[原子力産業新聞] 2000年12月14日 第2067号 <4面>

[高レベル廃棄物] 地層処分−その技術と信頼 (4)

サイクル機構の「2000年レポート」を紹介するシリーズ最終回は、非常に長期にわたる期間において、地層処分されたガラス固化体が溶け出し、放射性物質が岩盤や地下水などから移動し、仮に地表表面の人間の生活環境に影響を及ぼすような事態になった時、人体に対するその放射線影響はどの程度のものになるのか、健康には影響ないのか等についての報告を紹介する。サイクル機構では、同レポート策定後は更なる研究データの信頼性等の向上を図るため深地層の研究施設の建設計画を着実に進めるなど、実施主体と協力して地層処分の実現に向け研究開発に取り組んでいく考えだ。


安全性は長期に確保

安全性の評価をどう行うのか

地層処分の安全性にとって、とりわけ地層中に埋設されたガラス固化体の放射性物質が何らかの事情によって人間の生活環境に対して影響を及ぼすかどうかが重要である。

高レベル放射性廃棄物の放射能は数十万年以上もの長期間にわたり、また地層処分の対象となる領域は地下深部の天然の岩盤であることから、実際に施設をつくって直接実験によって地層処分の安全性を確認することはできない。

そこで、地層処分を実施した場合に想定される様々な現象を整理し、それぞれの現象の特性を実際の調査研究などの成果に基づいて理解した上で、各現象を組み合わせることで、将来、地層処分された高レベル放射性廃棄物がどうなるのかについての「シナリオ」を設定した。そして、そのシナリオとこれまでの調査研究で得られたデータなどに基づいて、人間の生活環境に対する影響についてコンピュータを用いた解析評価を行った。これまでに、サイクル機構では地質環境の情報などに基づき様々な現象を分類し、体系化することで現実的なシナリオを効率的に作成する手法や、それぞれの現象の特性についてのデータベースおよびコンピュータを用いた解析評価のための計算プログラムを開発してきた。

「接近シナリオ」は除外に

シナリオの設定に当たっては、地層処分で想定される安全評価上重要なあらゆる現象を抽出した後、「廃棄物 (ガラス固化体) と人間環境の距離が接近することを想定」したシナリオ (接近シナリオ) は、火山活動などのように処分場の場所を選ぶ際に避けることができるため除外できるものとした。また、処分場の施工不良などの設計や品質管理によって影響を回避できるものも除外した。処分場へのいん石の直撃のような、発生する可能性がきわめて低いものについてもシナリオから除外できるものとした。

重要なのは「地下水シナリオ」

地層処分の安全性の評価では、地下深部に存在する地下水によってガラス固化体から放射性物質が溶け出し、地下水によって生活環境に運ばれる可能性 (地下水シナリオ) が最も重要であり、これについて、わが国の現実的な地質環境のデータと人工バリアの仕様に基づく条件を設定した。

プログラムを開発

評価の対象領域については、人工バリア中での現象および、地下深部から地表近くまでの岩盤中での現象が対象となることから、空間的な広がりのスケールの差が大きいことを考慮して、計算プログラムを (1) 人工バリアの領域とその近くの岩盤 (2) その外側にある天然の岩盤の領域 (天然バリア)−とに分けた。

人工バリア中での放射性物質の移動の解析では、ガラスが溶け出すことや、緩衝材中での放射性物質の拡散、収着や沈殿などの影響を表現するとともに、周囲の岩盤中における地下水の動きの影響を表現できるプログラムを開発し、精密な計算を行った。

一方、天然の岩盤中での放射性物質の移動の解析では、岩盤中の割れ目における地下水の移動や、堆積岩中の不均質性の影響を表現できるプログラムを開発した。

これらの計算プログラムについては、計算による推定値と、サイクル機構の地層処分基盤研究施設や地層処分放射化学研究施設 (茨城県東海村) での実際の岩石を用いた室内試験や、岐阜県東濃地域、岩手県釜石鉱山での調査研究の結果とを比較することによって検証を行った。

漏洩ケースでも自然レベル以下

開発したそれぞれの計算プログラムを組み合わせることにより、地層処分全体の安全性を評価するための手法を整備した。

この手法を用いて、地下深部に埋設されたガラス固化体から放射性物質が漏れ出す場合を想定した生活環境への影響の程度について、データなどの不確実性や地質環境と処分場の仕様の多様性を考慮した様々なケースに対して、人体に対する放射線の影響 (放射線量) を指標として計算を行った。その結果、人間への影響が最大となるのは処分後約80万年後で、年間 0.005マイクロシーベルトであり、試算した放射線量の最大値は、全てのケースについてわが国の自然放射線レベル (年間900〜1,200マイクロシーベルト) および諸外国で提案されている基準値 (年間100〜300マイクロシーベルト) を下回ることが示されている。

地層処分の安全性の評価は、数万年にわたる将来の評価であるため、人間の生活様式や環境の変化などの不確実性がともなうことが考えられる。そのため、放射線量による評価を補完するために、河川や地下水中の天然放射性核種の濃度との比較評価を行った。その結果、地層処分によって天然の放射線レベルに有意な影響はないことが示されている。

期待される地層研究所での成果

今後は、地層処分基盤研究施設や地層処分放射化学研究施設、超深地層研究所 (岐阜県瑞浪市) 計画や深地層研究所 (仮称、北海道幌延町) 計画を進めることにより、事業化に向けたスケジュールと整合をとりつつ、さらに技術的な信頼性を向上させるための研究開発を展開していくことが必要である。(おわり)


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