員会により承認され、同炉の建設が清華大学核能技術設計研究院で進められている。今年末に初臨界達成の予定である。

4. その他
米国では、電力研究所、電力、投資家、大学、学会等が小型モジュ一ル高温ガス炉に興味を示しており、それをテーマにした技術課題の検討、基礎研究或いは国際会議の開催等が開始され出した。また、アイダホ国立技術環境研究所での高温ガス試験炉の建設構想が打ち出されている。

欧州ではユーラトム研究開発計画の一環として、EU 支援のもと、高温ガス炉研究開発が再び活発化しつつある。その他、インドネシアにおいて、高温ガス炉による発電や天然ガス改質などの検討が行われている。

なお、国内の HTTR 計画全容については、「高温工学試験研究の現状」(日本原子力研究所、98年) 等を参照されたい。

(3) 高温ガス炉の特徴

軽水炉主流の中、高温ガス炉開発が次世代炉として、注目を浴び出したのは、主に、直接ガスタービン発電システムが技術的に実現性を帯びてきて、蒸気タービン発電システムに比べ全体システムが極端に簡素化され経済性が改善されたこと、水系が存在しないのでそれに伴う技術的課題が消失したことによる。これ以外、次の特徴を有しており、これにより、大型軽水炉を凌ぐ更なる経済性の向上を実現する可能性が出てきている。

1. 優れた固有の安全性による経済性向上
高温ガス炉は、燃料として耐熱性に優れたセラミック被覆燃料粒子、冷却材に相変化のない化学的に安定なヘリウムガス、減速材に耐熱性に優れ熱容量の大きな黒鉛を用いている。

このような基本的特徴のもとに、設計基準外事故を想定した場合でも、原子炉のもつ固有の特性のみで、原子炉は自然に止まり、自然に除熱され、核分裂生成物質が放出されない設計が可能となる。その結果、次のような経済性向上が期待できる。

○非常用炉心冷却系、格納容器などが不要
○原子炉級品質機器最小化
○需要地近接が達成しやすいため送電コストを大幅削減できる

2. 熱効率向上
850〜950度Cという高温のガスが供給できるため、高効率発電 (発電効率45〜50%) が可能となる。

3. 標準小型モジュール設計によるコスト低減
標準小型モジュール (10万〜30万kW 出力) 化によって、シリーズ生産・工場製造範囲拡大・工期短縮等のコスト低減化が期待できる。

また、経済性以外、地球環境保全の解決策となり得る CO2 を放出しない水からの水素製造など原子力熱利用の拡大が可能であるとか、多様な燃料サイクルに対応可能であるなどの優れた特徴をもつ。

(次号に続く)

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