[原子力産業新聞] 2000年12月7日 第2066号 <2面>

[書評] 「エネルギー・自然・地域社会」 笹生 仁 著

−戦後エネルギー地域政策の一史的考察

本書は、副題が示す通り、敗戦直後から今日までのそれぞれの時期に、その道程において大きく寄与したエネルギー開発の必要性と開発に当たっての政策と施策について述べ、それを受け入れる側の地域社会の対応と、さらには両当事者のせめぎあいの中から解決策を見いだすまでの事象が簡明、率直に読みやすく記述されている。

本音は、序章「戦後エネルギー需給の動向と課題」、第一部「水質源開発と流域管理」、第二部「産炭地域の振興・再生の方途」、第三部「原子力施設立地と地域社会」で構成。

序章のなかで特に注目したいのは、末尾に記されている「各種エネルギーの隆替と地域政策的課題」だ。エネルギー産業を個別に見た場合、その事業の盛んな期間は20〜30年足らずだが、地域的な対応は初期的あるいは時限的なものでなく、国内炭の休閉山に伴う振興問題や原子力発電等の立地にかかる地域振問題にみられるように、20年の数倍に及ぶ中長期の取り組みを要しているという事実を具体的に地域毎に論じている。50年間続いてきた発送配電一貫事業体制が、おおげさに言えば30%も自由化の対象になるという、平成の「夜明け前」に際して、前述の見解は目先にとらわれず、超長期的視座によるべきとする、すこぶる貴重なものとして深く受け止めるべきだろう。第三部の中で、特筆すべきは、著者自ら10年毎に3回にわたり調査した福島、玄海地域の所見、電源三法制度についての見解、高低レベル廃棄物に対する今後の施策としての国および支援体制の整備等について、「立地地域」の「百年計画 (仮称)」構想が熱っぽく述べられている点だ。電源地域振興について、著者は末尾の章で広域的な電源地域振興計画の必要性を強調している。これはいわば広義の立地対策で、電源三法等に限定された狭義の対策とは別の構想だろう。恐らく著者の国内炭最盛期の頃の振興対策と休閉山後永らく続いた対策を基本とし、温かい視座からみた提示ではなかろうか。ご一読をお勧めしたい。 (田中好雄・元日本原子力発電副社長)

A5版、373頁。定価2800円 (税別)。ERC 出版刊。


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